スバル・レヴォーグ1.6STI Sport EyeSight(4WD/CVT)/レヴォーグ2.0STI Sport EyeSight(4WD/CVT)
新しい“STI”の試金石 2016.07.20 試乗記 「スバル・レヴォーグ」にSTI(スバルテクニカインターナショナル)が手がけた走りの新グレード「STI Sport」が登場した。“台数制限ナシ”で販売されるカタログモデルの「STI」の出来栄えと、そこに込められたスバルの思惑をリポートする。硬派な戦闘派と思いきや……
スバル・レヴォーグに「STI Sport」というモデルが追加されるからと試乗のお誘いをいただいたとき、僕の頭の中にポンと浮かんできたのは、ガツンとチューンナップの味が利いた硬派な走り屋系スポーツワゴンの姿。おそらく多くの人が似たり寄ったりなんじゃないか? と思う。
なぜなら、これまでSTIの名前が冠されたコンプリートカーはそういう方向性にあったし、そこにひとつの大きく確立された価値があったから。なにせスバルのモータースポーツに関わる分野を担ってきたのがSTIことスバルテクニカインターナショナルである。その分野に根ざした発想とその分野で磨いてきたテクノロジーを余すところなく市販モデルに盛り込んだSTIのコンプリートカーは、とても“後付け”には思えないほど完成度が高く、思いのほか洗練されてもいたけれど、同時にパフォーマンスがすこぶる高く、ハードコアとすらいえるほどのテイストを持ち、ある意味めちゃめちゃマニアックな存在だった。そうした印象がとにかく強かったのだ。
が、新しいSTI Sportは、そういうクルマとは違っていた。もちろんその名にたがわないパフォーマンスへのこだわりを感じさせてはくれるけど、チューニングカー風味などどこにも漂っていなかった。そもそもコンプリートカーでもなかった。スバルとSTIによって共同で開発が進められ、他のスバル車たちと同じようにラインで生産される、完全なるカタログモデルだったのだ。もちろん限定車でもない。その事実を知って、試乗も終えて、これから先のスバルとSTIの関係性がひとつ見えてきたような気がしたのだった。
よりシックに、上質に
……と、これまた先走ってしまう前に、レヴォーグSTI Sportというモデルについて少し説明をしておかなければならないだろう。STI Sportは、レヴォーグのラインナップの最上位に追加された新グレードである。レヴォーグには2リッターと1.6リッターのラインがあるわけだが、そのどちらにも設定されるというのが、こだわりのスバルらしくていい。300psに40.8kgmが生む“速さ”だけが偉いわけじゃなく、170psに25.5kgmの“爽快さと穏やかさのバランス”が気に入るドライバーもいて当然だし、ハイオク仕様の13.2km/リッターよりもアイドリングストップ機構の備わるレギュラー仕様の16.0km/リッターに価値を感じる人もいる、というわけだ。
そこからもお分かりいただけるように、パワーユニットやトランスミッションには、これまでのものと全く変わらない。スペックも同等だ。
エクステリアは少し変わった。フロントグリルはSTIのエンブレムが付く専用品となり、バンパーは下側の開口部が逆台形から台形になるとともに全体的に立体感の強いデザインとなり、大型化されたリアのマフラーカッターやフロントのバンパー下部、バンパー両サイドの開口部のフィンなど、クロームパーツの配置と各部のボリューム感も変わった。少し精悍(せいかん)さと重厚感が増したような感じを受ける。
インテリアではシートやトリム類をボルドーに彩り、ステアリングやセレクター、ドアなどに赤のステッチを入れるなどして、他のレヴォーグよりもシックで上質な雰囲気作りを試みている。
ひとクラス上のクルマのような乗り心地
最も重要な変更点は、シャシーまわり。ダンパー、スプリングともに専用開発のものが採用されているのだが、ダンパーは前後ともビルシュタイン製で、フロントには「WRX STI S207」で採用されたものと同じ「DampMatic(ダンプマチック)II」が組み込まれている。このダンパーは、低速域ではまずコンフォートバルブが働き始めてしなやかで滑らかな乗り味を生み、ある程度以上の領域に入るとメインバルブが作動して引き締まった操縦安定性をもたらしてくれる、というような一種の減衰力可変式。それらの効果を最大限に生かすべく、ステアリングギアボックス周辺の取り付け剛性も引き上げられている。このシャシーの調律の部分がSTIのウデの見せどころ、といったところなのだろう。
走りだして最初に気づくのは、乗り心地の良さだ。路面の細かな凹凸をインフォメーションとして伝えてくる程度にしか拾わず、余分な動きをしないので、とても滑らかにクルマが進んでいく印象を受ける。多少大きめなうねりが路面の継ぎ目に差し掛かったときにも、しなやかにフラットな姿勢を保ってくれる。しっとりとしていて、とても上質な乗り味なのだ。ひとクラス上のクルマを走らせているかのような上質感。常用域でのその快適さは、STIのバッジが付けられていることがにわかには信じられないレベルにある。
これからのSTIのあり方を思う
とはいえ、快適なだけのクルマじゃないことは、速度域を上げていくとたちまち理解できる。クローズドコースを走っても、腰の弱さのようなものは微塵(みじん)も感じられないのだ。
ブレーキングからステアリングを切り込んでいったときの反応の良さ。スポーツカーのような絶妙なステアリングの手応え。しなやかだけど筋肉質なロール。簡単には破綻せずに粘りながら追従してくる後ろ足。行きたい方向に向けていける素直な性格。ふらつきゼロのシャッキリした動き。
しっとりしなやかなフィールをそれとなくドライバーに伝えながらも、その実はかなり締まりのいい動きをしていて、結構なスピードで呆気(あっけ)なくコーナーを駆け抜けていく。楽しいし、気持ちいい。STI Sportは、レヴォーグの快適さとスポーツ性を、優に一段階持ち上げた上質なモデル。最上級モデルは最高級モデルなんぞではなく、走りの味の最上質モデルなのである。
僕は思うのだ。STIは確かにスバルのモータースポーツ部門のような存在であり、チューンナップやカスタマイズのエキスパートでもある。けれどここから先は、例えるならメルセデスでいえばAMG、BMWでいうならMのような、そんな役割を果たすようになっていくんじゃないか? と。つまりコンプリートカーだけじゃなく、このレヴォーグSTI Sportと同じようにSTIが開発に関与したプロダクションモデルが、これから先も増えていくんじゃないかと思うのだ。
そうなっていったら、とても素晴らしい。
(文=嶋田智之/写真=田村 弥)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スバル・レヴォーグ1.6STI Sport EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1780×1490mm
ホイールベース:2650mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:170ps(125kW)/4800-5600rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1800-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:16km/リッター(JC08モード)
価格:348万8400円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:679km
テスト形態:ロードインプレッション、トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
スバル・レヴォーグ2.0STI Sport EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1780×1490mm
ホイールベース:2650mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:13.2km/リッター(JC08モード)
価格:394万2000円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:724km
テスト形態:ロードインプレッション、トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

嶋田 智之
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。

































