ジャガーFタイプR-DYNAMICクーペ(FR/8AT)
歴史と実利の間で 2018.03.14 試乗記 「ジャガーFタイプ」に新たに加わった、2リッター直4ターボエンジン搭載モデルに試乗。従来のマルチシリンダーモデルとのドライブフィールの違いを確かめるとともに、スポーツカーのパワーユニットのあり方について考えた。まずは最新モデルの見た目をチェック
ここへきてジャガーも一気に種類が増えてきた。「XJ」「XF」「XE」と“X”から始まるのがセダンで、「Fペース」、ベイビージャガーこと「Eペース」、そして電気自動車(EV)の「Iペース」と後ろに“ペース”が付くのがオルタナティブ(SUVやクロスオーバー)だ。それにスポーツカーのFタイプを加えて全ラインナップということになる。実は「Iタイプ」というのもあるのだが、それはフォーミュラEを戦うパナソニック・ジャガー・レーシングのマシンの名前。
今回試乗したFタイプR-DYNAMICクーペ(FR/8AT)は、2018年モデルに切り替わった際に加わった2リッターエンジンを搭載したモデルだ。車両価格は873万円。テスト車には実に332万6000円分のオプションが装着されていた。
しっかりとワックスをかけたポリバケツのようなボディーカラーのFタイプを、まずはまじまじと眺めてみる。2018年モデルでもロングノーズ、ショートデッキの古典的スポーツカーのシルエットはそのまま。ヘッドランプにLEDが組み込まれ、フロントバンパー左右に開いたエアインテークの形状がやや変わったが、見た目の変更は最小限にとどめられた。
乗り込んで運転席に腰を落ち着ける。座面の後部(お尻部分)を沈み込ませ、前部(太もも部分)を少し持ち上げてしっかりと体をホールドするポジションを獲得すべく、あれこれ調整してみる。獲得できた。永遠に獲得できないモデルもある。スポーツカー特有の低い着座位置からの眺めは気分を高揚させる。そういえば2018年モデルから、シートを固定するフレームが、軽量化のためにマグネシウム製の新しいものに変わったそうだ。
潮目を変えたのはポルシェ
ジャガーのスポーツカーといえば、かつては直6、その後に「ダブルシックス」というまどろっこしい呼び方のV12、そして最近ではドロドロと低い音を響かせるV8エンジンが搭載されてきた。現行のFタイプには最高出力550psの5リッターV8エンジンと同380psの3リッターV6エンジンが設定されてきたが、新たにEペースにも搭載される同300psの2リッター直4ターボエンジンが加わった。
プレミアムブランドのスポーツカーに直4エンジン搭載というのは、10年前には市場に受け入れてもらえないソリューションだったが、各国が段階的に厳しい排ガス規制やCAFE(企業別平均燃費基準)を導入するにつれ、世界のスポーツカーファンはスポーツカーがなくなるのを受け入れるか、4気筒エンジン搭載を受け入れるかという選択を迫られるようになった。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、シボレー、フォード……。みなスポーツカーに4気筒を搭載するようになった。そしてポルシェが「ケイマン/ボクスター」に2リッター4気筒ターボエンジンを搭載した時に潮目が変わったような気がする。「あのポルシェさんがそれしかないというのなら……」。ただ、それもこの先10年くらいのトピックであり、最終的にはほとんどのスポーツカーが電気モーターを組み込んでいくことになるのだろう。
先の話はともかく、4気筒ターボエンジンを搭載したFタイプを走らせてみた。まずエンジン音、排気音がともに入念にチューニングされていて、吹け上がる際に実に気持ちいい音を発する。もしかするとサウンドアクチュエーターを使ってエンジン回転とシンクロさせたバーチャルサウンドを室内に流しているのかもしれない。いい音だ。だとしたらこのまま僕を気持ちよくだましていてほしい。
体感的なボディー剛性が向上
数年ぶりに試乗したFタイプはボディー組み付けの精度が上がったのか、いちいち明らかにしていない細かい改良が加えられた結果なのかわからないが、体感的なボディー剛性が上がっていた。ギャップを越えた際にドンと振動が短く収束するさまは心地よい。やはり輸入車は、デビューから時がたつにつれて、つくるのが上手になってくる。「練習してから発売しろよ」とツッコミを入れたくなることもないではないが、われわれもいい加減にそのことを学ぶべきかもしれない。発売直後に飛びつくことで得られるものももちろんたくさんあるけどね。注目とか。実際のパワーは2リッター直4ターボと聞いて想像する範囲を超えないが、それはつまりスポーティーに走らせるのに十分だということ。暴力的な加速力はないが、コーナーを脱出する時、高速道路へ合流する時、遅いクルマを追い越す時など、必要な場面で遅れなくパワーを取り出すことができる。最新の技術を駆使すれば、ターボを付けるとパワーはかなりのところまで上げられる。少なくとも6気筒以上の自然吸気エンジンと同じだけのパワーを獲得したうえで、燃費と排ガス基準でそれらを上回ることができる。だから実用的なセダンやSUVなどのジャンルでは、各社積極的に4気筒ターボを採用するし、そうあるべきだと思う。
バイヤーズガイド的な結論を言うとすれば、2リッターのFタイプはアリだ。買うなら5リッターか2リッターの両極端なFタイプが魅力的なのではないだろうか。3リッターも決して悪くないが、価格が5リッターに寄っているわりに性能が2リッターに近いように思えた。
4気筒化が持つ意義とは?
スポーツカーとシリンダー数の関係というのは答えの出せない命題だ。スポーツカーのエンジンは仕事率の高い低いだけでは語ることができない。仕事の過程や内容、すなわち吹け上がりの良しあし、音の良しあし、振動の良しあしが重要視される。こじらせたスポーツカーファンになると、その機械的特徴やシリンダー数にまで意味を求めてくる。さらにそのブランドが採用してきた特徴を継承しているかどうかさえもが評価を左右することもある。人ごとのように書いてきたが、それは私であり、あなただ。
プレミアムブランドによる4気筒スポーツカーというのは、かつて自分たちが喧伝(けんでん)してきた“歴史的な良さ”を、燃費、エミッション、コスト削減といった“現代的な良さ”が超えられるかというチャレンジといえる。実利がしがらみを超えられるか。自動車メーカーはそうしたチャレンジを、それとは比べ物にならないくらい大きなチャレンジであるクルマの電動化、自動化と同時に進めなければならない。クルマは今そういう時期にある。間もなく登場する“テスライーター”のEVであるIペースに試乗した後、こうした考えが変わるかどうか、自分自身、とても楽しみだ。
(文=塩見 智/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプR-DYNAMICクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1925×1310mm
ホイールベース:2620mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
最高出力:300ps(221kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1500-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.2km/リッター(JC08モード)
価格:873万円/テスト車=1205万6000円
オプション装備:メタリックペイント<ウルトラブルー>(16万9000円)/カスタマイズ可能なインテリアムードライト<5色>(6万2000円)/電動テールゲート(6万7000円)/フロントパーキングコントロール(5万5000円)/リアビューカメラ(5万5000円)/ジャガータイヤリペアシステム(0円)/20インチ スタイル5042アロイホイール(43万3000円)/InControlセキュリティー(9万7000円)/In Controlプロテクト(4万6000円)/ジャガースマートキーシステム<キーレスエントリー&スタート>(8万2000円)/パノラミックグラスルーフ<ブラック、手動式ブラインド>(14万3000円)/ジャガースーパーパフォーマンスブレーキシステム<フロント380mm/リア376mm>(44万7000円)/デジタルTVチューナー(12万9000円)/スポーツカーペットマット(3万円)/インテリアブラックパック(12万1000円)/シートメモリーパック2(16万4000円)/スエードクロスヘッドライニングパック(7万2000円)/InControlコネクトプロパック(5万7000円)/プレミアムレザーインテリア(37万7000円)/コールドクライメイトパック1(17万4000円)/エクステリアブラックデザインパック(54万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3005km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:304.0km
使用燃料:41.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.3km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。











































