日本では知られていない銀幕の名優
“ハリウッドのアウトロー”ダッジが背負う反逆の物語
2018.03.19
デイリーコラム
アメリカの映画を飾るアウトローの象徴
<中央道を235キロで走行>
<史上最高速度のスピード違反で逮捕>
センセーショナルな見出しが躍ったのは3月1日のこと。100km/hの制限速度を135km/h超過する235km/hで走行しているクルマをオービスがとらえ、ドライバーを特定して逮捕に至ったという。
実際に走行したのは2016年1月29日だというから、2年以上にわたって捜索が行われていたことになる。時間がかかったのは、ナンバープレートが外されていたからだ。オービスに写った容疑者は、中指を立てていたらしい。捕まえられるものなら捕まえてみろ、とケンカを売ったのだろうか。同じクルマでほかにも5件以上の速度超過がオービスにとらえられているそうで、さすがに警察も本気になる。一部でささやかれていた「200km/h以上で走ればオービスに写らない」という都市伝説も、これで間違いであることが確定した。
注目が集まったのは、彼が乗っていたクルマだ。「ダッジ・チャレンジャー」である。クルマ好きなら誰でも知っているアメリカの代表的なスポーツカーだが、一般には知名度が低かったようだ。世間では高速道路を飛ばすクルマといえば「ポルシェ」か「フェラーリ」と相場が決まっていて、「ダッジって何?」「チャレンジャー? はぁ?」という感じの受け止め方だった。正規輸入されていないので、仕方がないことではある。
この事件でダッジを知った人は悪い印象を抱いてしまいそうだが、もちろんクルマに責任があるはずがない。ただ、映画の世界ではダッジがアウトローのクルマであるというイメージが定着している。悪役イメージを強烈に打ち出したのが、以前にも紹介した1968年の『ブリット』だった。殺人犯がチャレンジャーの兄貴分たる「チャージャー」で逃げるのを、「フォード・マスタング」に乗るスティーブ・マックイーンが追い詰める。サンフランシスコの坂をジャンプしながらバトルを繰り広げるシーンは、今も映画史最高のカーチェイスとされている。
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アンチヒーローに求められるシリンダー数と排気量
1971年の『バニシング・ポイント』では、社会に反逆するヒーローとしてチャレンジャーが登場した。デンバーからサンフランシスコまで15時間で陸送するという賭けをした男が、取り締まろうとする警察と対決する。ラジオで実況中継されると権力に立ち向かう彼の行為に全米が熱狂するのだ。1974年の『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』も逃走劇で、チャージャーがパトカーを蹴散らした。悲しいことに、これらのダッジはすべて最後に爆発炎上してしまう。
マッスルカー全盛だった時代に、ダッジはアウトローのクルマとしての地位を確立した。その余韻は21世紀になっても続いていて、最近の映画でもダークな役割を演じることが多い。2015年の『ナイトクローラー』では、「トヨタ・ターセル」に乗っていたパパラッチが違法スレスレの取材でのし上がり、ついにはチャレンジャーを手に入れる。最高の武器を得たことで、主人公の狂気はエスカレートしていく。
2001年に始まった『ワイルド・スピード』シリーズでは、ヴィン・ディーゼルの演じる主人公ドミニクが一貫してチャージャーに乗っている。ここ何作かでは警察と協力してテロリストと戦ったりしているが、もとはトラック強盗のボスだった。見た目からして正統派ヒーローではなく、ワルモノ感が漂う。最新作では北極の氷上を激走して潜水艦と戦っていた。『ブリット』ではかませ犬だったが、ダッジは今や世界の破滅を救う無敵のクルマなのだ。
件(くだん)のスピード違反事件では、テレビで流された容疑者逮捕時の映像が話題になった。連行されながらニヤニヤ笑っていたのだ。ダッジ乗りの彼は、自分がアウトローの系譜に連なっていると考えているのだろう。残念だが、客観的に見ればただのスピード違反である。ヒーローを気取るには、説得力のある反逆の物語を持っていなければならない。
チャージャーもチャレンジャーも、上級モデルにはV8エンジンが搭載されている。大排気量のV8は、マッチョなアメリカ車には不可欠な要素だ。ダッジにはさらに上を行くモデルの用意もあった。今はなき、V10エンジンの「バイパー」だ。気筒数が25%多いのだから、アウトロー度合いもそれに比例して増加しているに違いない。詳しく知りたいという奇特な方は、こちらのページをご覧ください。
(文=鈴木真人/編集=堀田剛資)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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