ポルシェ911カレラT(RR/7AT)
結果にコミットしてる! 2019.01.08 試乗記 「ガレージを飾るのではなく、コーナーを攻め込むための一台」とアピールされる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードでむちを当ててみると、たしかに「これぞ911」というピュアな走りを楽しむことができた。半世紀ぶりの「T」
現行型911(991型)最後の追加モデルが、カレラTである。
なんで「T」!? と思った人は911の歴史家か、もしくはオトシヨリだ。初めて911にTというグレード名が登場したのは、911が産声を上げて間もない1968年である。当時の911Tはシリーズで最もチューンの低い、廉価グレードで、73年に「カレラ」が登場してからはずっと欠番になっていた。高性能化とイコールだった911の歴史のなかで、Tは出る幕を失っていたのである。
生誕50年目にあたる2018年モデルで復活したのは、TはTでもカレラTである。3リッターツインターボ370psのカレラをベースに、ボディーを軽量化し、機械式LSDを与え、PASM(電子制御ダンパー)を標準装備化し、ワンサイズ大きい20インチホイールを履くのが主だった専用装備。本国仕様では7段MTのクロースレシオ化が大きな売りだが、日本仕様は7段PDKのみである。そのため、ポルシェ ジャパンによれば、軽量化も20kgにとどまる。
カレラTの本命はどう考えてもMTモデルだが、日本に導入されない理由は、ズバリ、入れても売れないからである。2018年モデルから「GT3」にMTモデルが復活したが、日本での販売比率は1割にも満たない。さらにMTは、騒音規制をクリアするのもむずかしくなっているという。
カレラに軽量化という付加価値を施し、専用装備をプラスしたわけだから、復活Tは廉価版ではない。価格は1432万円。カレラより約190万円高い。しかも試乗車は例によってオプション満載で、総額1800万円近くに達していた。ちなみに、オリジナル911Tは2リッター110psで4段MT。三和自動車の価格は375万円でした。
違いは車内で実感できる
911に乗るのは9カ月ぶり、GT3以来である。公道レーサーのGT3のように緊張させられることもなく乗り込むと、エアコンルーバーの黄色がサプライスだった。レザー内装のステッチも黄色だ。911らしくなくて、イイ。
軽量化を象徴するのは、ドアハンドルのナイロンベルト化だ。これも黄色だから、室内ですごく目立つ。ただ、操作はしにくく、“引き”もかなり重い。最初、別のところにハンドルレバーがあるのか、探してしまった。助手席のVIPを降ろすときは、要エスコートである。
後席はない。2シーターである。しかしもともと911のリアシートは大人不可だ。カーペットは敷かれているから、収納としてはかえって使いやすそうだ。リアウィンドウとリアクオーターウィンドウもスペシャルである。フロントと叩き比べてみるとわかる。スマホにも使われている軽量強化ガラスで、4kg近い重量カットを果たしたという。そのほか、見えないところではボディーの吸音材も省かれている。
走りだすと、たしかにロードノイズは大きめだ。ノーマル・カレラより音がじかに伝わってくる感じがする。だが、それもほどほどである。GT3のようにリアタイヤの巻き上げた砂や細かい石がホイールハウスでチリチリはぜるようなことはない。
楽しむならスポーツ+
吸音材を省いたせいか、3リッター水平対向6気筒ツインターボのエンジン音もノーマルのカレラより少し大きいような気がする。しかしそれをいやがる911乗りはいないことを願いたい。筆者は911のアイドリングストップも納得いかない。止まると、いまでもカルくドキッとする。磨き続けて半世紀有余のフラットシックスも、止まっていたらゼロである。しかも、いかなPDKだって、発進はコンマワンテンポ遅れる。と考える人も多いのか、アイドリングストップのキャンセルボタンは、センターフロアのいちばん近いところに付いている。
高速道路100km/hでのエンジン回転数は、7速トップで1600rpm。ノーマルモードでアクセルを緩めれば、800rpmのアイドリングに落ちてコースティングする。100km/hでスポーツモードにすると、6速にシフトする。スポーツ+に上げれば、ブリッピングして4速まで落とす。カレラ系のエンジンは7400rpmまで回り、パドルを引けば100km/hでも2速(6000rpm)までシフトダウンできる。
スポーツ+では町なかでもこまめに回転合わせをして低めのギアを選び、スクランブル加速に備える。レーシングライクだが、実用をためらうほど激しくはない。エンジンマウントは最も硬くなり、フラットシックスの息づかいを味わうにはいちばんだ。
スポーツ+の乗り心地はさすがに硬い。そのかわり、受ける入力が増せば増すほど、しなやかさを増す。行きつけの山道にあるエゲツないほどデコボコしたスピードハンプ区間を突破して、911ほどアシとボディーが安定しているクルマはなかなかない。
プレーンな味の911
試乗中に出掛けたワインディングロードは、あいにく凍結防止剤がまかれていて、満足にスロットルを開けることはできなかった。しかし911カレラTのスペックを知っていると、町なかを走りだしたときから、たしかにぜい肉のない軽さを感じた。現行911で最もプレーンなドライブフィールが味わえるモデルといっていいと思う。
ガラス類の軽量化も賢いソリューションだ。ボディーの高いところにあるパーツだから、身のこなしの軽さに効いていそうである。ロードバイク(自転車)ライダーでも、スタンディングで自転車を振ったときに効くといって、いちばん高い位置にあるサドルを軽くしたがる人がいる。
ドアベルトは最後まで使いにくかったが、「愛には、引っかかるクギが要る」という言葉もある。いま、輸入車業界では発売記念の高付加価値モデル“ローンチエディション”がはやっている。911カレラTは991型のファイナルエディションとして、日常的に911のファン・トゥ・ドライブを楽しみたい人にお薦めだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ポルシェ911カレラT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4527×1808×1285mm
ホイールベース:2450mm
車重:1445kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段MT
最高出力:370ps(272kW)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1700-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.5リッター/100km(約11.8km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1432万円/テスト車=1778万5000円
オプション装備:カレラTインテリアパッケージ(46万5000円)/レザーインテリアブラック カレラTインテリアパッケージ<レーシングイエロー>(55万1000円)/リアアクスルステアリング(40万9000円)/グレートップウインドスクリーン(2万1000円)/パークアシスト<リバーシングカメラ付き>(29万円)/電動可倒式ドアミラー(5万5000円)/フロントエプロン塗装仕上げ(5万7000円)/リアエプロン塗装仕上げ(6万円)/ボディーカラー同色塗装エアベントストラット(15万2000円)/アルカンターラGTスポーツステアリング+PDKレバー(14万円)/アダプティブスポーツシートプラス(44万5000円)/スポーツクロノパッケージ(5万2000円)/LEDメインブラックヘッドライト<PDLS含む>(58万3000円)/ティンテッドテールライト(9万8000円)/アルミペダル(6万3000円)/アルミルック仕上げ燃料キャップ(2万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:4789km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:316.9km
使用燃料:36.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
NEW
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。 -
NEW
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?
2025.10.15デイリーコラムハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。 -
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。