モーガン・プラスシックス ツーリング(FR/8AT)
永久不滅の矜持と伝統 2020.06.23 試乗記 往年のクルマづくりを今日に伝えるモーガンの基幹モデルが、ついにフルモデルチェンジ。新開発のアルミシャシーにモダンなサスペンション、BMWゆずりの直6ターボを搭載した新型「プラスシックス」は、それでも“まがうかたなきモーガン”に仕上がっていた。いよいよ登場した新世代モーガン
80年以上の前から、基本設計を変えずにつくり続けられきたモーガンの歴史も、ついに終わる。このプラスシックスとその4気筒版「プラスフォー」が登場したからだ。この新しいプラスシックス/プラスフォーが、“生きた化石”といわれてきたクラシックモーガンの正統なる後継車になるという。
モーガンは2000年にも新開発アルミシャシーにBMW製V8を積んだ「エアロ8」を登場させて、2018年まで断続的に生産したが、最終的にはモーガンの“2代目”にはなれなかった。しかし、今回はちがう。従来型の「4/4」や「プラス4」、そして「ロードスター」はすでに新規オーダーを終了した。現時点では従来最終モデル(=プラス4の限定車)の生産は残っているようだが、これが本当に最後らしい。
モーガンの雰囲気を現代的にアレンジしてみせたエアロ8に対して、この新型モーガンは、一見しただけでは新旧の区別がつかないほど、先代とウリふたつのスタイリングを採用している。もちろん、そこに先代との共通部品はひとつもない。前照灯も最新のデイタイムランニングライト機能付きのLEDで、この古典デザインと色温度の高い青白い光との組み合わせは、なかなか新鮮である。
新型モーガンの実車を間近で見ても、各部の仕立てには、なるほど現代的な精密感が出ているが「ニセモノのそっくりさん!?」というほど別物でもない(いやだから、これは正統後継車である)。その理由は高度なデザイン技術に加えて、車体サイズの拡大が最小限におさえられているからだ。新型モーガンはホイールベースこそ先代より延長されているが、全長は逆に短く、全幅も旧ロードスター比で40mmほど広がっただけだ。これをたとえば「BMW Z4」や「マツダ・ロードスター」と比較すると、長さも幅もBMWとマツダの間におさまるのだが、厳密な中間値より明確にマツダに近い。6気筒直列エンジンが縦置きされていることを考えると、やはり、現代の量産メーカー製品では考えにくいほど小さい。
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モダンなクルマにも“木”を使う矜持
新型モーガンの中身は、当たり前だがすべてが新しい。“この先何十年も使用できるように”と開発された基本骨格は、アルミパネルを接着(とリベット打ち)して構築されたプラットフォームに、同社の熟練職人が手づくりするトネリコ木材のフレームを組み合わせている。オリジナルの先代モーガンはもちろん、先日試乗記をお送りした2011年設計の「スリーホイーラー」に続いて、伝統のトネリコ構造を意地でも(?)使うのがモーガンらしい。
接着アルミパネル+トネリコの骨格設計を最初に取り入れたのはエアロ8である。今回の最新世代「CXジェネレーション」は、ねじり剛性をそれより2倍に引き上げて、ホイールベースも20mm延ばしてキャビンや荷室の空間を拡大しながらも、重量はそのまま=シャシー単体で98kgに仕上げられた軽量高剛性が自慢という。サスペンションについては、本国資料にはなぜか「フロントがマクファーソンストラット、リアには4バーリンケージ」と記されるが、実車を見るかぎりは、それは前後とも上下Aアームによるダブルウイッシュボーン形式だ(リアには当然ながらトーコントロールリンクが追加される)。
パワートレインはエアロ8(と、それベースにクラシックモーガンに似たスタイルをかぶせた最後の「プラス8」)に続いてのBMW由来である。新型プラスシックスのエンジンは車名からから想像されるとおりの直列6気筒で、3リッターターボから供出されるパワー/トルクは、改良前の「BMW Z4」(や「トヨタ・スープラ」)と同じ。選べる変速機は、現時点ではZF製8段ATのみだ。
……といった説明からも、新型モーガンが旧来的なのはあくまで見た目だけで、中身は全身最新鋭であることが分かるだろう。
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新しくなってもツボは外さない
試乗車は2種類あるカタログモデルのうち、上級となる「ツーリング」で、脱着式ハードトップを装着した状態で供された。それを用意したモーガンカーズ・ジャパンの名物広報マンであるジャスティン・ガーディナーさんによると、「新型プラスシックスは現代のクルマだからエアコンもガンガン。日本の夏でも快適に乗れますよ」のココロらしい。
新型モーガンではこのカフェレーサー風の新設計ハードトップも自慢で、ツーリングにはアイボリー色のそれ(同色タイプはオプション)が標準で付属する。せっかくなのでフルオープンでも乗ってみたかったが、このハードトップはソフトトップを外して装着する本格タイプである。今回は3日間の借用期間を通して、このまま乗ることにした。
こうしてハードトップを装着しても、たとえば「ロータス・エキシージ」や屋根をつけた「エリーゼ」よりははるかに乗降しやすいところに、モーガンの基本思想がうかがえる。さらにキャビンに潜り込んでしまえば、運転席周辺は望外に広い。似たような車体サイズで4気筒エンジンのマツダ・ロードスターより、明確に余裕がある点は感心する。そこはモーガン自身が主張するとおりだ。
ドライビングポジションはシートスライドとリクライングに加えて、なんとステアリングの上下と前後まで調整可能である。ただ、あれこれイジッて心地よいドラポジにたどりつくと、結局はステアリングホイール近めで、背筋を伸ばしたクラシックな姿勢になっていがちだ。そうすると、ヒジもドアの上端にピタリと落ち着いてニヤリとさせられる。このちょうどいい角度とフィット感はまさしくモーガンの伝統である。そして、速度とエンジン回転という2つの主計器がインパネ中央にならぶのも伝統どおりだが、相変わらずスマホなどの手まわり品の置き場に困るところだけは「そこは伝統より進化でしょ?」とツッコんでさしあげたい。
クルマが醸す穏やかな空気感
モーガンマークの入ったリモコン(!)でドアを解錠。スタートボタンでエンジンを始動して、しかる後にBMW風のジョイスティック型セレクタレバーをDレンジに入れれば、新型モーガンは当たり前だが、まったく普通に走る。平らなウインドスクリーンの向こうの、長い長いボンネット、さらにその先のサイドフェンダーをながめつつ、すぐ背後にリアアクスルの存在を感じる車両感覚は、いかにも古典的だ。しかし、電動パワステはあくまで軽く、ブレーキペダルも現代的なつり下げ式になったので、操作性になんらクセはない。
新型モーガンによる高速走行はラクチンそのものだ。最新の低偏平スポーツラジアルタイヤと4輪ダブルウイッシュボーンのおかげもあるのか、直進性も十分に高い。それにしても、新型モーガンは乗り心地がいい……というか、乗り心地が優しい。
100km/h前後でフワフワと上下するホッコリした高速マナーに、最初は「このスタイリングはいかにも空力的な揚力が大きいからなあ」としたり顔で納得していた。しかし、先代のように速度が高まるにつれて明確に浮いてくる実感は、新型モーガンにはない。さらにスピードを上げても、そのフワフワ度合いに変化はない。さすがは最新スポーツカーだけに、空力への手当てもそれなりに施されているようだ。
ただ、もとがフルオープンゆえに高速では風切り音が目立つ。排気音の調律もZ4(やスープラ)のような演出くささとは無縁で、4000rpm以上まで回しても、まだ風きり音のほうが目立つくらいの大人っぽい音づくりである。スロットルオフでは最新ターボ風のアンチラグ音が出てしまうが、新型モーガンから醸し出される穏やかな雰囲気には、ちょっと似合わない気がしないでもない。こう考えると、先代最終期のフォードV6もモーガンにお似合いの好エンジンだった。
目をつりあげて走らせるのは似合わない
アルミ車体と4輪ダブルウイッシュボーン、そして最新ターボエンジンを積む英国少量生産スポーツカーということで、新型モーガンにロータスやマクラーレンを思い起こす向きもあるかもしれないが、そういう体育会系武闘派スポーツカーを期待すると、良くも悪くも肩透かしを食らう。モーガンは先代でも新型でも、そういうクルマではない。
19インチの「コンチネンタル・スポーツコンタクト6」のハイグリップと、それをきっちり接地させるサスペンションのおかげで、新型モーガンのハンドリングはそれなりに正確で、限界性能にも不足は感じない。前記のように柔らかにストロークする乗り心地は、バネやダンパーが単純にソフトな設定であるだけでなく、サスペンションそのものが高精度で滑らかな作動をしてくれるからでもあろう。
新型モーガンは、同じエンジンを積むZ4(やスープラ)より車重が400kg前後も軽い。だから、全開加速性能はのけぞるほどなのだが、それを試す気にあまりならないのは、前記の優しく滑らかな乗り心地に加えて、ステアリングやブレーキの操作感が良くも悪くも、少しばかりデッドで曖昧なところがあるからだ。そしてステアリングの反応自体にも、独特の“タメ”の時間が存在する。このクルマはアクセルやブレーキを踏みつけて、目をつりあげて針のアナを通すコーナリングに挑むより、気軽な気持ちで腹八分目のドライビングを楽しむのがちょうどいい。
ステアリングやペダル類のあいまいな感触には、それらを支えるフロントカウル部分に例のトネリコ木材を使っている影響も確実にあるだろう。アルミパネルとトネリコで組まれた上屋も、走行中にギシギシとねじれているのが、ハッキリと感じ取れる。いかにエアロ8の2倍の剛性を達成したといっても、それはロータスのアルミバスタブやマクラーレンのカーボンセルとはまるでちがうのだ。
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トネリコに宿るモーガンの魂
モーガンが骨格部分に木材を使い続ける理由を、前出のジャスティンさんは「トネリコは堅いのに加工しやすく、しかも軽くてサビません。純粋に素材として優秀なんです」と説明する。
まあ、それがウソとはいわない。しかし、彼らがトネリコを捨てない本当の理由は、それをつくる職人と彼らの技術こそがモーガンの財産であり、それを後世に継承すること自体に価値があり、モーガンというスポーツカーブランド最大のロマンだからだ。新型モーガンの車体には現代のスポーツカーとして物足りない面も多々あれど、どこか牧歌的なモーガン独特の味わいは、トネリコでないと出せないのだろう。
考えてみれば、最新の体育会武闘派スポーツカーに本気で比肩するクルマをつくろうと思ったら、そもそも、このスタイリングのままでは限界がある。たしかに先代より少しは空力的に進化しているようではあるが、300PS超級のスポーツカーは真剣にダウンフォースを発生させるのが常識である。だが、モーガンのような尻下がりのクラシカルスタイルは基本的に浮きやすい。
モーガンは往年のサイクルカー時代だけでなく、21世紀に入ってからもエアロ8でGTレースに参加しており、現代スポーツカーの技術やトレンドにも明るい。しかし、彼らはこの最新スポーツカーでも、あえて先代と区別がつかないスタイリングにして、あえてトネリコを使う。
このクルマに、一般的な意味でのフルモデルチェンジという概念を当てはめてはいけないのかもしれない。新型モーガンは、80年以上も守り続けてきた姿と味を、今という時代に、よりよく動態保存する代替機種と考えたほうがいい。モーガンはいつまでもモーガンなのだ。……といっても、このプラスシックスはこのままでも十分に安全で速い。そこは誤解なきように。
(文=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
モーガン・プラスシックス ツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3890×1756×1220mm
ホイールベース:--mm
車重:1075kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340PS(250kW)/5000rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)
タイヤ:(前)225/35ZR19 88Y/(後)245/35ZR19 93Y(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:38.2mpg(約13.5km/リッター)
価格:1518万円/テスト車=1736万9000円
オプション装備:ボディーカラー<メタリックグリーン>(26万4000円)/19インチPlus Sixアロイホイール シルバー(47万3000円)/ソフトダークブラウン・ソフトグレーン(28万6000円)/ブラウン・ボックスウィーヴ(8万8000円)/エクステンデッドレザーインテリア シル&トンネルサイドレザー<レザー内装色と同色>(11万円)/サドルレザーディテール<シートベルトガイド、ドアハンドル>ダークブラウン(8万8000円)/刺しゅう入りヘッドレスト<選択ステッチカラーと同色>Plus Sixロゴ(5万5000円)/キルトツインニードルステッチシートセンター<センター部のステッチがキルト仕様>(13万2000円)/ダッシュボードベニアチョイス-グロスフィニッシュ<光沢>:Tawny(11万円)/センターコラムトップベニアチョイス<センターコンソール上部>-グロスフィニッシュ<光沢>(11万円)/ブラックメッシュグリル<フロントグリル内>(3万3000円)/ユニオンジャックエナメルボンネットバッジ:カラー(2万2000円)/ハードトップ-ボディーカラー同色(15万4000円)/ストレージバッグ<Mohair用>(6万6000円)/フードカバー-フードカラー同色(12万1000円)/サイドスクリーンバッグ-フードカラー同色(7万7000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1918km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:252.9km
使用燃料:23.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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