第23回:ホンダNSX(前編)
2019.02.13 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
久々の復活を遂げた和製スーパースポーツ「ホンダNSX」。そのデザインは、現役カーデザイナー明照寺彰の目にどう映ったのか? 数あるクルマのジャンルの中でも、スーパーカーのデザインが最も難しいとされる理由とは?
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初代はオリジナリティーがあったのに……
明照寺彰(以下、明照寺):このクルマの一番残念なところは、先代とまったく違うカタチになったことだと思うんですよ。
永福ランプ(以下、永福):あっ! そこですか。
明照寺:もちろん、先代が出たのは30年近く前なので、現代とは何もかも違っています。デザインが変わるのも当たり前の話ですけど。
永福:でも、先代の匂いすらない。
明照寺:私が先代NSXのどこに引かれたかっていうと、オリジナリティーがあったことなんですよ。先代が出てきたときには、私はまだそんなに大きくはなかったけど、クルマ好きだったのでよく覚えてるんです。正直なところ、最初からあまり新鮮味はありませんでした(笑)。
永福:すごい洞察力を持ったチビッコですね(笑)。
明照寺:「すげえなぁ!」っていう感じは全然なかったんですけど、その当時のフェラーリなどに比べて、どこかしら知性を感じたんです。で、話を聞くと、その頃の他のスーパースポーツに比べて、圧倒的に乗りやすいし、視界もいいということで、すごくオリジナリティーがあったと思うんですよね。当時はちょうどF1ブームでもありましたし、本気で憧れました。
永福:新鮮味はなかったけれど、憧れたんですか?
明照寺:憧れましたよ。ホンダが国産初のスーパースポーツを出した。価格も800万円で、子供には買えないけど(笑)、いつか手が届くんじゃないかと思えましたし。
永福:夢は少し身近なほうがいい。
プロポーションが似すぎてませんか?
明照寺:それに対して、新型はこうして見比べると、結構フェラーリのプロポーションに近いんですよ、「458イタリア」のプロポーションに。
永福:そうなんですか! 開発陣は458イタリアを購入して研究したそうですが。
明照寺:フードの位置関係からルーフのシルエット、それに対するタイヤの位置関係とかが非常に近いです。新型NSXは、結構“王道”なんですよ。
永福:グラフィックがまったく違うので、似ている感じはしないけど、プロポーションは458に近いわけですね。
明照寺:先代NSXは、その辺からしてオリジナルだった。あのクルマにしかないような雰囲気があった。
ほった:ガラスエリアがえらい広くて、リアオーバーハングも長かったんですよね。
明照寺:でも新型は、フェラーリに近いカタチで成り立っている。だからこそ差別化したいわけです。結果、ディテールでコテコテにがんばっている。どこかコテコテしたフェラーリみたいな感じがするでしょう?
永福:いや、言われるまでまったく違うと思ってました(笑)。
明照寺:実は近いんです。だからオリジナリティーが不足してる。例えばマクラーレンも、後発だから苦労したと思うんです。最初はすごくコンサバなものを出したでしょう。
永福:「MP4-12C」は、デカい「ロータス・エリーゼ」みたいでした。
明照寺:その後、ようやく他にはないテイストが出てきた。そのあたり、かなりハードにトライしていると感じます。
永福:確かに、マクラーレンは「720S」のデザインで別次元の何かをつかんだ気がしますね。
カーデザインの中でも特に難しいジャンル
明照寺:一方で、新型NSXのオリジナリティーは何かというと、どうしても全体像よりディテールに目が行ってしまう。
永福:そのディテールがとても残念なんですよねえ……。
明照寺:まあ、デザイナーにもカテゴリーによって得意不得意があるし、今までの仕事とは違うカテゴリーを担当すると戸惑うことが多いんです。中でもスポーツカーは、長年培ってきたものがどうしても必要になる。正直な話、クルマのデザインの中でも特に難しい分野だと思ってます。
永福:なにせ、リリースされるモデル数自体が少ないですしね。
ほった:腕を磨ける機会がない。
明照寺:自分も今こうやって偉そうに語ってますけど、「じゃぁオマエできるのか?」と言われると厳しいでしょう。この分野でスゴいオリジナリティーを出しつつ魅力的なデザインをつくるというのは、非常に難しいことなんです。
永福:あまりにも難しくて、新型NSXはハードルを越えられなかった。
明照寺:新型NSXとフェラーリとは、確かに違うけれど、遠目で見るとそんなに大差ない。「もうちょっとプロポーションでなんかできなかったのかな?」って思います。
練習量が全然違う
永福:スーパースポーツは基本的に、幅が広くて背が低いわけです。で、幅を広げて背を低くするだけで、クルマは絶対的にカッコよくなるはずですよね。無条件に速さを予感させるので。
ほった:確かに。モーターショーのコンセプトカーだって、みんな市販版より背が低くてワイドですもんね。背の高いスーパーカーなんて、想像しただけでも様にならない。
永福:でも、皆がロー&ワイドだからこそ、その中で個性を出すのは逆に一番難しいのかもしれない。
明照寺:非常に難しいですよ。
ほった:力強く断言ですね。
永福:マクラーレンですら、最初は苦しんだんですからね。
明照寺:ホンダだって、長い間スーパースポーツをつくってなかったじゃないですか。それでいきなり「これをやれ」っていうんだから、やっぱりすごく大変だったはずです。
永福:だからこそフェラーリもランボルギーニも、過去の遺産を最大限生かそうとしている。考えてみればアウディはすごいですよね。まったくの後発で、「R8」という明らかに違うカタチをいきなり提案して、成功させたんだから。
明照寺:あれは本当にまれな例ですよ。マクラーレンもそうでしたけど、普通は時間がかかるはずです。ある程度数を出さないとダメだから。
永福:ホンダは、26年間でようやく2つ目のスーパースポーツですからね。
ほった:かといって、こんなクルマ、ポンポン出せるもんでもない(笑)。
永福:でもフェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレンは、それこそポンポン出してる。ヘタすりゃ1~3年おきに。練習量が違うんだよね。
(文=永福ランプ<清水草一>)
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明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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