ランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4(4WD/7AT)【海外試乗記】
曲線番長 2011.05.12 試乗記 ランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4(4WD/7AT)「ムルシエラゴ」に代わるランボルギーニのフラッグシップモデル「アヴェンタドール」に試乗。イタリアのサーキットで試した第一印象をお届けする。
見事な裏切り
モアパワーの60度V12エンジンをミドに積むこと。4年前、次期フラッグシップモデルの開発をスタートさせたときに決まっていたことはといえば、たったそれだけだったらしい。
ランボルギーニのトップモデル用エンジンである。それ自体(ハイパワー60度V12ミドシップ)、歴史に照らせば当然のことのように思える。が、“エゴ”が“エコ”を押しのけることなど許されない昨今、ましてやフェラーリやポルシェがとまどいなく直噴テクノロジーやハイブリッドシステムの採用に注力するなか、常に独創(走?)的であるべき猛牛の旗艦モデル開発には、さまざまな試練や葛藤、困難があったに違いない。
結果は、豪速球ストレート勝負。エンジンはもちろんのこと、トランスミッション、4WDシステムから、シャシーレイアウト、ボディ骨格に至るまですべてを新開発とし、車両全体の軽量化を軸に高性能化と高効率化を両立するという、大勝負のフルモデルチェンジとなった。
「アヴェンタドールLP700-4」。名前の由来は伝統に、英数字の付け方は最近の約束にのっとったものだったが、その進化の中身はすさまじい。なかでも、大排気量自然吸気エンジンを新規開発したことは、いろんな意味で衝撃的だった。(アウディ傘下ゆえ)直噴や過給器付きなら新開発もありえるだろう、という大方の予想を見事に裏切った。実にスーパーカーらしい。
なにはともあれ、アヴェンタドールのファースト・インプレッションをお届けしよう。国際試乗会の場所に選ばれたのは、ローマ郊外のバレルンガサーキットだった。
“過去”との違い
パドック裏に専用バスで運び込まれたわれわれを出迎えてくれたのは、十台以上のアヴェンタドールだった。色は3色。テーマカラーのオレンジメタリックに、ブラックとホワイト。大方がデモカーとして各国にデリバリーされるのがランボ国際試乗会の常だから、その割合で世界の人気色事情が分かるというもの。黒に白かぁ、なんだかツマラナイ。
カンファレンスの後、試乗の順番は早々に回ってきた。ドアのエッジと裏のラバースイッチを軽く握ってドアをはね上げる。「カウンタック」以来の猛牛12発ミド好きとしては、真上に上がってくれないのが少々不満。そのうえ、ドアの腹がサイドシルより外にはみ出るため、頭を打ちつけかねない。注意が必要だ。
左ハンドルの場合、右手でハンドルを持ち、右足→尻→上半身の順に潜り込ませて、最後に左足を畳み込むようにするのが正しい乗り込み方だ。シートベルトが"フツウ"になったのもランボファンにとってはちょっと残念。赤いカバーで覆われたエンジンスタートボタンを押す。心が踊る瞬間……。
しょっぱなにド派手な爆裂音を響かせるのは、最新スーパーカーの常道だ。その音量/音圧/音色、すべてにスーパースター。「ムルシエラゴ」の威厳は守られた。
さらに、軽くブリップしてみれば、“過去”との違いも明白である。ボア×ストロークがスクエアに近かったこれまでのV12のフィール&サウンドが、大径バズーカ砲が腹を無理矢理抜けてゆくようだったのに対して、新型ショートストロークエンジンでは、弾道の長い無数の弾丸に上半身を撃ち抜かれたような感覚だ。しかも、回転が非常にスムースで緻密。乗り手を揺さぶるような振動もない。
いきなり踏める
まずは変速制御をノーマルモード×オートマチックのまま、走り出した。アクセルペダルに右足を置くくらいなら、早め早めの変速でショックもほとんどない。荒れたピットロードで試した限り、乗り心地も期待できそうである。
クルマの動きは、さすがに軽やか。いや、正確に言うと重厚さもきっちり残っている。「ガヤルド」とは別種の乗り物であることは明らかだ。けれども、ムルシエラゴ以前のように重量がクルマ全体に及んでいるのではなく、ドライバーの周辺のみに配置されているという感覚である。要するに、例のCFRPキャビンの存在を、運転しながらほとんど視覚でイメージできそうになるくらい、キャビンだけが動いているようであり、そこからアシが生えているように思えるのだ。地面との距離もさらに近く感じる。このあたりの感覚は、「マクラーレンMP4-12C」と同じ。
そのアシがまたよく動く。頑丈なボディとプッシュロッド方式のおかげだ。前アシの食いつきと動きの素直さが素晴らしく、後アシの粘りも相当に信頼できるものとなった。だから、いきなりフルスロットルしてもいい気になってしまう。こんなこと、ランボのミド12気筒では、いまだかつてなかった。
我慢しきれず、マニュアルの“コルサモード”(サーキットモード)をいきなり試す。新型ミッションは、シフティングロッドで次ギアをスタンバイさせることにより、ガヤルドの最新eギアに比べて40%速いギアチェンジを実現した、というのだが……。いやはや、確かに変速時間はベラボーに短いが、変速ショックも激烈! まさにレーシングカー級である。パスタの詰まった内臓がちょっとツライ。
スポーツモードに切り替えて、アベレージ速度を上げていく。高速コーナーにおける安定感は他に類をみない。曲がっているのに速度を忘れるなんてことがあるなんて……。従来モデルとは違い、タイトベントもラクラクこなす。ノーズが本当によく内向くし、手応え十分。電子制御4WDがプログレッシブに前へトルクを分配するから、振り回す感覚こそないものの、弱アンダーの安定したコーナー脱出を楽しむことができる。繰り返すが、誰でもいきなりに可、だ。
新型ランボルギーニは、直線(=ストリート)番長から曲線(=サーキット)番長へと進化を果たしたのだった。
(文=西川淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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