第185回:骨の髄までしゃぶり尽くせ
2020.07.21 カーマニア人間国宝への道エリート特急の緊急入院
私事で大変恐縮ですが、我が家のエリート特急こと「BMW 320d」が故障しました。
2週間ぶりにエンジンをかけ、走りだして約3分後。「ポーン」という警告音が鳴り、まず「ABSが作動しません」に始まって、「車両安定化装置が作動しません」「歩行者検知機能が作動しません」「エアバッグ・シートベルトプリテンショナー機能が正常に作動しません」「タイヤ空気圧警告機能が作動しません」と、5つもの警告が発せられたのです。まるで墜落寸前の旅客機を操縦する機長の気分。
2週間も乗らなかったのは初めてだったので、それでなんかおかしくなったのか。それともジメジメの梅雨空が続いてるせいか。エンジン止めて再始動すれば治るんじゃないかと思って実行したけどダメ。
エリート特急様のインフォメーションによれば、「慎重に走行してください」とのことで、間もなく墜落するから運転をヤメロとは言われなかったので、そのまま走り続けていれば治るかなーと思って、アクアラインを通って木更津まで行ったけどダメ。木更津で取材中放置して再始動すれば治るかなと思ったけどダメ。翌日もダメ。
いよいよこれはダメだと思ってブログに書いたところ、「スピードセンサーの故障では」というご指摘をいただき、なるほどそうか! と納得して、修理に出すことにしました。
エリート特急君は、「お近くの正規ディーラーへお早めに」と表示していたけれど、正規ディーラーだと高そうだし時間がかかりそうなので、購入した激安中古車店に連絡して、12カ月点検とともに修理してもらうことにしました。
代車は2代目「キューブ」
激安店は相変わらず、微妙に怪しい空気を振りまきつつ、はち切れんばかりの中古ドイツ車であふれていた。店内の水槽には、アロワナがまだ生きていた! あっ、ナマズがいる! ウーパールーパーも! どれも水槽があんまりキレイじゃないのが泣ける。
でもこのお店、安くて超良心的な優良店なのだ。なにせ前回の車検費用は9万円だったし! 正規ディーラーみたいに「あれもこれも交換しましょう」とは絶対言わない、スバラシイお店なのです。
しかも激安店の担当者は、親切にも代車を出してくれるとおっしゃる。わーい代車! 代車って生まれて初めて! 58年も生きてきて、49台もクルマ買ったけど、代車は一回も借りたことがなかった! 割と常に複数台所有だったし、あんまり故障しなかったからな。
どんな代車が来るんだろ。ドイツ車専門店だから、メルセデスかなアウディかな。そんな期待を抱いたのですが、やってきたのは紫外線でヘッドライトがくすんだ2代目「キューブ」でした。
ちょっとだけガックリ。
しかし気を取り直して眺めれば、2代目キューブは世界の自動車史に残る傑作デザインだ。この四角い和ダンスのような和風なデザインは本当にスバラシイ! この傑作に今になって再び乗れるのはものすごい幸運ではないか!? 昔レンタカーでけっこう乗ったけど、走りも全然悪くなかったし!
エンジンをかけDレンジに入れると、アイドリングで「バババババ~~ッ!」というすごい振動音が……。でもオドメーターは15万km。15万kmも走れば、内装材(?)が共振して鳴るくらいアタリマエじゃないか! 走りだせばピタリとやむし、まったく問題ナシ! 出足は実に軽快だ。アクセルガバチョ気味ともいえるが、とにかく低速域での加速が鋭い! 一般道レベルでは十分すぎる動力性能!
そして乗り心地は実にクッションがいい! フワフワした感覚が気持ちイイ! 少し速度を上げると、まるで空飛ぶじゅうたんに乗ってるみたい! といっても、そんなにヘタってる感じじゃない。最初から割とこんな感じだったよね2代目キューブって。つまり15万km走ってもこの乗り味を維持してるってことか! すばらしい耐久性!
BMWの設計にモノ申す
惜しむらくは、内装が地味すぎることだ。なにせドブネズミ色一色なので、まったく気分が上がらない。「キューブ コンラン」ならよかったんだけど。コンランじゃなくてももっと明るい内装色はあったよなぁ。でも、代車にそんな要求をするのは酷すぎる。
さすがにシートはヘタってて、少し乗っただけでお尻が微妙に痛い。それとタバコ臭い。どっちも15万km走った代車のキューブには、ゼイタクすぎる注文ですね。
そんなこんなで2代目キューブで帰宅すると、早くも愛着が湧いてきた。いいなぁ2代目キューブ。やっぱり傑作だよなぁ。ゴーン社長のV字回復が走馬灯のようによみがえる。いま走っても、ふだん乗りにはこれで十二分であることをしみじみ実感! これ以上のクルマが必要な理由がわからなくなってくる……。
そんなことを思ってたら、翌日早速激安店から連絡があった。
「おクルマですが、修理工場でテスターをかけたところ、低電圧状態というエラーコードが出まして、1時間ほどアイドリング充電したら治りました」(担当者)
ええ~~~~~~~っ!?
1時間のアイドリングで治っちゃったなんて……。警告が出てから往復100km走っても治らなかったのに! アイドリングより実走行のほうが充電できるんじゃね? 走行中はオルタネーターをなるべく止めて燃費を節約する機能があるけど、低電圧状態ならそんなの止めろや! なぜアイドリングで治るんだぁ! つーかまず低電圧の警告せいや! BMWの設計に納得できーん!
いや、とにかく治ったんだからよかった。しかし2週間くらいでそんななるんだねぇ。バッテリー弱ってるのかなと思ったけど、担当者が「まだ大丈夫そうなので、バッテリー交換は次の車検にしましょうか」と言ってくれたので、骨の髄までしゃぶり尽くすことにしました。今度警告が出たら1時間アイドリングして治します! 押忍!
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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