スマートBRABUS フォーツー エクスクルーシブ リミテッド(RR/6AT)
好事家を味方に 2017.03.06 試乗記 「スマート・フォーツー」に2017年3月までの期間限定販売となる「スマートBRABUSフォーツー エクスクルーシブ リミテッド」が登場。専用の直列3気筒ターボエンジンや6段DCTを搭載した特別な一台で、気温10度、冷たい雨に濡れる冬の房総を走った。限られた方々のための一台
昨年、日本でのスマートの販売台数は4508台。7年ぶりのフルモデルチェンジに加えて4ドアモデルの「フォーフォー」を主軸に置くという方針転換もあって、対前年比では4.5倍近い台数を販売するに至っている。それでも住環境や道路事情を鑑みれば、日本こそスマートのようなコンセプトのクルマは多く受け入れられる余地がありそうなものだが、一筋縄ではいかないのが現実だ。
単に小ささゆえの利便性やランニングコストでの比較は軽自動車に相まみえることになり、価格でくくればB~Cセグメントとも対峙(たいじ)することになり……と、やはり日本車の層はなかなか崩せるものではない。逆に「フォーツー」の側はそういうそろばん勘定を抜きにできる向きの特別な選択肢として、ある種のスノビズムを形成している感もある。とあらば、フォーツーは期間を区切った限定メニュー的な販売で……というやり方はわからなくもない。
この「スマートBRABUSフォーツー エクスクルーシブ リミテッド」もしかりで、今回の販売は2017年3月までの注文受付分までとなる。価格は297万円と、直近で追加された「スマート・フォーツー ターボ」に対しても約70万円高い。先代もそうではあったが、分不相応なほどのコストは静的・動的両面の質感向上に充てがわれる。いよいよ、しゃれへのお支払いは厭(いと)わない限られた方々のための一台だ。
パーソナライズも可能に
外装に基準車との差異は大きく見いだせない。目につくのは8スポークの前16、後17インチの幅広な8スポークホイールと2本出しの専用エキゾーストシステム、よくよく目を凝らせばわかる、独自のエアロエフェクトが考慮された前後バンパーくらいだ。
そもそもがあまたのクルマに対して明らかに異質な佇(たたず)まいゆえ、外見を大きく弄(いじ)ると悪目立ちしてしまう、それがゆえの配慮だろうか。今回試乗したスマートBRABUSフォーツー エクスクルーシブ リミテッドは期間限定モデルで、ボディーカラーは1色のみとなっているが、この春以降、新たに受注開始予定の「BRABUSフォーツー」はオプションで10色のアウターパネルと6色のセーフティセル、4色のグリルを組み合わせてパーソナライズできる。こちらでは明らかに不自然な組み合わせは指定できないが、無制限の自分仕様をお望みとあらば、内装のベゼルやステッチに至るまですべてを自分好みに仕立てるオートクチュール的なプログラムを利用することも可能だ。果たしてそれを適用したらどれほどの値段と納期が示されるかはわからないが、ともあれ所有満足度を高める仕組みづくりには抜かりはない。
内装は基準車に対してシートやステアリング、ブレーキレバーにクロスステッチを用いた本革が貼り込まれ、ダッシュボード全体もレザーラップされるなど、先代と同じ手法で豪華さが演出されている。その上面にレブカウンターと時計のコンビとなる丸いメーターが据えられるあたりはスマートの血筋を感じるポイントだ。
歴代で最強の動力性能
搭載されるエンジンは基準車と同じ0.9リッターの直噴3気筒にターボを組み合わせたもの。フォーツー ターボに対して吸排気系の容量拡大やブーストアップなどの正攻法で90psからさらに19ps増しの109ps。トルクは35Nm増しの170Nm(17.3kgm)を得ている。トランスミッションは「ツイナミック」と呼ばれる6段DCTで、こちらも専用プログラムにより変速速度は最大40%の短縮をみている。また、ローンチコントロールの採用もあって0-100km/h加速は9.5秒、最高速はディメンションの関係もあって165km/hに制限されるが、いずれにせよ歴代で最強の動力性能を備えるに至った。
実際、BRABUSフォーツーの動力性能は日本の路上に当てはめても十分にパワフルだ。が、むしろ感心させられたのはその力強さをいつでもアクセルひとつで引き出せることだった。小排気量ゆえのターボラグを極力感じさせないようにというセットアップは、街中から高速巡航まで多用する1500rpm向こうから3500rpmあたりのレスポンスに好作用しており、クラッチ式のトランスミッションも相まってとにかくツキがいい。そのトランスミッションの変速マナーは相変わらずもっさり感が拭えていないが、これは短いホイールベースの車体をぶざまに揺すらないための配慮でもあるだろう。その変速回数を減らせるほどの厚い中間トルクが、BRABUSフォーツーの大きな武器であることは間違いない。
独自の存在意義がある
そして、それ以上に感心させられたのが見事なフットワークだ。サスはダンパーとスプリングを見直し20%ほどレートが高められるほか、フロントスタビのレート向上により車体のロール量は9%抑えられているという。そこに低偏平の幅広タイヤを合わせるのだから、果たして揺すりや突き上げはどんなものかと覚悟したが、それが拍子抜けするほどに平滑に転がっていく。さすがに大きめのうねりには左右の揺すりが抑えきれないが、凹凸や高速道路の目地段差などバウンド系の処理は基準車より明らかに上手。これほどの極端なホイールベースを持つ比較車といえば代々のフォーツーくらいのものだが、その上質感は圧倒的と表しても大げさではない。そもそも高い剛性を持つセルに支えられたサスがきちんと摺動(しゅうどう)し、いかにも上等なダンパーがそれを支えているという感じのアタリの丸さを味わえる。
EPSのチューニングを見直したおかげでグッとリニアさが増したステアリングのタッチを思えば、切り始めからのゲインの立ち上がりはやや性急かと思うところはある。が、そこからの粘り感はまさにこのサスの支えるところで、BRABUSフォーツーはワインディングを思いのほかねっちりと路面をつかまえながらグリグリと車体を前に進めていく。コーナーへの進入で前軸側にきっちりと荷重を残して旋回に入り……と、RRのセオリーを踏まえての走りがまた楽しいのは、ブレーキのバランスが非常に優れていてつんのめるような姿勢が抑えられていることも奏功しているだろう。
価格は確かに高いが、そこには手だれがしっかり見張った味付けの妙がある。そして好事家はその仕事をしっかりと嗅ぎ取ってくる。衆目にはこじれた世界観だが、アフォーダブルだけでは語れないクルマのありさまがあるんだよと、こんなに小さくいびつな体躯(たいく)に込められているところに、BRABUSフォーツーの存在意義があるのだろう。それをスノビズムで片付けるのは、やっぱりもったいない話だ。
(文=渡辺敏史/撮影=池之平昌信/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
スマートBRABUSフォーツー エクスクルーシブ リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2785×1665×1545mm
ホイールベース:1875mm
車重:980kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:109ps(80kW)/5750rpm
最大トルク:17.3kgm(170Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)185/50R16 81H/(後)205/40R17 80H(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:20.6km/リッター(JC08モード)
価格:297万円/テスト車=308万0700円
オプション装備:ポータブルナビ(9万9000円)/ETC車載器(1万0800円)
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:1040km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:171.4km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.2km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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