プジョー・リフター デビューエディション(FF/8AT)
絶妙なサジ加減 2020.06.01 試乗記 プジョーの新型MPV「リフター」に試乗。ご覧の通り、四角四面の背高なスタイリングは兄弟車たる「シトロエン・ベルランゴ」とほとんど同じ。あえて(ちょっと地味な)プジョー版を選ぶ価値はどこにあるのだろうか。兄弟車・双子車・三つ子車
プジョー・リフターは以前に試乗記をお届けしたシトロエン・ベルランゴの兄弟車だ。そこでも紹介したように、このクルマもまた商用バン仕様がメインの商品だが、乗用のレジャービークル仕様も用意される。すなわち、日本市場にすっかり根を下ろしている「ルノー・カングー」のライバルである。
ベルランゴと同じく、プジョーのこのクルマも実質は通算3代目となる。ただ、これまでの2世代の車名が「パルトネール(英語でいうとパートナー)」だったのに対して、この最新型にはリフターという新車名(商用バン仕様はパルトネールのまま)が与えられている。こうして新しい商品名をあえて用意した裏には、リフターがこれまで以上の存在感と成果を示すことへの期待感がにじむ。というのも、従来の販売実績では明確にベルランゴのほうが上であり、しかも今回からはグループに新加入したオペル/ボクスホール版の「コンボ」と「コンボライフ」もあるからだ(コンボが商用車、コンボライフが乗用車)。
繰り返すが、リフターとベルランゴは兄弟車である。ただ、プジョーとシトロエン(とオペル/ボクスホール)は土台となるプラットフォームを共用するのだから、広義ではすべてが兄弟……といえなくもない。しかし、ベルランゴとリフター/パルトネールはプラットフォームはおろか、パッケージレイアウトや外板パネルまで共用する“双子車”といえる間柄だ(正確にはコンボ/コンボライフも加えた三つ子車)。
そんな双子車を、プジョー・シトロエンの日本法人(現グループPSAジャパン)は日本に同時導入することに決めた。どちらも正式なカタログモデルは2020年秋の発売予定だが、その前に先行限定車として「デビューエディション」を投入した。今回の試乗車もそれだが、ベルランゴのデビューエディションと同じく、このリフターの初回限定版もすでに完売だそうである。
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SUV仕立ての外装デザイン
というわけで、リフターのハードウエアは車体のプレスパネルまで含めて、ベルランゴとほぼ同一だが、今のプジョー・シトロエンはブランドごとのつくり分けを世界一(?)得意とするメーカーといっていい。逆に言うと、そうした共用している基礎部分以外は、リフターとベルランゴではことごとく差別化されている。
たとえば、バンパーからヘッドライト、グリルといったフロントマスク部分はごっそりと別物だ。さらにリアバンパーやテールランプの内部デザインも当然ながら専用である。
サイドビューも同様である。リフターのそれはサイドシルやホイールアーチにクラッディングを施して、独自のSUV風仕立てとなっている。エアバンプ風プロテクターが特徴的なベルランゴとは完全に別のクルマに見せているが、よくよく観察すると、スチールのプレスラインは両車で共通だったりする。
もっとも、リフターが意外なほど本格的な雰囲気をただよわせるのは、じつはそれがクラッディング加飾(や前後バンパーデザイン)によるものだけではないからだ。215/60R16というタイヤはベルランゴより大径のリフター専用サイズで、しかもSUVらしいオールシーズン銘柄が選ばれている。
タイヤ径が約30mm大きいリフターの地上高が、ベルランゴのそれより拡大しているのは見た目にも明らかだ。それ以外のシャシー周辺の技術情報は残念ながら入手できなかったが、両車の全高差が46mm(ともに欧州仕様参考値)であることを考えると、サスペンション部分でも、わずかにリフトアップされている可能性もある。
インテリアに目を移しても、そこは超小径オーバル形状ステアリングと、スポーツクーペばりに強く傾斜した立派なセンターコンソールによる「i-Cockpit」となっている。主たるレイアウトやダッシュボードの基本形状はベルランゴと同じながら、乗車感覚はもうプジョー以外のなにものでもない。
装備内容を精査する
本国のリフターにはベルランゴと同じく最高出力100PS版のディーゼルや1.2リッター3気筒ガソリンエンジン、5段MTや6段MTの用意もあるが、今回のデビューエディションはベルランゴのそれと同じく、130PSの1.5リッター4気筒ディーゼル+8段ATという同車でもっとも贅沢なものが選ばれている。
欧州のリフターには大きく3種類のトリムグレードがあって、メッキグリルや16インチホイール、ブルー基調のダッシュボードといった試乗車のディテールから、それが中間の「アリュール」をベースにしていることが分かる。そこに左右独立調整式オートエアコン、後席用の空調吹き出し口や風量調整、スマートキー、開閉ガラスハッチ、電動格納ドアミラーなどの上級装備(欧州では最上級の「GT」に標準)を追加トッピングしたのが、日本のデビューエディションとなる。
さらに、スロットルやトラクションコントロール、左右ブレーキ制御により、ワンタッチでノーマル、雪、泥、砂……など、路面に合わせた駆動力が選べる「アドバンストグリップコントロール」やヒルディセントコントロールも、今回のリフターには備わる。これも本国ではリフターとベルランゴの両方にオプション設定される装備だが、このデビューエディションでは、リフターにのみ標準装備とする。これも“SUVテイスト”というリフターのキャラクターを強調するためだろう。
このグリップコントロールとヒルディセントコントロールのほか、オールシーズンタイヤやセンターコンソール、プロジェクターヘッドランプといったあたりが、今回のリフターで「ベルランゴより贅沢か!?」と思われるディテールだ。逆に6:4分割可倒になるリアシートは、ベルランゴの3座分割リアシートよりコスト安と思われるが、差し引きでベルランゴの8万円高という車両本体価格はまあ妥当なところか。
正確無比の操舵感
リフターの独特の極小径ステアリングホイールの操作感はしっとりと重い。ベルランゴはそれとは好対照に、大きめのステアリングを軽く回させる。これは昨今のプジョーとシトロエンのすべてに共通する味つけだ。ロックトゥロックで3.0回転弱というステアリングギアレシオは両車で共通のようだ。となると、小径ホイールのリフターのほうが、実質的にクイックなステアリング設定ということになる。
全高1.8m超の背高グルマなので、走行中の上屋の動きは絶対的に小さくない。路面にへばりつくような安定した低重心感では、リフターがベルランゴともども、宿敵カングーにゆずるのも正直なところだ。そして、ベルランゴより最低地上高の大きいリフターのほうが、よりロールが速くて大きい。
ただ、驚くのは、そんな動きの小さくない巨体を、極小のステアリングホイールで無遠慮に振り回しても、クルマの挙動に過敏さや神経質さをこれっぽっちも感じさせないところだ。カーブや交差点ではスパッとロールしてしかるべきタイヤに荷重が乗るが、一定程度までロールしきると、ピタリと動きが収束して路面にしっかりと吸いつく。
こうした一連の流れのなかに、リフターは乗り手を不安にさせる“オーバーシュート”感が皆無。そこはさすがの調律というほかない。操縦性そのものはおっとり型なのだが、ステアリングはとても正確である。しかも、シトロエンよりレザーがギュッときつめに巻かれたステアリングホイールの握りからは、タイヤの接地感が鮮明かつリアルに伝わってくる。穏やかなグリップ感のオールシーズンタイヤが踏ん張りすぎないところも、リフターの自然で穏やかで一貫した挙動の一助になっているかもしれない。
高速道路でさらに輝く
コーナーで振り回しても楽しめるリフターだが、高速道をひた走ると、さらに滋味深くて心地よい。これはレジャーカーとしてはとてもステキな資質といっていい。市街地や山坂道では豊かなストローク感と穏やかな上下動が際立つのに、高速でスピードが上がるほど上下動がおさまって、滑るようなフラットライドになる。パワステの調律もドンピシャで、小径ステアリングに軽く手を添えるだけで、路面に食いつくようにズバッと直進する。
これだけの背丈なので空気抵抗が小さいはずはないのだが、1.5リッターディーゼルに力不足感はまるでない。血気盛んなC~Dセグメント車に背後を取られてもあわてる必要がない程度のパンチ力は十分にある。
ただ、それ以上にうれしいのは、高速でのリフターがすこぶる静かなことだ。加速時こそかすかなディーゼル感が伝わるものの、トップギアの8速で100km/h巡航するとエンジン回転は1700rpm前後。この状態でエンジン音はほとんど耳に届かない。それに、四角四面のスタイリングやスライドドア、巨大な室内容積といった諸条件を考えると、風切り音やロードノイズの類いは印象的なほど小さい。
このように高速走行に必要な基本フィジカルに余裕があるので、全車速対応アダプティブクルーズコントロール(ACC)による半自動運転クルーズも快適そのものだ。リフターの先進運転支援システムは「シトロエンC5エアクロスSUV」や「プジョー508」のそれよりワンランク安価なレベルのようで、車線機能はプジョー・シトロエンでいうところの「レーンキープアシスト」……すなわち“車線逸脱抑制アシスト”にとどまる。車線を外れかけるとステアリングを戻し方向に制御してくれるが、彼らが「レーンポジショニングアシスト」と呼ぶ、車線中央を積極的に維持するものとはちがう。
スイートスポットを外さぬギリギリの味付け
繰り返すが、クルマ自体の直線性がすこぶる優秀なので、リフターは今のシステムのままでもストレスは小さい。ただ、ここまで増えてしまったACC機能の大半を、いまだにコラムから生えた昔ながらのサテライトスイッチにまかなわせているのだけは明らかな難点である。
ステアリングホイールに隠れて据えられるサテライトスイッチは、ブラインド操作が前提の設計。しかし、今ではそこに配されるボタン数が増えすぎて、これを直感的に正しく操作するには相当の熟練が要求される。そろそろ根本的な刷新が必要と思う。
……といった重箱のスミはともかく、リフターとベルランゴはハードウエアがほとんど同じなので、クルマの動きは当然のごとくよく似ている。それでいて、車高やタイヤの設定で、その乗り味をちょっとだけ変えているサジ加減が絶妙である。
これ以上の明確な差別化をしようとすると、どちらか(もしくは両方)の味つけは、このハードウエアのスイートスポットから外れてしまうだろう。そのうえで、ステアリングホイールの大きさと形状、それに合わせたパワステの調律、そして周辺機器のレイアウトだけで、運転感覚をこれだけ差別化できていることに、あらためて感心する。
この種のフランス車がお好きなエンスージアストは、リフターとベルランゴの両方に好感をもつ向きが多いはずである。それでいて、両方のステアリングを握れば、多くの人があまり迷うことなく、どちらが好みかを直感的に選ぶことができると思う。
ちなみに、筆者は断然リフター派である。こういう背高グルマは基本的に大径ステアリングでゆったり操るのが正論なので、ベルランゴ派も多いことと想像する。エクステリアデザインもシトロエンのほうがキャラが立っている。ただ、個人的には、このゲームコントローラーを思わせる小径ステアリングホイールで、リフターの大きな車体を正確無比に操る行為は、これまでに経験のない快感だった。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
プジョー・リフター デビューエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1850×1890mm
ホイールベース:2785mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/3750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)215/65R16 98H M+S/(後)215/65R16 98H M+S(ミシュラン・ラティチュード ツアーHP)
燃費:--km/リッター
価格:336万円/テスト車=372万0800円
オプション装備:ボディーカラー<メタリックコッパー>(6万0500円)/ナビゲーションシステム(24万2000円)/ETC 2.0(4万4550円)/フロアマット(1万3750円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1270km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:527.4km
使用燃料:38.9リッター(軽油)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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