第393回:世界初の専売拠点が日本にオープン
メルセデスAMGの新たなる戦略を探る
2017.01.18
エディターから一言
拡大 |
東京・世田谷に、世界で初めてのメルセデスAMG(以下AMG)専売店「AMG東京世田谷」がオープンした。AMGが最も売れているアメリカではなく、なぜ日本に、世界に先駆けて専売店をオープンしたのか? またAMGは今後どのような販売および製品戦略を考えているのか? 当日の発表会出席者のコメントからのぞいてみよう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
メルセデスの好調にAMGも貢献
2016年に日本で6万3000台余りを販売し、2年連続で“輸入車ナンバーワン”を達成したメルセデス・ベンツ。同年を「SUVイヤー」と銘打ち、多数のSUVを日本に導入したことや、基幹車種「Eクラス」のフルモデルチェンジなどが大きく貢献したという。ハイパフォーマンスモデルのAMGも年間を通じて好調に推移し、過去最高の5608台が販売された。
この好調を支えているのが、インポーターであるメルセデス・ベンツ日本が取り組む、“ベストカスタマーエクスペリエンス(最高のお客さま体験)”である。同社代表取締役社長兼CEOの上野金太郎氏は、これを「従来のお客さまにはメルセデスをもっと深く知ってもらい、そして新しいユーザーには多くの興味を持ってもらうための取り組みだ」と説明する。
例えばAMGでは、サーキット走行会の「AMGドライビングアカデミー」や、AMGのオーナーやファンが楽しめる「AMG DAY」などのイベントを開催し、ブランド体験の場を提供してきた。さらに上野氏は、今回のAMG専売店のオープンについても「AMGを手に入れるという特別な体験をより感動的なものにすべく、メルセデスAMG本社とも協議を重ね、専売店が完成した」と述べ、カスタマーエクスペリエンスの一環であると位置づけている。
“経験値”の高い顧客に対応するために
AMG東京世田谷を運営するシュテルン世田谷は、1991年11月にメルセデス・ベンツ正規販売店としての業務を開始。これまでに、東京、神奈川、静岡エリアに7つの店舗を展開している。過去に最優秀販売店賞を5度受賞するなど「ネットワーク内でも一目置かれる存在だ」と上野氏は信頼を置く。
シュテルン世田谷代表取締役社長の坂東徹行氏は、AMG東京世田谷のオープンについて「以前よりこの専売店の話は進めており、場所的に良いところがあったのでこのタイミングでのオープンとなった。とはいえ、専売店の運営が決まった時は正直驚いた」と当時を振り返る。そして「何よりもわれわれの社員がこの件に関してはとても喜んでおり、モチベーションも上がっている」と、今後に対する意気込みをのぞかせた。
同社の販売台数におけるAMGの比率は、およそ10%弱とのこと。今後の方針については、「ユーザーに選ばれなければ意味がないので、ベストカスタマーエクスペリエンスを進化させていく。もちろんこれはAMGに限らずメルセデス・ベンツ、スマートしかり。いずれにせよ、カスタマーオリエンテッドが基本的な姿勢になる」とコメント。その上で、「(AMGユーザーは)さまざまな“経験値”が高いので、そのボーダーも必然的に上がる。われわれにも少し高いスタンダードが必要となるだろう。今はメーカーと協力しあい、多数のAMGの試乗車を用意して好きなクルマに乗ってもらうことや、お客さまが来店する際にお待たせしないよう、デジタルサイネージを上手に使う工夫などを考えている」と話した。
さらに、ブランドビジネスにおけるステレオタイプなマニュアルに対して「私は否定的だ」とした上で、同店の専任セールスに就いた3人について「ユーザーにはいろいろな方がいる。専売店スタッフにはそれぞれのユーザーに合った対応が心がけられ、AMGなどの上級モデルに慣れているベテランを中心に選んだ」と述べ、AMG東京世田谷の接客に対する姿勢を語った。
成功の要因は“商品力”と“販売網”
今年で設立50周年を迎えたAMGは、現在50を超えるモデルを有し、日本にはそのうちの40モデルが導入されている。2016年の世界での販売台数は約10万台弱。これは2015年の44%増で、3年連続で40%以上の伸び率を記録した。
好調が続くAMGの業績について、AMG東京世田谷のオープンに合わせて来日したメルセデスAMG最高経営責任者のトビアス・ムアース氏に話を聞いた。ムアース氏はこの成功の要因について、「パフォーマンスセグメントの中でも最も幅広いモデルレンジを展開し、ユーザーに喜んでもらえる製品を市場に出すことができたのが大きな理由。特に『43』系のモデルなどがラインナップに加わったことで、“ハイパフォーマンス”というイメージに加えて“スポーティー”というイメージも定着させることができた」と語る。
さらに販売力の強化に関しても、「“ルック・アンド・フィール”を重視したイメージの店舗開発を進め、またAMGパフォーマンスセンター(既存のディーラー内に併設される、ショップ・イン・ショップ形式のAMG販売拠点)も数多くオープンさせた。スタッフについても十分なトレーニングを行うことにより、ブランドや製品の知識を十分に備えた上でユーザーに対応できる体制をとっている」と、その取り組みを説明。「ただ(こうした体制を整えるためには)相当な努力が必要だった」と笑ってみせた。
なぜ日本? なぜ世田谷?
しかし、なぜ世界初のAMG専売店が日本なのか? そもそも日本はAMGにとってどのくらい重要な市場なのか。ムアース氏によると、販売台数では「会社の歴史を通じて最大の市場規模を誇るのはアメリカで、ダントツだ。次いでドイツ、日本、イギリス、オーストラリア、カナダ、そして中国も台頭しつつある。日本の順位はだいたい2位から5位のあたり」とのこと。また日本の乗用車市場については「成長はある程度鈍化している」としつつも、「われわれが属するセグメントは成長が著しく、このセグメント内でのわれわれのシェアも高まっている。AMGと日本の関係は長年にわたり、その認知度も非常に高いことから、今後さらに成長できるだろう」と期待を寄せた。
さらに、東京・世田谷という今回のショールームの立地についても、「われわれは年に少なくとも2回はディスカッションをメルセデス・ベンツ日本や、販売店と持つようにしている。そこで世田谷というエリアを深く知り、その可能性の高さを認識した。実際にこのエリアでは非常に多くの販売実績があり、さらに大きく成長する可能性があると考えた」と、その選考理由を説明した。
もうひとつ、ムアース氏はこの専売店発足について、メルセデス・ベンツ日本やシュテルン世田谷との間に強い信頼関係、人間関係があったことを強調する。ムアース氏は、前述のディスカッションにおけるシュテルン世田谷の坂東社長について、「3年から4年先の製品ポートフォリオにおいてもいろいろなアイデアを与えてくれる。そういった協力関係をわれわれは誇りと思っており、素晴らしいパートナーを見つけた」と述べるとともに、そうしたディスカッションのなかから専売店のアイデアが生まれ、実現したと語った。
「(AMG専売店の戦略は)これで終わるわけではない。今後はオーストラリア、中東、もしかしたらアメリカにもこのような専売拠点をオープンするかもしれない。しかし、なによりもまず最初に日本でオープンしたいとわれわれは考えたのだ」。
AMGと自動運転、ハイブリッドの未来
最後に、AMGの製品に関しても聞いてみよう。現在、すでにEクラスなどには運転支援技術の「ドライブパイロット」が搭載されており、自動運転への道筋も見えてきている。そういったことをAMGはどう捉えているのか。
これについて、ムアース氏は「当然、メルセデス・ベンツで採用されるこういった新技術や、社会で推進されつつある自動運転に関する技術は取り込む。パフォーマンスブランドだから搭載しないとは考えていない」と回答。「パフォーマンスカーでも渋滞に入ることはあり、そういう時に自動運転のスイッチを押して、例えばEメールをしたり、ちょっとだけ体を休めたりといった時間を得るのは悪いことではない。そういうことが未来志向の一端ではないか」と述べる一方で、「自動運転技術のボタンをオフにすれば、究極のハイパフォーマンス、レーストラックでの快感が実感できる」とし、AMGはあくまでもドライバーに運転の選択肢を残すという考えを明かした。
また、電気自動車やプラグインハイブリッド車などについては、「実は“ハイパーカープロジェクトワン”をスタートさせている。これはパワートレインの電動化やハイブリッド化を構想の中に捉えた開発プロジェクトだ」と言明。「例えば、パワートレインを電動化することにより、さらなるパワーを得ることができ、効率も良くなる。このプロジェクトはわれわれの将来の考え方や、将来のハイパフォーマンスカーというものがどういうものかという定義を少しだけ示している」とし、積極的にラインナップに取り入れていく方針を示した。
こういった取り組みはどうやらAMGの社風でもあるようだ。もともと、モータースポーツの世界で頭角を現したAMGは、ムアース氏いわく「当時から常に変わらず革新、イノベーションに特化した企業であり、何か新しいアイデアを思いついたらそれを実現しようとするチャレンジングスピリットにあふれている。それはメルセデス・ベンツの一員となり、スポーツ部門、パフォーマンス部門を担った現在も変わってはいない」という。そして、「これこそが、今でも全社員が共有しているモノづくりの理念、考えなのだ」と結んだ。
(文=内田俊一/写真=webCG/編集=堀田剛資)

内田 俊一
-
第865回:ブリヂストンが新タイヤブランド「フィネッサ」を発表 どんなクルマに最適なのか? 2026.3.13 ブリヂストンが2026年1月に発表した「FINESSA(フィネッサ)」は、同社最新の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する乗用車用の新タイヤブランドである。高いウエットグリップ性能と快適な車内空間の実現がうたわれるフィネッサの特徴や走行時の印象を報告する。
-
第864回:冬の北海道で「CR-V/ZR-V/ヴェゼル」にイッキ乗り! ホンダ製4WDの実力に迫る 2026.3.9 氷雪に覆われた冬の北海道で、新型「CR-V」をはじめとするホンダのSUV 3兄弟に試乗。かつては実力を疑われたこともあるというホンダ製4WDだが、今日における仕上がりはどれほどのものか? 厳しい環境のもとで、そのコントロール性を確かめた。
-
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す 2026.3.3 電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。
-
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して 2026.2.25 マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。
-
第861回:冬道性能やいかに ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を北の大地で試す 2026.2.18 2025年9月に日本ミシュランタイヤが発表した最新のオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」の冬道性能を確かめるために、北海道に飛んだ。ドライやウエット路面に続き、ウインターシーンでの印象を報告する。
-
NEW
ポルシェ・タイカンGTS(後編)
2026.3.15思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ポルシェ・タイカン」に試乗。後編ではコーナリングマシンとしての評価を聞く。山野は最新の「GTS」に、普通のクルマとはだいぶ違う特性を感じているようだ。 -
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】
2026.3.14試乗記英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。 -
テスラ・モデルYプレミアム ロングレンジAWD(4WD)
2026.3.13JAIA輸入車試乗会2026電気自動車(BEV)「テスラ・モデルY」の最新モデルは、これまで以上に無駄を省いた潔いまでのシンプルさが特徴だ。JAIA輸入車試乗会に参加し、マイナーチェンジによってより軽くより上質に進化したアメリカンBEVの走りを確かめた。 -
ルノーから新型車「フィランテ」が登場 仏韓中の協業が生んだ新たな旗艦はどんなクルマ?
2026.3.13デイリーコラムルノーが韓国で新型クーペSUV「フィランテ」を世界初公開! 突如発表された新たな旗艦車種(?)は、どのようないきさつで誕生したのか? フランス、韓国、そして中国の協業が生んだニューモデルの概要と、そこに込められたルノーの狙いを解説する。 -
第865回:ブリヂストンが新タイヤブランド「フィネッサ」を発表 どんなクルマに最適なのか?
2026.3.13エディターから一言ブリヂストンが2026年1月に発表した「FINESSA(フィネッサ)」は、同社最新の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する乗用車用の新タイヤブランドである。高いウエットグリップ性能と快適な車内空間の実現がうたわれるフィネッサの特徴や走行時の印象を報告する。 -
新型「リーフ」は日産の救世主になれるか BEVオーナーの見立ては?
2026.3.12デイリーコラム日産自動車は3代目となる電気自動車(BEV)「リーフ」の受注台数が、注文受け付け開始から約4カ月で6000台を超えたと明らかにした。その人気の秘密や特徴を、自らもBEVを所有するモータージャーナリスト生方 聡が解説する。
















































