ジャガーFタイプR-DYNAMICクーペ(FR/8AT)
ジャガーの妙味はアシにあり 2017.09.11 試乗記 ジャガーの2ドアクーペ/コンバーチブル「Fタイプ」に、2リッター直4ターボエンジンを搭載した新モデルが登場。ジャガー・ランドローバーの未来を担う新エンジンの出来栄えと、新しい心臓を得たFタイプの走りを、ノルウェーから報告する。およそ70年ぶりの直4ガソリンエンジン
ジャガーといえば英国を代表するスポーツカーブランド。戦後、そのイメージが醸成されていく過程で大きな役割を果たしたのが、同社が開発したXK型DOHC直列6気筒ユニットだ。
「XK120」に「Eタイプ」「マーク2」系に「XJ」と、搭載されたモデルを追えば、それ自体がジャガーの輝かしい時代のカタログとなる。幻となったレーシングカー「XJ13」に端を発する12気筒エンジンの歴史も、もとをたどればXK型のエンジニアリングが大きく関与するなど、自動車のエンジン史においてもそれは欠くことができない名機と言って過言ではない。
そんな歴史的エンジンの原点に、6気筒と並んでDOHC直列4気筒ユニットがあったことはあまり知られていないのではないだろうか。XK120と同じシャシー&ボディーにそれを搭載し、「XK100」を名乗ったそのモデルは販売期間も非常に短く、僕自身も現物にはお目にかかったことがない。
思えばジャガーが自前で4気筒のガソリンエンジンを作るのはそれ以来、すなわち70年ぶりくらいのことではないか。同門であるランドローバーとの共用を前提に開発された新しい「インジニウム」ユニットは、「XE」や「Fペース」などに搭載されるディーゼルエンジンとボア×ストロークを同じくする、アルミブロックの2リッター直噴ターボで、内部部品や補機類などの共通化を実現している。また排気量の拡大縮小や、将来的な電動化に対する柔軟性も見越されているなど、同社においてのモジュラー化の要となることは間違いない。それを生産するのは、イギリス中部のウエスト・ミッドランズに10億ポンドの巨費を投じて作られた新しいエンジン工場だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
狙いは軽量化と、環境負荷の低減
この工場で2017年4月から生産が始まった4気筒ガソリン版のインジニウムには、250ps版と300ps版の2種類があり、日本でも既に発表されている「レンジローバー ヴェラール」にはグレードに応じてその両方が搭載されることになっている。そして、ジャガーの側で初めて搭載するモデルとして白羽の矢が立ったのがFタイプだ。同社のスポーツカーブランドたるゆえんを担う車種への搭載に、XK100へのオマージュをうかがうこともできなくはないが、ジャガーとしては価格帯の引き下げによる商機の拡大という狙いもあるだろう。
あるいは、まずはバリバリのスポーツカーに搭載することになった最大の理由は、軽量化による運動性能の向上にあるのかもしれない。ちなみに同等仕様のV6スーパーチャージドモデルに対し、この新エンジンを積む4気筒モデルは50kg近く軽い。当然ながらそのほとんどがエンジン重量に由来しており、つまりノーズまわりのイナーシャ軽減に奏功していることになる。
Fタイプに搭載される4気筒直噴ターボユニットは、2リッターとしてはかなりのハイチューンとなる300psを発生。その一方で、400Nmの最大トルクは1500rpmとかなり低い回転域で発せられる。組み合わせられるトランスミッションはZFの8段ATで、本国仕様では6段MTの設定もあるが日本への導入は未定。クーペの最高速は250km/h、0-100km/hは5.4秒と、動力性能的にはV6のベースグレードに遜色のないところを実現しながら、CO2排出量は163g/kmと、2割近い軽減に成功している。
![]() |
![]() |
![]() |
クルマの動きに見る軽量化の恩恵
その性能が物語るところは重々理解しつつも、やっぱり気になるのはエンジン始動時の4気筒なりのざっくりしたサウンドだ。アイドリングから低回転域のところではモリモリと湧き上がるトルク感に驚かされるし、微振動がしっかり抑えられているところに感心もさせられるが、耳から入ってくる情報にテンションを削(そ)がれないといえば、それはウソになる。
が、吸排気のチューニングが巧みに施された3000rpmを超えての中・高回転域では、そのサウンドはグイグイと野性味を増していく。突き抜けるような高音系はあえて狙っていないのだろう、ずぶとくほえる中低音の圧は排気量を感じさせないイギリス車らしいものだ。らしい……といえばその出力特性も、ハイチューンにみえて6000rpmの向こうまで回しても余り意味がなく、その代わりにどの回転域でも“谷間”なく力感をしっかり伝える、フラットなキャラクターとなっている。
そして4気筒化された恩恵が最も顕著に感じられるのは、クルマの動き方だろう。すなわちノーズが軽くなったことによる敏しょう性の向上……と思いきや、それだけではない。むしろ50kgのマイナスで当然のごとく得られる軽快感よりも、四肢がねっとりと路面を捉えながらスッキリした操舵フィールと共に心地よい旋回姿勢を生み出してくれるサスペンションの饒舌(じょうぜつ)な反応には、感心を通り越して感服するしかない。ポルシェの「ボクスター/ケイマン」を筆頭に、Fタイプの直4モデルはライバルと目される車種がうんと増えるわけだが、決してスピードやスタビリティーだけでは語れないこの有機的なフットワークこそが、このクルマの本領ということになるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=ジャガー・ランドローバー/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプR-DYNAMICクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4482×1923×1310mm
ホイールベース:2622mm
車重:1525kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300ps(221kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1500-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R19/(後)275/35R19(ピレリPゼロ)
燃費:7.2リッター/100km(約13.9km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.8試乗記「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。 -
NEW
第318回:種の多様性
2025.9.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。 -
NEW
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?
2025.9.8デイリーコラムメジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。