第341回:タイヤにイノベーションを巻き起こす!?
ブリヂストンの最新技術を見て、乗って体感
2016.04.22
エディターから一言
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2016年4月上旬、栃木県那須塩原市にあるブリヂストンのテストコース「ブリヂストン プルービンググラウンド」で、メディア向けの技術体験イベントが開催された。そこで紹介された3つの技術を、イベントの様子とともにリポートする。
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まずは「プレイズPXシリーズ」の解説から
カリキュラムは午前中のプレゼンテーションと午後の体験試乗の2本立て。紹介された技術は主に3つで、2016年2月に発売された「Playz(プレイズ)PXシリーズ」の“疲れにくい”という性能、BMWの電気自動車「i3」に採用された次世代低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」の操縦性、そしてタイヤ内にセンサーを置く路面判定技術「CAIS」であった。
最初に説明されたのはプレイズPXシリーズである。このタイヤの売りは「運転が疲れにくい」という特徴と「低燃費&優れた耐摩耗性」を、バランスよく成立させたところにあるという。ちなみに「運転が疲れにくい」は、「無意識に行われる細かなハンドル修正」を減らすことで実現する。そのために、新しいトレッドパターンと非対称形状のタイヤ構造の採用、路面に対する接地性の最適化が行われた。これらの開発には、走行時のタイヤの状態をより詳しく観察できるブリヂストン独自の「アルティメットアイ」技術が大いに貢献したという。
また、低燃費&高いウエット性能&ロングライフ性能については、シリカの含有量を増やした新トレッドゴムで実現。さらに、セダン・クーペ、ミニバン、軽・コンパクトと、それぞれに専用のトレッドパターンとタイヤ構造を用いている。例えば、人や荷物をのせての直進走行が多いミニバンは、車高が下がってタイヤの内側が偏摩耗しがちなので、タイヤのイン側の溝を減らしたトレッドパターンを採用。軽・コンパクトカーについては、街乗りおよび駐車場での小回りや、据え切りなどによる偏摩耗を防ぐよう、イン側とアウト側のショルダーブロック剛性を高めたトレッドパターンを採用している。
「疲れない」という現象を最新技術で解析
今回の開発では、特に「疲れにくい」という特徴を実現するために、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科の准教授・満倉靖恵博士の協力を得た。満倉博士が開発した簡易型脳波測定感性評価キット「感性アナライザ」を使って、自分たちのタイヤが本当に疲れにくいのかを確かめたというのだ。
満倉博士の簡易型脳波測定感性評価キット、感性アナライザは、「現象を数式化することで、脳波などの意味を論理的に説明できるようにする」という過去20年にわたる研究から生まれたもの。8000人以上の脳波データを計測し、そこから得た情報を利用して人の感情を“見える化”したのが感性アナライザだ。ヘッドセットから脳波を計測して、そこから被験者の「興味」「好き」「ストレス」「集中」「眠気」の5つの感性を0~100%の数値でリアルタイム表示する。このシステムはすでに市販化されているもので、広く商品開発などに利用されている。
今回の開発で行われた試験は、従来品のタイヤとほぼ完成段階にあったプレイズPXシリーズを装着した2台の車両を数十人の被験者が乗り比べ、そのストレス度を計測するというもの。「すべての被験者においてストレスが軽減されている」という結果に、ブリヂストンの開発陣は大きく力づけられたという。
タイヤメーカーからイノベーションを提案
続いてはBMWの電気自動車であるi3に採用された次世代低燃費タイヤ、オロジックだ。このタイヤは、幅が狭く、直径が大きく、内圧が高められていることが特徴だ。一般的なコンパクトカーのタイヤサイズである185/65R15(内圧230kPa)に対し、オロジックは165/60R19(内圧320kPa)。これに交換するだけで、転がり抵抗は30%低減し、空気抵抗も4%弱低減。一方、燃費性能は約10%向上、さらにウエット性能も旋回性能で5%、制動性能で8%高まる。また操舵(そうだ)特性では応答・俊敏性と切れ味が向上するという。
燃費性能向上のカギは、大径化&高内圧化によるタイヤ変形の減少にある。また、幅が細くなることでタイヤ後方の空気の整流が改善されて、Cd値が向上。高速走行時の空気抵抗も減少するという。一方で、接地面は従来の横長から縦長に変化するものの、面積は同等でグリップ力は変わらない。これにより「転がり抵抗の少ないエコタイヤはコーナリングが苦手」という過去の常識をくつがえしたのだ。
ただし、オロジックは特殊なサイズなので、すでに存在する車両にそのまま装着することができない。新型車に専用タイヤとして採用されなければ、普及もおぼつかないというわけだ。そこでブリヂストンでは、各自動車メーカーにこのサイズのタイヤを履けるクルマの開発を働きかけているという。タイヤメーカーからサイズを提案するというのは、過去にない話。まさにブリヂストンのイノベーティブな姿勢を象徴するタイヤではないだろうか。
タイヤを使ってさまざまな情報をセンシング
3つ目のイノベーティブな技術が「CAIS」だ。これは「Contact Area Information Sensing」の略で、タイヤ内にセンサーを設置し、タイヤ自身に感じる能力を与えるというもの。空気圧を計測する技術はすでに知られているが、他にタイヤの摩耗状態や路面状況をセンシングすることができるという。今回、紹介されたのは、タイヤ内に加速度センサーを設置することで、路面状況を判別する技術であった。
システムはタイヤ内の加速度センサーと小型発電機、車体側の計測器で構成される。路面状況の判定は、タイヤの一部が路面に接地する瞬間と路面から離れる瞬間の振動(加速度)の変化を計測して行う。乾燥した路面と凍結した路面、積雪路面は、それぞれ異なる振動を発するというのだ。
ブリヂストンでは、こうした技術の開発を2000年代初頭から行ってきた。すべて社内で開発してきたため時間がかかったようだが、2015年冬にネクスコ・エンジニアリング北海道にて運用がスタート。これが、タイヤによる路面判別技術としては世界初の実用例となった。ネクスコでの利用は、「CAIS」を搭載した巡回車が高速道路を走行し、路面状況を100mごとに「乾燥」「半湿」「湿潤」「シャーベット」「積雪」「圧雪」「凍結」の7種に判別。その情報を受けた凍結防止剤散布車が、GPS情報を元にそれぞれの路面状況にあわせて凍結防止剤を自動で散布するというもの。必要な場所に必要なだけ散布できるため、効率のよい作業が可能となったという。
疲れないだけでなく、運転が楽しくなる
午後はテストコースに移動しての“実地”である。まずは先述した3つの技術とは別に、ウエット路面での制動にタイヤの溝がどれだけ大きく貢献しているかの実証が行われた。溝が十分に残っているタイヤと、スリップサインが出るまで摩耗させたタイヤで、同じ路面での制動を比較したところ、80km/hからの制動では約10mの差が出た。
続いては、その同じウエット路面を使って「CAIS」のシステムが作動するところを見学。使用されたのは、ネクスコ・エンジニアリング北海道に納品されたものと同じシステムを搭載した車両である。システムにはタイヤ内にある発電機から電力が供給されるため、車両が停止しているときは動いていない。スタートして車速が50km/hほどになるとシステムが作動し、路面の変化にあわせて車内にあるモニターの表示が「DRY」から「WET」へと変化するのを見ることができた。
その後は、テストコース内のパイロン設置エリアへ移動し、プレイズPXシリーズの試乗だ。まずはブリヂストンのスタンダードタイヤである「NEXTRY(ネクストリー)」で、スラロームを含むパイロンコースを走行。その後、プレイズPXシリーズを装着した車両で同じコースを走行した。するとプレイズPXシリーズではシャキッとした走り味を確認することができたのだ。スポーツタイヤのように思いのままにクルマが動くので、確かに修正舵が少ない。疲れないというだけでなく、運転が楽しくなることも、プレイズPXシリーズの魅力のひとつではないだろうか。
デメリットなしで優れた燃費性能が得られる
オロジックの試乗は、凹凸やアップダウンのあるハンドリング路で行われた。2台の日産リーフに「エコピアEX20」の205/55R16(250kPa)とオロジックの165/60R19(320kPa)を装着して乗り比べる。
最初に気づくのは、視線が高まったこと。同じ車軸に直径の大きいタイヤを履いているので、若干車高が高まっているのだ。スタートすると、ハンドルの切り始めが軽い。心なしか加速のダイレクト感も増しているようだ。凹凸を越えるときの衝撃についても、大径化が効いているのか、ショックが小さい。内圧が非常に高くなっているのだが、乗り心地の悪化は気になるほどではなかった。コーナリングのフィーリングは、ほぼエコピアと同じ。つまり、不安になるほど細いタイヤではあるが、走ってみれば意外と不満がなかったのだ。デメリットなしで、燃費性能を1ランク高める。さすが次世代をうたうだけのものであると感心するばかりだった。
製品としての長い歴史を持つタイヤ。黒くて丸いというルックスの変化がなくても、まだまだ技術的なイノベーションを可能としていることが分かるイベント体験となった。
(文と写真=鈴木ケンイチ)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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