メルセデス・ベンツSLK350ブルーエフィシェンシー/200ブルーエフィシェンシー【試乗記】
原点回帰という名の進化 2011.08.11 試乗記 メルセデス・ベンツSLK350ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)/200ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)……831万2000円/588万4000円
7年振りにモデルチェンジしたメルセデス・ベンツのコンパクト2シーター「SLK」。その走りはいかなるものだったのか? 神戸〜高松で試した。
あれやこれやと進化している
「バリオルーフ」と呼ばれる可動式ハードトップのスイッチは、初代や2代目とほぼ同じ場所にあった。センターコンソールの、ちょうどドライバーの左ひじが来るあたり。しゃれた小物入れのフタのようなものをはね上げると、銀色のレバーが現れる。これを引くこと18秒ほどで、頭の上に瀬戸内の、青く、高い空が広がった。オープンカーに乗っていて、一気に気分が高揚する瞬間だ。
ルーフの作動時間は、先代型と比べてさらに数秒短縮されている。これはルーフフレームの軽量化によるところが大きいという。マグネシウムが採用され、6kgの軽量化を果たしている。
「サンリフレクティングレザー」と呼ばれる、熱線を反射するコーティングが施された革を使ったシートも、新型ではベースグレード以外で標準装着になった。これは、通常のシートより表面温度が最大で13度も低く抑えられるというスグレモノである。
さらに、今回の試乗会では残念ながら見ることはできなかったが、ルーフトップの濃淡をボタンひとつで変えられる「マジックスカイコントロールパノラミックバリオルーフ」なる画期的なオプションも用意される。オープンカーもあれやこれやと進化している。
一方で、クルマも3代続けば、伝統というかDNAというか、これはかたくなに守っているな、と思える部分も見え隠れしてくる。「SLK」の場合、たとえば前後に短く、左右が高いタイトなキャビンスペースなどは確実にそうだろう。守られているような感じが強く、座ればすぐに「あ、SLKだ」とわかる居住まいである。それに対して、ダッシュボードとセンターコンソールが形作る力強い「T」シェイプの造形は、どちらかといえば初代に戻ったような印象もある。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ラグジュアリーなスポーツカー
ルーフを開けて、淡路のすいた自動車道をゆったり流す。背後からは3.5リッターV6エンジンが発する低い排気音が響いている。このエンジンは「CLS」や「Cクラス」に搭載されるバンク角60度(従来は90度)の新しい直噴「ブルーダイレクト」エンジンで、巡航時にはリーンバーンに切り替わり、燃料消費を抑えるようになっている。またエンジンスタート/ストップ機能などを併せ持つことで、従来の3.5リッターと比べて燃費は約45%も改善されているという。すごい進化である。
そんなにエコなエンジンでありながら、スポーツカーに欠かせないリッチでダイナミックな動的質感も色あせていない。スロットルを大きく踏み込めば、排気音のトーンがいちだんと高まり、ありあまるトルクで車体が前へ前へとグイグイ押し出される。引き続き“肉食系”の迫力に満ちている。
7段ATの「7Gトロニックプラス」はシフトアップしたことをまったく感じさせず、きわめてスムーズに動作する一方、旧型と同様に5速から7速までがクロスした設定になっており、特に高速道路のような高い速度域におけるテンポのいい走りにつながっている。
SLK350はスポーツカーには違いないが、トゲトゲしいところがない。ロングツーリングに出かけたくなるような、どちらかといえばラグジュアリーさが持ち味のクルマである。特にそう思わされるのが乗り心地だ。試乗車には、電子制御ダンパー、トルクベクトリングブレーキ(コーナリング時に内側の後輪にブレーキをかけて安定性を高める機能)、ダイレクトステアリング(ギア比を変化させてロック・トゥ・ロックの回転数を減少させる機能)がセットとなった「ダイナミックハンドリングパッケージ」が装着されていた。
そのおかけで、ワインディングロードではきわめて素直に曲がるクルマになっていたが、乗り心地のほうも、この次に乗る標準サスペンション仕様の「SLK200ブルーエフィシェンシー」とは明らかな違いがあった。目地段差に対する“当たり”はひたすら柔らかく、しなやかで、それでいて奥には大入力に対してグッと踏ん張る腰の強さを隠していた。メルセデスと聞いて期待するものがひととおり入っているSLK、といった感じである。
SLKらしいのは「SLK200」
ところでメルセデスは、年内に「Aクラス」や「Bクラス」のモデルチェンジを控えている。つまり、とかくユーザーの年齢層が上がりがちな同社にとって、今年はユーザーの若返りを果たす意味で勝負の年なのだ。そこでSLKも若返りを意識したラインナップとなっており、SLK200ブルーエフィシェンシー(580万円)の下に「SLK200ブルーエフィシェンシー スポーツ」という廉価版(525万円)を設定してきた。となれば、販売は当然SLK200シリーズが中心となってくるはずだ。SLK200の仕上がり具合は、あるいはSLK350より重要といえるかもしれない。
旧型では1.8リッター直4にスーパーチャージャーを装着していたが、新型ではターボに改められた。さらにトランスミッションが5ATから、こちらもSLK350と同じ7Gトロニックプラスに進化している。その走りは、こちらもなかなか力強い。最初こそ、スーパーチャージャー時代よりスロットルの反応が穏やかになった気がしたが、しばらく乗っているうちに、それも気にならなくなった。もしかすると7Gトロニックプラスがあまりにスムーズなために、なおさらそう感じた可能性もある。
SLK200でもAMGスポーツパッケージを選べば、前述の「ダイナミックハンドリングパッケージ」をオプション選択することもできるが、今回試乗したクルマは標準サスペンション仕様であった。こちらは、ランフラットタイヤ(グッドイヤー・エクセレンス)を履いている影響もあると思うが、少々しなやかさに欠け、コツコツと硬い乗り心地を示していた。
しかし、筆者にはこれこそがSLK! という思いもある。スポーツカーならこれくらい足まわりがしっかりしていた方がそれらしいし、SLK350に比べてとにかくクルマの動きが軽い。調べてみたら、車重の差は120kgもあった。振り返れば、初代のSLKは4気筒エンジンのみでスタートした。4気筒のパッケージは、SLKの原点ともいえるものなのだ。
SLKに初めて乗ったのは、今から15年前、ローマでの国際試乗会でのことだった。今回、軽さと少々の骨っぽさを感じさせるSLK200のステアリングを握ったときに、なぜだかあの初々しかったSLKのことを思いだした。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

竹下 元太郎
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。