BMW 640i xDriveグランツーリスモMスポーツ(4WD/8AT)
駆けぬけぬ歓び 2018.07.31 試乗記 「BMW 6シリーズ」に、リアに巨大なハッチを備えた「グランツーリスモ」が仲間入り。まずは特徴的なスタイリングに目を奪われがちだが、その価値は見た目のみにあらず! リポーターを驚かせた、現行BMW車のラインナップで一番ともいえるポイントとは!?BMWらしいエリート感が希薄……
BMWのグランツーリスモ(GT)シリーズは、正直なところ、かなり人気薄なモデルである。セダンやツーリング(ステーションワゴン)よりスポーティーで、しかもアクティブに使えるというコンセプトは、少なくとも日本では中途半端に感じられる。日本以外では「これ、ちょうどいいね!」と捉えられているのかもしれないが、本邦では「どっちかにせいや!」というところです。
いや、人気薄の本当の理由は、「なんだかあんまりカッコよくないなぁ」、つーのが最大のものかもしれない。
居住性やラゲッジルームの実用性を高めるために、全高を高く取り、かつハッチ後端の位置も高くして、SUVとステーションワゴンの合体スポーティー版(?)にしているのだと思いますが、おかげでどうにも胴体がポッテリしてしまって、BMWらしいエリート感が薄い。これは「3シリーズ」と「5シリーズ」、両方のグランツーリスモに共通するポイント。どうせハッチバックなら、もっとフツーにハッチバックにしといてくれりゃ、日本でももっと売れたかもしれない。
それが証拠に、ライバルであるアウディの「スポーツバック」シリーズは、なかなか好調だ。アレはアウディらしいエリート感とアクティブ感を見事に両立させていて、「遊んでるエリート」に見える。メルセデスの「シューティングブレーク」シリーズにも、似たようなプラスイメージがあるでしょう。
一方、BMWのグランツーリスモシリーズは、「BMWにこんなのあったの!?」「なんでわざわざコレ買ったの?」という反応が待っている気がしてしまうのです。あくまで臆測ですが。
しかしBMWは、このコンセプトに自信を持っているのでしょう。5シリーズのグランツーリスモが出た後に、ほぼその縮小版である3シリーズのグランツーリスモも出したのですから。日本人としては「えっ、また出たの?」でしたけど。
先代よりは“ふつう”になった
そんなBMWのグランツーリスモシリーズの元祖・5シリーズ グランツーリスモが、このたびフルモデルチェンジを受け、6シリーズ グランツーリスモに生まれ変わりました。
日本人としては、「6シリーズの名声に不人気モデルを紛れ込ませたのかな~」みたいな、これまた悪い想像を働かせてしまいますが、「クーペ」や「グランクーペ」や「カブリオレ」などの変わりダネモデルは、偶数に移行させるというのが、BMWの方針なのだと思われます。つまり3シリーズ グランツーリスモも、次は「4シリーズ」になるのですね? わかりませんが。
で、今回試乗したのは、「640i xDriveグランツーリスモMスポーツ」。オプションが100万円分ほど付いて、価格は1181万6000円。う~ん、このいいお値段も、「6」という数字が付いてると、けっこう納得してしまうかもしれない。
実物の6シリーズ グランツーリスモを見ると、先代(5シリーズ グランツーリスモ)に比べて、だいぶBMWらしく“ふつう”になったという印象です。
5シリーズ グランツーリスモは、SUV並みに全高が高かったが、6シリーズ グランツーリスモは、それより25mm低くなり、かつ全長が105mm伸びている。ボディー後部のポッテリ感は残っているが、全体のフォルムが低く長くなったので、ジャガイモがサツマイモになったくらい違う。可動式リアスポイラーをせり出せば、後続車に対する威嚇力も増す。
ちなみに現行6シリーズのホイールベースを調べると、クーペとカブリオレは5シリーズより短くて、グランクーペは5シリーズと同じ。そしてこのグランツーリスモはなんと「7シリーズ」と同じ! しかも全高は7シリーズより60mmも高いので、パッと見、5シリーズより7シリーズに近い、堂々としたイメージになっております。
この乗り心地は“船”だ
大きくなった恩恵は、当然居住性にもおよんでおり、後席は大変ゆったりしております。後席は左右独立した電動リクライニング機構も付いております。ちょっと「アルファード」みたいです。実際6シリーズ グランツーリスモは、SUVとステーションワゴンに加えて、ミニバンの長所を兼ね備えているともいえまして、後席の快適性はミニバン並み、ただし、重心の低さのおかげで、ロールによる体の横揺れは断然小さく、走行に関する快適性は、ミニバンをはるかにしのぐと言っていいかと思います。
さらに細かいところを申し上げますと、先代の5シリーズ グランツーリスモは、トランクリッドを内蔵した2ウェイのテールゲートがあり、セダンのようにも使えましたが、今度の6シリーズ グランツーリスモは、普通の一枚型テールゲートになっています。おかげで、足の動きだけでテールゲートを開閉できる“イージーアクセス”が可能になり、重量もかなり軽くできたとのことです。
というような予習を頭に詰め込んで、いよいよ試乗させていただきましょう。
まず驚いたのは、とてもとても乗り味がソフトなことでした。フッワフワです! こんなフワフワしたBMW、他にあったっけ? 7シリーズよりジェントルじゃないかこれ? 4輪アダプティブエアサスペンション恐るべし。
BMWといえば、駆けぬける歓び。足をガチガチに固めてステアリングレスポンスをビンビンにシャープにして、うりゃ~~~~~! という時代もあったのですが、同じメーカーがここまで変えちゃうのか! というくらい、フンワリしているのです。
もちろん、コーナーで腰砕けになるようなことはなく、アダプティブなだけにやるときは自動的にヤルのですが、ふつうに走っている限り、前後左右にフワフワと、船に乗ってるみたい。
ちなみにこのフワフワは、デフォルトである「コンフォート」モードの場合で、「スポーツ」に切り替えると、少しはBMWっぽくなるのですが、それでも十分すぎるほど当たりはソフト。20インチタイヤを履いて、こんな乗り心地が実現できるのか! と思ってしまいました。
BMWの現行ラインナップで最も安楽
これに乗ると、今になって足まわりを超スポーティーに固めている、「レクサスLS」や新型「クラウン」の立場はどうなるんだ! とも言いたくなります。BMWを目指してきたのに、はしごをはずされた! と。
しかし、世界のトレンドを作ってきたドイツ御三家の乗り味は、確実にこっちの方向に向かっています。トヨタは見事にそれに逆行しているのです。スポーティーな走りにこだわる章男社長への社内の忖度(そんたく)があるのでしょうか。いや、あえての逆張りでしょうか。今回の試乗とはまったく無関係な話で申し訳ありません。
エンジンは、おなじみストレート6の3リッターツインパワーターボ。印象的だったのは、常用域である低回転での、とろけるような滑らかさとトルク感。フワフワした船みたいな乗り味とあいまって、メルセデスの「Sクラス」をも超えたのでは!? というくらい安楽です。
「GT」というと、昔は峠をかっ飛ばすオオカミというイメージでしたが、このGTはオオカミどころか、後席にVIPを乗せるのにも最適! 広くてとっても快適だし。
低い回転が気持ちいい分、トップエンドまでブチ回しても、それほどの高まりは感じないのですが、2000rpm以下でストレート6らしい絹のような滑らかさを満喫できるので、あえてブチ回す必要自体感じません。
というわけで、見た目は「カジュアルでアクティブな7シリーズ」な6シリーズ グランツーリスモですが、乗るとBMW現行モデル中、最も安楽で快適なおクルマなのでした。
(文=清水草一/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 640i xDriveグランツーリスモMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5105×1900×1540mm
ホイールベース:3070mm
車重:2010kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/5500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1380-5200rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y/(後)275/35R20 102Y(ピレリPゼロ)※ランフラットタイヤ
燃費:10.9km/リッター(JC08モード)
価格:1081万円/テスト車=1181万6000円
オプション装備:ボディーカラー<ミネラルホワイト>(9万円)/イノベーションパッケージ(26万円)/コンフォートパッケージ(36万6000円)/ピアノフィニッシュブラックトリム(6万1000円)/パノラマガラスサンルーフ(22万9000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:477km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
開幕まで1週間! ジャパンモビリティショー2025の歩き方
2025.10.22デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」の開幕が間近に迫っている。広大な会場にたくさんの展示物が並んでいるため、「見逃しがあったら……」と、今から夜も眠れない日々をお過ごしの方もおられるに違いない。ずばりショーの見どころをお伝えしよう。 -
NEW
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】
2025.10.22試乗記レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。 -
NEW
第88回:「ホンダ・プレリュード」を再考する(前編) ―スペシャリティークーペのホントの価値ってなんだ?―
2025.10.22カーデザイン曼荼羅いよいよ販売が開始されたホンダのスペシャリティークーペ「プレリュード」。コンセプトモデルの頃から反転したようにも思える世間の評価の理由とは? クルマ好きはスペシャリティークーペになにを求めているのか? カーデザインの専門家と考えた。 -
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。