第2回:地球史3大事件(後編)
2016.08.02 カーマニア人間国宝への道 拡大 |
(前編)からのつづき
我がカーライフを地球史3大事件になぞらえてお送りしている当連載だが、最後の、そして未来へと続く3番目の大事件とは何か。
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地球史3大事件その3/カンブリア紀の生命大爆発
約5億年前、全球凍結から脱した地球は、突如として多種多様な多細胞生物に満ち溢れる世界へと変貌した。これがカンブリア紀の生命大爆発である。
我がカーライフにおける生命大爆発、それは2009年に発生した。それまでフェラーリ一神教に凝り固まり、「フェラーリ以外は全部『ハイエース』の親戚」としてバクテリア扱いしていた私が、突如生命の多様性に目覚め、神話時代から脱して人類愛ともいうべき節約道、すなわちエコカーのヨロコビに打ち震えるようになったのだ!
今思えば、これこそカーマニア人間国宝への入り口であった。
序章は2009年3月。ド中古の初代「プリウス」を43万円で購入したところから始まった。しかしより決定的だったのは、同年5月の欧州遠征であった。
この遠征の目的は、主に我が編集プロダクションスタッフのマリオ高野二等兵の鍛錬にあった。極貧でしかも極度の方向音痴、英語はカタコトどころか一片も解さず彼女もおらず、海外旅行など考えもしなかったマリオを、自動車の本場であるヨーロッパに連れて行き、その神髄を味わわせて生命大爆発的な飛躍を期したのである。つまり、私が20年前に経験したあの南仏ショックをマリオにも与えることで、バクテリアから多細胞生物への進化を狙ったのだ。
ジャイアント・インパクト再び
マリオは行く先々でジャイアント・インパクトを発生させた。かつて『CAR GRAPHIC』と『NAVI』を川口の木造ボロアパートに全巻保存し、床が抜ける寸前に至らせた重度の自動車ヲタクは、欧州で見るもの感じるものすべてに震撼し嗚咽した。
あれから7年。あれだけの刺激を受ければ何かが変わるだろうと期待したが、彼はいまだ大進化の気配を見せていない。むしろ、よりスバルヲタク度を高め内に引きこもったように見える。ひょっとするとマリオにとって欧州自動車文化のジャイアント・インパクトはジャイアントに過ぎ、ショックでバクテリアに退化したのだろうか? 今後の突然変異に一縷の望みを託したい。
一方私は、思いがけず生涯2度目のジャイアント・インパクトに見舞われていた。それは、借りたレンタカーがたまたま「フォード・フォーカス エステート 1.6ディーゼル」(5MT)だったことによって発生した。
我々はこの、欧州自動車文化における吉野家牛丼(並)のようなクルマで、ドイツからオーストリア、イタリア、スロベニア、クロアチアを巡った。約1週間で走行距離は2000km余り。荷物満載のままニュルブルクリンク北コースまで走ったのである。
「遅いけどよく走る」
私に言わせれば、「日産GT-R」のニュルアタックなど恐るるに足らず。H.I.S.の激安チケットで渡欧した極東からの旅行者が、欧州の吉野家牛丼(並)レンタカーに3名乗車で旅行バッグもミネラルウオーターのペットボトルも一切合切搭載したまま、フツーにチケット(当時1周22ユーロ)を買ってニュルアタックを敢行することの方が、よりチャレンジングではなかろうか? というかそれを許す欧州自動車文化の懐の深さに首(こうべ)を垂れるしかない。鈴鹿サーキットはこのような蛮行を許さないだろう。
フォード・フォーカス エステート 1.6ディーゼルはかなり遅かった。特にニュルでは遅かった。マリオによれば、「僕が走った時で1周13分台の半ばくらいでした!」とのことである。しかしそれはまさに欧州の吉野家牛丼(並)だった。
フォードの1.6リッターディーゼルは、最高出力90psくらい(うろ覚え)。5段ワイドレシオを駆使して欧州を(含むニュルブルクリンク北コース)走り回ることは、ガイジン観光客が大江戸温泉で首まで漬かるような濃厚さだった。同業者がビジネスクラスに乗って海外試乗会に出向き、もろもろ完璧に準備された状態で試乗車を乗り回すのとは違う。そこにはハダカの付き合いのようなものがある。
欧州でハダカの付き合いをしたフォーカス エステート 1.6ディーゼル。私はその土着性に激しく魅了された。憧れの欧州に深く根を下ろした、あの「遅いけどよく走る」感、あの実用性、そしてアウトバーンを160km/hで巡航しても16km/リッター走った土着的経済性。それこそが今後私が真に憧れるべき対象ではないかという強い思いに駆られたのだ!
【Movie】マリオ高野によるニュルブルクリンク北コースの走行シーン
(つづく)
(文=清水草一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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