ロータス・エヴォーラ スポーツ410(MR/6MT)
地に足がついている 2018.02.02 試乗記 従来モデルから最高出力がアップして車重はダウン。「ロータス・エヴォーラ」の新バージョン「スポーツ410」が日本に上陸。コーリン・チャップマンの理念「LESS MASS MEANS LOTUS」を体現したという新世代グランドツアラーを、箱根で試した。パワーと軽さがポイント
レーシングマシンのコンストラクターに端を発し、その後は軽量ピュアスポーツカーのスペシャリストへと軸足を移して現在に至るイギリスの名門、ロータス。
このブランドにまつわる最近のホットな話題は、「量販モデルの開発と生産を行うロータス・カーズの過半の株が、中国の自動車メーカー、ジーリー(吉利汽車)によって取得された」という驚きの発表だった。
ちなみにジーリーといえば、2010年からはボルボ・カーズの親会社。となると、現在はトヨタ製エンジンに独自のチューニングを施して搭載しているロータス各モデルの心臓は、いずれボルボ製ユニットに変わるのか!? と、つい先日までは思いも寄らなかったそんなストーリーも、現実味を帯びてくるというものだ。
一方で、今回ここでお届けする話題は、現行ラインナップ中で唯一リアシートを備える、フラッグシップモデルであるエヴォーラに加えられた新バージョン「スポーツ410」。従来の「400」に対するリファインの主たるポイントは、搭載するトヨタ製エンジンの出力上乗せと、大幅な軽量化という2つがメインである。
中でも、後者に対する取り組みはフロントフードやルーフパネル、テールゲートなどのカーボンファイバー素材化や、バッテリーの軽量リチウムイオン化など多岐に及んでいる。加えれば、同様の目的で、先に紹介した“リアシート”も、あっさり省略されてしまっているのだ。
レーシングとスポーツの中間
かくして、「400」比で70kgほどに及ぶそんな軽量化のための取り組みは、そもそもストイックでスパルタンなエヴォーラのルックスに、さらにスパイスを効かせる結果にもなっている。
4390×1850mmという全長×全幅に対して、全高はわずかに1240mm。まさに「地をはうような」という表現がピタリと決まるそのプロポーションは、ちょっと小ぶりな“スーパーカールック”そのものという印象。フロントスプリッターセクションやミラーケース、リアディフューザーフィニッシャーにもカーボン素材が標準で採用されるのが、スポーツ410ならではのトピックだ。
そんなエクステリアデザインに対するスタンスを反復したかのように、インテリアでも“レーシングカーとスポーツカーの中間”といった雰囲気が醸し出されている。
「400」では標準装備のクラリオン製のナビゲーションシステムは、“軽さ命”のこちらではオプション設定。ちなみに、今回のテスト車にはそれがオプション装着されていたが、走るために徹したシンプルなインテリアの中にあって、異質な2DINサイズの画面が必要以上に目立ってしまっている印象は否めない。
もちろん、現在では「ナビゲーションシステムは必須のアイテム」と考える人は少なくないだろう。が、ストイックでピュアなスポーツカーらしいインテリアにこだわる人からは、「いざという場合にはスマホで済ませるので、雰囲気を壊す大きな画面は欲しくない」という意見も聞こえてきそうだ。
走り以外の機能は最小限
低いフロアに“じか付け”されたかのようなシートへと腰を下ろし、前方へとほとんど水平に脚を投げ出すドライビングポジションは、まさにレーシングカーの感覚。それでも、サイドシル幅がスリムでその高さもさほど極端ではないため、覚悟していたよりも乗降が楽なのは、押し出し結合式のアルミ製フレームが当初から実用性にも配慮したデザインになっているからだという。
逆に、そんな実用性の面においての大きな難点は後方視界で、まずはルームミラー越しの視界がテールゲートと一体化されたルーバーに遮られ、「絶望的に見えない」という状況。加えて、右側ドアミラーに映し出される像も、少なくとも筆者が希望する角度には鏡面調整ができないために、後方確認のたびにミラーへと近づく必要があるというありさまだった。
一方で、絶対的な機能数が少なく、ライトやワイパーなどのスイッチがダッシュボード端のダイヤルやコラムから生えるレバーへと分散配置された操作系は、走り始めれば瞬時に慣れることができて、まさに“思いのまま”に操ることができた。
昨今は「コネクティビティー」がもてはやされ、たとえ安価なスモールカーであっても、まるでオフィスで働く時と同様の多数の機能を備えることが売り物になっている。
が、果たしてそれらのいくつが本当にクルマに必要で、多過ぎる機能はむしろ安全の妨げになっているのではないか? と、“旧態依然”とした装備のこうしたモデルに乗るたびに、そんなことを考えさせられるのである。
美点は自在なハンドリング感覚
まずはイグニッションキーをひねり、次いでスタートボタンを押すという2段階の操作で背後の心臓へと火を入れると、メカニカル・スーパーチャージャーがアドオンされたトヨタ製の2GR-FE型3.5リッターV6ユニットは、即座に目を覚ます。
「400」と同様、ステップ式6段ATも用意されるが、今回のテスト車は6段MT仕様。走り始めると1速、2速間のギア比がやや離れ気味に感じたが、低回転域から十二分なトルクを発するエンジンのキャラクターゆえ、気になる加速の落ち込みは感じられない。
右ハンドル仕様であるものの、3つのペダルのレイアウトを含めドライビングポジションに違和感はナシ。ステアリングホイールから手を降ろした“ほぼその位置”にあるシフトレバーは、操作ストロークが小さく、ほとんど手首の動きのみで操作できるのが好印象。ただし、アルミ製のノブはこの時期「ヒヤッ」と冷たい。朝一番で乗る際には、ドライビンググローブが必須と言いたくなる。
ミシュランの、「パイロットスポーツ カップ2」なるドライグリップ重視の浅溝タイヤを履くゆえ、雨が降らなかったことに心底感謝をしつつ、ワインディングロードで走りのペースを上げていくと、街乗りシーンでは時にチョッピーな乗り味であったことから予想をしたよりも常に接地性が高く、決して跳ねるような挙動を示さないことに感心する。
あれ? これってアシスト付きだよね……と、思わずそんなことを確認したくなる重め味付けのステアリングは、路面とのダイレクトなコンタクト感が売り物のひとつ。コーナーの大小にかかわらず、常に自分が“旋回中心”にいるかのような自在なハンドリングの感覚と、416psと420Nmという高出力/大トルクを無理なく路面へと伝えるミドシップレイアウトの持ち主ならではの高いトラクション能力も、もちろんこのモデルでの走りの美点となる。
欲を言うならば、高回転域になって耳にできるちょっと無理やりの“ラッパ音”のようなサウンドを含め、心臓部にはフィーリング面でもう一歩のエモーショナルさが欲しいところ。
だけど、本当に“ボルボエンジン”が実現したら、そのあたりはどうなるんだろう? と、今となってはそんなことも感じさせられる最新ロータス車なのである。
(文=河村康彦/写真=小林俊樹/編集=近藤 俊)
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テスト車のデータ
ロータス・エヴォーラ スポーツ410
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4390×1850(ミラー除く)×1240mm
ホイールベース:2575mm
車重:1325kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:416ps(306kW)/7000rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:1344万6000円/テスト車=1452万6000円
オプション装備:メタリックペイント<メタリックホワイト>(23万7600円)/インテリアカラーパック<レッド>(10万2600円)/クラリオン製SD AVナビゲーション/VICS/ETC2.0/リアビューカメラ(35万1000円)/防音仕様(5万4000円)/エアコンディショニングユニット(30万2400円)/フロントマッドフラップ(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3120km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:257.0km
使用燃料:37.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/12.2リッター/100km(約8.2km/リッター)(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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