第14回:メルセデス・ベンツCLS(後編)
2018.11.28 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
メルセデスの新世代デザインを体現した新型「CLS」について、「シンプルだけど工夫が感じられない」と述べた明照寺氏。現役のカーデザイナーが語る、新しいクルマをつくる上で「あきらめてはいけないこと」とは?
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キモはやっぱり“逆スラント”
永福ランプ(以下、永福):われわれ一般人は、顔つきとかヘッドライトの形などのディテールにすごく目がいくわけですけども、その点CLSはどうなんでしょう。個人的には、サイドの面はすごくシンプルになったけど、顔のディテールは逆にやや複雑にして、印象に残るようにしたのかなと思いますが。
明照寺彰(以下、明照寺):細かい印象に関しては、人それぞれになっちゃうんですけど、おそらくグリルからヘッドライトまで1つの長いスパンで見せたいという意図はあるんだろうと思います。遠目から見て、できるだけ幅広く、ダイナミックに見せたかったんじゃないかな。
永福:いや、それはプロの見方ですよ。もっとディテールの話です。特にヘッドライトの形状。完全に何かの動物ですよね、コレ。
明照寺:この顔の一番の特徴は、逆スラントですよ。
永福:そっちですか。
ほった:逆スラント、つまりフロントフェイスの上のほうが突き出ていて、前にかぶさっている形状ですね。
FRだからこそ可能になるデザイン
明照寺:例えばアウディで逆スラントにしようとすると、非常に難しい。顔の下の部分にはバンパービームが通っていて、削れないはずですから。
ほった:FFベースで、エンジンが前寄りにありますからね。
明照寺:だから削るんじゃなく、おでこの部分を突き出すような形状じゃないと成立しないはずなんです。ただそれだと、それこそフロントのオーバーハングがぐっと長くなってしまう。
永福:バランスが崩れてカッコ悪くなる。
明照寺:それに対して、CLSのようなFRのプロポーションなら、こういうこともできる。これはこれでメルセデスのアイデンティティーですよね。
永福:昔のクルマは逆スラントだらけだったけど、80年代から自動車デザインが空力に支配されるようになって、ほとんどなくなっちゃいましたよね。だからわれわれには、逆スラントへの飢えがある。
ほった:カッコいいですよね、逆スラント。
明照寺:以前取り上げた「ボルボXC40」も逆スラントでしたけど、あれはバンパーの上側だけでした。でもCLSは、フロントフェイス全体が逆スラントです。この部分には確かに工夫や主張が感じられるんですよね。ただやっぱり、その他のところは非常にさらっとやった印象です。
ほった:「AMG GT」や新型の「Aクラス」「Bクラス」を見ると、今後のメルセデスは順次、このカオで統一していくのかもしれませんね。
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衝撃的だった初代、ガッカリした2代目
永福:ところで明照寺さんは、初代CLSが出たときは、どう思われました?
明照寺:衝撃を受けましたね。
永福:ですか!
明照寺:それまでの真面目なメルセデスが、あんなものを出してきたんですから。クーペライクな4ドアというのもそうでしたけど、ボリュームの付け方とかドア断面の感じとかも、それまでとは違ったんですよ。
永福:「新しい」って感じました?
明照寺:感じましたね。伝統を残しつつ、新しさを出してるって。
永福:初代CLSは衝撃だったですよね。最初に思ったのは、「このクルマ、四隅の見切りがめちゃめちゃ悪い!」ってことでしたけど(笑)。でもあの時って、リーマンショック前で世界的にかなり景気がよかった。こういうスカしたクルマを求めるお客はいっぱいいる、みたいな感じはした。
ほった:「Sクラス」より安い感じがしないというか、ヒエラルキーのどこに入るかわからない感じがしましたもんね。新宿のホストにバカバカ売れたって話を聞きました。
永福:遊び人なイメージね。ほった君と正反対の。
ほった:当時は見ただけでムカつきました(笑)。
明照寺:わかりますよ。自分もやっぱり真面目なクルマが好きなんで、こういう世界にメルセデスが手を出したっていうと、世界の秩序が崩れる気がしました。
永福:そうそう、だからこそ初代のあのインパクトはスゴかった。反感を抱きつつも引かれてしまった。でもそこからすると、2代目は完全にトーンダウンしたように感じましたが。
明照寺:2代目CLSは最悪ですよ。
ほった:最悪ですか!
明照寺:初代も2代目も3代目も、シルエットは大差ないと思うんですよ。ただ2代目は、造形と関係ないモチーフだらけなんです。サイドのキャラクターラインは尻下がりですよね。でもリアフェンダーのふくらみが強調されていて、キャラクターラインがそこでせき止められている。非常にゴテゴテしてしまいました。
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新しさの提案をあきらめてはいけない
永福:それと比べると、3代目はゴテゴテを“断捨離”して、シンプルかつインプレッシブなフォルムに生まれ変わった――ってなりますかね?
明照寺:そうとも言えると思います。これを判断した人は、とても思い切ったのは確かです。ここまで何もしないデザインでよく我慢したなって。デザイナーはなんかやりたくなっちゃうものですから。ただ、やっぱり工夫がない。もうちょっと工夫を見せてほしかった。
永福:でも「ひょっとして、これは数年たったらカッコよく見えるのかもしれない」って思うんです。旧車みたいに。
明照寺:どうですかね。
永福:昔の大衆車って、今見るとものすごく単純で安っぽいデザインですよね。でもそれがカッコよく見える。ひょっとして新型CLSは、あえてそのセンを狙ったとか?
明照寺:昔のメルセデスもシンプルで武骨なデザインで、今見たらカッコいいって感じますよね。でもね、ただ単にクラシックなデザインで終了したら、それは違います。新しさも同時に出さないと。
永福:もう新しいデザインは無理だからやーめた! ってのはナシですか?
明照寺:ナシです(笑)。だからみんなすごく模索してるじゃないですか。マツダあたりからは「これは」っていう提案が出てくるんじゃないかって期待してます。次期「アクセラ」とか。シンプルで、なおかつ新しい造形が。
永福:やっぱそうじゃなきゃいけないんですかね。ただ古いだけじゃダメですか。
明照寺:ダメですね。
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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