第166回:おっさんポルシェラブ
2020.03.10 カーマニア人間国宝への道激安中古車店へ急行
突如991型「911」への愛(いと)しさがこみ上げ、正規ディーラー様の中古車センターに急行したものの、あまりの値段の高さにクラクラし、もっと安い店に行って心を落ち着かせることにした私。スマホでピピッと検索したところ、近所に良さそうな店を発見したので、そちらに移動した。
10分ほどクルマを走らせると、あたりの景色が急に田舎っぽくなった。所沢とか加須のあたりによくある、資材置き場や駐車場、そして雑木林が点在する、荒れた感じの郊外風景である。
スマホナビが到着を知らせたが、周囲にポルシェ専門店らしきものはない。私はクルマを降りて周囲を見渡した。
よく見ると、ステンレス(?)のフェンス手前にのぼりが立ち、控えめに店名も貼ってあった。こ、ここか! 一見資材置き場か産廃置き場やんけ!
とってもステキな予感がしてきた……。
荒れた駐車場の奥に、ひっそりとその店はあった。店というより単なるクルマの置き場だけど。
敷地内に入ると、センサーが反応したらしく、女性の電子音声が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。
フェンスの内側には、ポルシェ等がかなりビチビチに入れられており、奥の奥にコンテナ型店舗が見える。以前、10万円前後の激安車を専門に売る「リュウ」の店を取材したが、あれにかなり近い雰囲気である。
奥に入ると、コンテナの窓から人の好(よ)さそうな30代男性(推定)が顔を出し、笑顔で「いらっしゃいませ~!」と迎えてくれた。
たぶん社長だろう。そんな気がする。
清水:ネットで見て、お安いポルシェを見学に来たんですけど、見ていいですか?
たぶん社長:どうぞどうぞ。中を見たいクルマがあればカギを開けますから、遠慮なく言ってください!
衝撃の162万円!
激安店だけに、並んでいるのはどれも500万円以下の個体で、10台くらいのうち4台は激安のおっさんポルシェ(996型)で占められている。
その中の1台を見て、私は目を疑った。プライスボードに「162万円」と書かれている! こ、これは、日本でも3本の指に入るくらいの激安911! こんなの在庫情報にもなかったのにぃ!
清水:こ、これ、ものすごく安いですね。
たぶん社長:ええ。この間はフランスからお客さんが来ました。
清水:ええっ! フランスからフランス人が!?
たぶん社長:はい。何言ってるか全然わかんなくて(笑)、スマホの翻訳アプリで話をしたんですけど、あっちにはこんな安いのはないから、ぜひこれが欲しいって。
清水:いきなり来たんですか!
たぶん社長:いきなり来ましたねぇ。
清水:業者さんですかね?
たぶん社長:いや、個人だったみたいです。ただウチ、輸出をやったことなくって、手続きだけで70万円くらいかかっちゃうことがわかって、あきらめてもらったんです~。
162万円の激安おっさんポルシェを買いに、わざわざフランスからフランス人が来るのか! スゲエッ!
考えてみりゃ、日本では996型だけが突出して安い。日本人は世界の常識から見ると異常なほど涙目のおっさんポルシェを嫌っていて、異常なほど安いのかもしれない。
清水:やっぱり安いのは996型ですね。
たぶん社長:そうですね。でも僕は996が欲しくてポルシェ屋を始めたんです。
清水:ええっ!?
おっさんポルシェ最高!
たぶん社長:前は鈑金(ばんきん)塗装やってまして、ポルシェが入庫するとやっぱりボディーラインがめちゃめちゃカッコよくて、「絶対欲しい!」 って思うようになったんです。でも値段を見ると、自分が買えそうなのは996だけだったので、自然、買えそうなポルシェが欲しくなったんですよ!
な、なるほどぉ!
確かに私も、「F40」は猛烈にカッコいいと思うが、高すぎて欲望はコレッポッチも湧かない。人間の欲望は現実との兼ね合いで、頑張れば買えるかもしれない時に最大限激しくさく裂するのである。
たぶん社長:これが僕のポルシェです。
そこにあったのは、シルバーの「カレラ4S」だった。
清水:これはティプトロ?
たぶん社長:ティプトロです。僕が買えるのはティプトロだけでした。でもなんの問題もないです! これでサーキットも走ります! ポルシェってものすごいクルマで、特にカレラ4Sはクルマが勝手に全部コントロールしてくれるので(笑)、僕でもメチャメチャガンガン走れるんですよ! 最高です!
彼の全身からポルシェへの愛、なかんずく996型911への激しい愛がほとばしり、被爆しそうな勢いだった。
激安おっさんポルシェも、この資材置き場みたいな店では、光り輝く夢の結晶! うおおおお、おっさんポルシェ最高! あ~なんていい店なんだ……。
清水:ところで、ヘッドライトの黄ばみ、消えますか?
たぶん社長:かなり消せます! ウチは工場で専用の用具を使って落としてます! 完全には無理ですけど、かなりなくなります!
ヘッドライトの黄ばみは、おっさんポルシェにとって非常に重要なポイントであることを再認識したのだった。涙。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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