英断か? 勇み足か?
ホンダの欧州生産撤退の真の狙いとは
2019.02.25
デイリーコラム
世界的な生産体制の大変換
2019年2月19日、ホンダは突然記者会見を実施した。その内容は大きく2点で「社内の運営体制の変更」と「グローバル四輪車生産体制の変更」というものであった。そこで驚かされたのは、「2021年をもって英国とトルコにおける完成車の生産を終了する」という発表だ。わざわざ平日の夕方に緊急で記者会見を行ったのは、HUM(ホンダ・オブ・ザ・ユーケー・マニュファクチュアリング社)での労使間の協議が始まるタイミングに合わせたというわけだ。
英国とトルコという、欧州での生産の2021年の終了。これは過去のホンダの方針からの大きな転換を意味する。現在のホンダの社長である八郷隆弘氏は、2015年の社長就任からずっと「6極体制」を掲げてきた。「日本、北米、欧州、アジア・大洋州、中国、南米」という6極でクルマを生産し、それぞれの足りないところは補完しあうという体制だ。HUMは2015年に2億ポンド(約300億円)もの投資のもと新型「シビック」の生産拠点となり、世界各国へクルマを送り出した。この方策によって、減産が続いていた欧州拠点は2016年より息を吹き返す。2018年こそ減産となったが、それでも3年ぶり。それほど業績が悪いわけでもない。それなのに、突然の降って湧いたようなリストラだ。英国では、大騒ぎになるに違いない。
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理由はブレグジットではない
しかも今は時期が悪い。なぜなら今、英国はブレグジット(EUからの離脱問題)で混乱の最中。そこでの英国での生産終了の発表は、まるで混乱する英国から逃げ出すようにしか見えない。実際に記者会見では、英国での生産終了とブレグジット(英国のEU離脱)との関係性がしつこく問われ、それに対して八郷社長は一貫して「関係ない」と答えていた。
では、ブレグジットと関係ないのであれば、なぜ、ホンダが欧州での完成車の生産を終了するのか。
ホンダが発表してきたこれまでの方針を振り返ってみると、おぼろげながら理由が見えてきた。それは未来に対する備えだ。ホンダは2017年に「2030ビジョン」を発表し、それに沿った取り組みを進めている。ビジョンの最大のポイントは「2030年にホンダの販売するクルマの3分の2が電動車になる」という部分だ。目標達成には電動車の開発だけでなく、当然ながら生産体制の見直しも必要となる。すでに国内の生産体制の変更はスタートしており、埼玉の狭山と寄居の2つの工場を寄居に集約。ここを電動車などの新技術を使うクルマの世界的な旗艦工場にするとした。この寄居への機能集約も、2021年の完了を予定している。
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欧州生産にこだわるメリットはない
緊急記者会見で八郷社長は「欧州域内での電動車生産は競争力などの観点で難しいと判断」「次世代のシビックのことを考えてのタイミング」「EUは2025年には3分の2が電動化している」と述べた。また、「EU向けの電動車は、日本と中国から送る」とも。つまりは、次世代のシビックは電動車になり、それを欧州で生産していては競争力が得られないというのだ。さらに言えば、電動車の生産は日本と中国、旧来のエンジン車はアメリカと、生産拠点を集約する考えもあるのだろう。そうした中で中途半端な立ち位置となるUKとトルコの生産拠点は、お役御免となったという流れに見える。
そうしたホンダの大きな流れを考えれば、確かにブレグジットは関係なさそうだ。しかし、タイミングの悪さは否めない。最近のホンダの社長は6年ごとに交代している。その前例に沿えば、八郷社長の勇退は2021年ごろ。欧州市場の変化を見て、難しい判断を次期社長に託すことも可能だったろう。そこを一歩早めて実施した。次世代の負担となると考えたUKとトルコのリストラは、次期社長への置き土産になるのではかろうか。八郷社長は意外とおとこ気のある人物なのかもしれない。しかし、もしも欧州や世界の電動化がホンダの予想通りに進まなかったら、今回の施政は勇み足になる。その如何(いかん)は歴史が証明することだろう。
(文=鈴木ケンイチ/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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