メルセデスAMG C43 4MATICステーションワゴン(4WD/9AT)
これぞ万能スーパーマシン 2016.09.23 試乗記 直4ターボの「Cクラス」と、V8ツインターボを搭載する「AMG C63」の中間に位置づけられる「メルセデスAMG C43」。その「ステーションワゴン」に試乗してわかったのは、このモデルならではのバランスのよさだった。新たな名前で再出発
名前とはなにか? バラと呼んでいる花を別の名前にしてみても美しい香りはそのまま。
と、ジュリエットはバルコニーで呟(つぶや)く。かつてメルセデス・ベンツで「450」と呼ばれし3リッターV6ツインターボを「43」という名前にしてみると、あ~ら不思議、AMGファミリーの正式な一員であることが明瞭になって、「お前は誰?」というモヤモヤが晴れた。かくも名前は大切である。時に悲劇を生む。ということは喜劇も生む。
450はもともと、「AMGスポーツ」という新シリーズ用にあつらえられたエンジンだった。AMGスポーツはカッコウだけのAMGパッケージにそれなりの性能をプラスするというコンセプトで、AMG内の穏健派として構想された。それを1年で改めた。12気筒は「65」、8気筒は「63」、4気筒は「45」と数字で名乗らせているように、この6気筒を2桁で表すことにしたのである。複雑なことをとりあえずやめて、AMGとしてストレートにアピールした方がわかりやすい、と考え直したのだ。
かくして出直すことになった43は、「SLC」から「Cクラス」「GLC」「GLE」「GLEクーペ」と多様なモデルに登場した。ここに紹介するC43はその中核になるはずで、SLC以外はすべて4MATIC、つまり4WDとの組み合わせとなる。C43の場合は、これまでの名前である「メルセデス・ベンツC450 AMG 4MATIC」を捨て、「メルセデスAMG C43 4MATIC」を名乗る。
パワートレインにも手直し
改名に加えて一部改良を受け、全モデルに9段ATの「9G-TRONIC」が採用された。ギアが2枚増えたおかげで、0-100km/h加速はコンマ1秒速くなった。4MATICの前後トルク配分が33:67から31:69へと、さらに後輪駆動寄りに変更されたのもエンスー好みと言える。吹っ切れてよかった。
外観にしても、C450 AMG時代にはフロントフェンダーのみだったAMGの3文字が一気に増殖した。ボディーの前後、ホイールのセンターキャップ、それにブレーキキャリパーにも、レーシングフィールドで数々の成功を収めた、創立者のハンス・ヴェルナー・アウフレヒトとエアハルト・メルヒャー、そしてアウフレヒトの故郷グローザスパッハを表すAとMとGの3文字が輝く。
この3文字の名前には大いに意味がある。アルファベットをデタラメに並べてもダメなのだ。AとKとBだと48だし、HKTでも48、SKEも48で、NGTも48だ。BCGだと予防接種だし、YKKだと山崎拓、加藤紘一、小泉純一郎である。
試乗車はイリジウムシルバーにクランベリーレッドというオシャレな内外装を持つステーションワゴンであった。ワイン色の革シートが実にオシャレでステキだ、ガルウイングの「300SL」みたいで、と思ったりするのに、座ると見えなくなってしまうのは例のごとしで、誠に残念である。
スターターボタンを押すと、ブオンッ! と一声ほえる。さすがAMGだ。1967年の創立から4年後の71年のスパ・フランコルシャン24時間レースを思い出すなぁ……ということまではないにせよ、エンジンが目覚める時の咆哮(ほうこう)は、これぞAMGの、雷鳴サウンドである。ちょっと控えめではあるけれど。
特筆すべきは乗り心地
走りだすと、V6ツインターボの43は、大排気量のアメリカンV8のようなドロドロッという豪快なビートではなくて、軽快かつ俊敏、メロディアスに回る。線が細いとも言えるけれど、剛球一直線ではなくて、球のキレが良い、と言いますか、はるかに洗練されているように感じる。のどごしがいい。
もともと3.5リッターだった自然吸気のV6を3リッターにダウンサイズしてターボ化したメルセデスのユニットにAMGが手を加えたのがこの直噴エンジンである。最高出力は5500-6000rpmで367psを、2000-4200rpmの広範囲で53.0kgmという分厚い最大トルクを紡ぎ出す。C63の4リッターV8ツインターボだと、それぞれ476psと66.3kgmである。リッターあたりの出力は、63が119ps、43は122psである。チューンの具合でヒケをとっていない。立派にAMGしている。数値そのものは450時代と変わっていない。450と呼んでいるエンジンを別の名前の43にしてみてもV6の美しい回転フィールはたぶんそのままだ。
でもって、乗り心地が素晴らしくよい。前後異サイズの19インチタイヤが、同じ19インチのC63より一回り細いことも功を奏している。といっても前225/40、後ろ255/35という偏平ぶりだから、低速だと電子制御ダンパーをもってしても路面の凸凹を伝える。でも、「AMGダイナミックセレクト」という名前のドライブモードを「Comfort」にすると、いい仕事をしてくれる。「Sport」「Sport+」へと進むごとに、排気音、乗り心地、ステアリングの重さなどがハードコア方向に向かう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
バランスのいいメルセデス
C43 4MATICステーションワゴンの魅力は、ビートとメロディー、スリルと安心感のバランスにある。先般、「C63 Sクーペ」に試乗する僥倖(ぎょうこう)に恵まれたけれど、落雷サウンドがとどろくC63 Sよりも嵐の夜の具合が穏やかで、心安らかに乗れる。
AMGのモンスターである前に一個のメルセデス・ベンツとしてC43 4MATICは存在している。イッちゃっているC63、さらにそれ以上にイッちゃっているC63 Sだと、イッちゃっているところが魅力なわけだけれど、自動車の魅力は超人ハルク的なスーパーパワーのみにあらず。
C43 4MATICステーションワゴンは速いだけでなくて、4MATICゆえ高速のスタビリティー性能が恐ろしく高い。極めて安心してアクセルを深々と踏み込むことができる。矢のように直進する。筆者程度の、と申し上げても読者諸兄にはどの程度かご不明であろうが、おそらくどの程度のドライバーにとっても、これぞ万能スーパーマシンだ。
サイズが手ごろで実用的で、おまけに全天候型。
試乗車は左ハンドル仕様だったけれど、右ハンドルも追加になっている。ボディーバリエーションではセダンはもちろん、クーペ、カブリオレもある。でもって、メルセデスAMGの名前も手に入れた。他に何を望む?
あとは買うお金であるけれど、これこそ永遠のテーマ。お金とはなにか? 450と呼んでいるクルマを別の名前にしてみてもお値段はそのまま。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
メルセデスAMG C43 4MATICステーションワゴン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4730×1810×1445mm
ホイールベース:2840mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:367ps(270kW)/5500-6000rpm
最大トルク:53.0kgm(520Nm)/2000-4200rpm
タイヤ:(前)225/40ZR19 93Y/(後)255/35ZR19 96Y(ダンロップ SPORT MAXX RT)
燃費:11.5km/リッター(JC08モード)
価格:952万円/テスト車=952万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:967km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
NEW
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
NEW
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。 -
NEW
第343回:おやじ、涅槃で待つ
2026.8.31カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない? -
NEW
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.8.31試乗記フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(後編)
2026.8.30思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」をドライブ。前編ではそのパワートレインの中間加速のよさを語った山野。後編ではそこをもう少し掘り下げて聞くとともに、止まる、曲がるも含めたシャシー全体の印象を聞いてみた。 -
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】
2026.8.29試乗記「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
































