第38回:三菱eKクロス(後編)
2019.06.26 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
この“顔”はスポーツカーにもよく似合う!? SUV風のデザインが目を引く、三菱の新しい軽乗用車「eKクロス」。迫力満点のフロントマスク「ダイナミックシールド」の特徴とアドバンテージを、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
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フロントマスクに集中投資
明照寺彰(以下、明照寺):それにしてもeKクロスは、コスト管理の厳しい軽自動車なのに、フロントにランプが6個も付いてるわけじゃないですか。それだけで相当スゴいし、よくやるなぁと感心します。
永福ランプ(以下、永福):あ、そうか。「デリカD:5」と同じで、この真ん中の縦長のがヘッドライトなんですもんね。
明照寺:そうなんですよ。「シトロエンC3」あたりから始まった流れが、もう軽自動車まで来たってことなんです。
永福:しつこいようですが、「日産ジューク」からでは……。
明照寺:ええ、まぁ(笑)。
ほった:ホントにこだわりますねぇ(笑)。
明照寺:とにかくeKクロスの顔まわりは非常にコストがかかっているし、ぜいたくなんです。そのかわり、サイドのホイールアーチに沿ったモールディングは貼り物っぽい。いわゆるシール的なもので、そういうところではコストを抑えています。けど、サイドより顔を重視したのは、賢い選択なんじゃないでしょうか。
永福:人もクルマも顔が命。
明照寺:eKクロスは個人的にかなり好印象なんです。それであらためて思ったんですけど、やっぱり顔まわりって重要だなぁと。
永福:重要ですよ!
顔もフォルムも両方大事
明照寺:デザイナーの立場としては、全体のシルエットや大きな立体構成が一番難しいところだし、そこで個性が出るので、そっちを重視するんですけど。
永福:デザイナーさんは圧倒的に全体のフォルムを大事にしますよね。それはもちろんそうなんでしょうけど、一般人はまず顔に目がいく。そりゃあフォルムがメタメタだったら顔のよさもクソもないですけど、顔がダメだったらフォルムのよさもフッ飛びますから、同じくらい重要ってことでしょうか?
ほった:顔だけがよくて体形がダメダメなのと、スタイルがよくて顔が悪いのとどっちが好きかっていうのも、かなり究極の選択ですね。
永福:その流れで言うと、兄弟車の「日産デイズ」のVモーショングリルはどうですか?
明照寺:Vモーショングリルは、“縦流れ”のモチーフなんですよ。クルマ全体の流れに沿うわけで、「セレナ」とかデイズのような箱型のクルマとは、マッチングが悪いんじゃないでしょうか。
永福:縦方向の寸法が長いほうが、Vモーションがすんなりハマる気もしますが……。
明照寺:いや、セレナもそうですけど、“個性”と言えるまでには昇華できてないでしょう。顔に“V”が付いてるだけ、というふうに見えます。
永福:空気みたいな存在になっちゃってるってことですか?
ほった:あってもなくてもいいってことですかね。
Vモーションの弱点とダイナミックシールドの強み
明照寺:四角くて背が高いクルマの場合、グリルはなるたけ横基調にしたいんですよ。グリルまで縦基調だと、ますます車高が高く、縦長に見えてしまうから。でも、横基調のデザインにすると、Vモーションがバツっと切れちゃうことになる。北米の「マキシマ」や「ムラーノ」、欧州の「マイクラ」なんかは、クルマ全体の“流れ”の中にVモーショングリルがあるので、それなりに存在感がありますけど、デイズだとそうは見えない。現場のデザイナーも、Vモーショングリルの限界を感じてるんじゃないでしょうか。
ほった:確かに、最新のコンセプトカーを見ると、今まで使ってきたような形でのVモーションは見当たらないですね。
明照寺:グリルっていうのはそれぐらい難しい。しかも、今はひとつのテーマをずっと続けないといけないでしょう。
永福:そこにブランドアイデンティティーを賭けるわけですから。コロコロ変えてたらそれこそ敗北ですしね。
明照寺:それに加えて、グローバルではグリルを統一して商品ラインナップのイメージをそろえるのが今や常識になっちゃってますけど、その弊害も出始めていると思うんですよ。本当に難しい部分だと思いますけど、こういう国内専用車の場合は、それにこだわらなくてもいいんじゃないかと思ってしまいます。
ほった:ですね~。
永福:とにかく、いろんな意味で難しいフロントまわりのデザインが、eKクロスではこれがうまくいってるというわけですね。
明照寺:三菱のダイナミックシールドは、どうやっても強くなりますから。
ほった:強いですよねぇ。これなら“首から下”が違っても、共通のイメージをアピールしやすい。
永福:かつてのガングロヤマンバみたいなもんだもんね。
ほった:もうちょっと、例え方とかないんすか?(笑)
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記憶に残らない標準モデルのデザイン
永福:でも、あれこれ言われちゃいましたけど、「デイズ ハイウェイスター」も最近の日産車の中ではベストデザインじゃないでしょうか?
明照寺:そうですね。箱型だけど造形の勢いや質感も感じられて、私もいいと思います。日産って今、国内で売れてるのは「ノート」「セレナ」「リーフ」、あとは軽の「デイズ ルークス」でしょう。そこら辺と比べると、デイズ ハイウェイスターはいいんじゃないですか。
永福:ですよね! eKクロスは強烈なプレデター顔がウリなのに対して、デイズ ハイウェイスターは整った美人顔。
ほった:美人って。さすがに美人とまでは……。
明照寺:(笑)前も言いましたけど、きれいだけど、普通のクルマのデザインなんですよね。軽自動車ならではの個性はつくれていない。
永福:もうひとつあるのは、「ekワゴン」もデイズも、普通のモデルは驚くほど顔が薄味で、本当にまったく印象に残らないんですよ。
ほった:eKワゴンとただのデイズに関しては、デザインが記憶にないというレベルですよね。
明照寺:あらためて見ますが、これは確かに記憶にナイですね(笑)。だけどこのeKワゴンから顔まわりを変えて、ホイールアーチに沿ったちょっとしたクラッディングを付けるだけで、これだけ魅力が変わってくるわけです。顔だけでここまで違うクルマになるというのは、すごいことですよね。これ、多分ボンネットまで一緒だと思うんですよ。
永福:ボンネットを“つくり分け”なんてぜいたくは、まずできないですよね。
ほった:デカい蓋物(ふたもの)部品ですからねえ。
この顔のスポーツカーも見てみたい
ほった:それはそうと、軽デザインのSUV路線についてはどうですか? 「スズキ・ハスラー」に始まって、ダイハツが「キャスト アクティバ」で追いかけて、スズキがまた「スペーシア ギア」を出して、そこに今回、eKクロスも加わったわけじゃないですか。SUVじゃないけどSUVぽいデザインの軽っていうのが、少しずつ伸び始めてるんじゃないですか?
明照寺:まさにそこなんです。軽のカスタム路線は、ダイハツが「ムーヴ」から始めたのかな? 同じモデルに2つの顔をそろえて、より高そうに見せたりオラオラ系に見せたりするのが非常にはやりましたけど、個人的には「なんだかなぁ」という感じでした(笑)。それを今度はSUVテイストに振るっていうのは、いいところを突いていると思います。
ほった:それに、このダイナミックシールドって、結構ボリューム感のあるクルマに親和性があるんじゃないでしょうか。三菱のラインナップを考えると、すごく発展性がありそうに思います。
明照寺:そうかもしれないですね。でも、スポーツカーもダイナミックシールドでいける気もします。
ほった:三菱のスポーツカー復活ですか!
永福:次期「スタリオン」が出る時は、こんな顔にしてほしいねぇ。
ほった:それは相当勇気いりますよ。
永福:いやぁ、新型スタリオンがこの顔で出てきたら、「よっしゃー!」って感じでしょ!
(文=永福ランプ<清水草一>)

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
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