シトロエンの未来を占うニューモデル 新型「C4」のデザインを読み解く
2020.07.22 デイリーコラム新しいチャプターの幕開け
シトロエンが2020年6月30日に発表した新型「C4」シリーズ(電気自動車版の車名は「e-C4」)は今後の新しいシトロエンを示唆する新商品という。
技術的には、シトロエンが最近アピールしはじめた(というか、この瞬間のために温めてきた?)一連の快適技術群「シトロエン・アドバンストコンフォートプログラム」を完全体現していることが特徴だ。既存アイテムの「プログレッシブハイドローリッククッション(PHC)」や「アドバンストコンフォートシート」などをフルに備えるだけでなく、ダッシュボードの助手席前にタブレットを接続・固定できる「スマートパッドサポート」などの今回が初見参のものも含まれる。
そして、新型C4では、シトロエンのデザインが内外装とも新しいフェーズに入ったことは一目瞭然である。発表当日に開かれた国際オンライン発表会で、シトロエンの現CEOは、新型C4を「シトロエンの2度目の誕生であり、内外装デザインの新しいチャプターの幕開けです。そこには私たちが愛した『CX』『GS』『C6』……その他のシトロエンの歴史がタップリと詰まっています。シトロエンのヘリテージはイノベーション、デザイン、コンフォートにあふれて、そしてポピュラー(大衆的)であることです」と語った。
こうして中身もデザインも決定的に新しいシトロエンを、世界でもっとも量販が見込めるCセグメントで世に問う……という点で、新型C4はおそらくシトロエンの将来を左右する戦略商品ということになるだろう。
きっかけは2014年
新型C4以前のシトロエンデザインは、2014年3月のジュネーブモーターショーで公開された「C4カクタス」でスタートした。C4カクタスでは、エンブレムのダブルシェブロンを切れ長のポジションランプと横一直線にならべてフロントエンドの上方に置き、その下にヘッドライトユニットを配した。そして車体サイドには“エアバンプ”があしらわれていた。
シトロエンにとっての2014年とは、C4カクタスが登場しただけでなく、あらゆるものが転換した年だった。プジョー・シトロエン全体のCEOにルノーから移籍したカルロス・タバレス氏が電撃就任したのも2014年なら、エアバンプ世代のシトロエンを一貫して率いた名物女性CEOのリンダ・ジャクソン氏が就任したのも2014年。そしてDSが独立した高級車ブランドとしてシトロエンからスピンアウトさせられたのも2014年のことである。
そんな2014年からの6年間でシトロエンを取り巻く環境も大きく変わった。なかでも大きな出来事は、グループPSAがオペル(英国でのみボクスホール)という、さらなる量販ブランドを抱えるようになったことだ。その買収合意は2017年3月。効率化のためには基本ハードウエアの一括開発やコンポーネントの共用化をさらに推し進めつつも、ブランドごとのデザインや乗り味のちがいをこれまで以上に明確化しなければならなくなった。
「新型C4はエクステリアとインテリアのすべてを刷新するビッグプロジェクトでした。今回はシトロエンの本物のDNAに最大限の敬意を払いました」と語るピエール・ルクレール氏が、現デザイン部門長の座に就いたのは2018年11月だ。その前任者であるアレクサンドレ・マルバル氏の最後の仕事が「C5エアクロス」だった。こうして見ると、シトロエンのデザイン戦略とそのための人事は、とてもシンプルで分かりやすい。ちなみに、ルクレール氏はそれ以前はザガートやBMW、キアなどでキャリアを積んできた。逆にシトロエンを出ることになったマルバル氏はメルセデス・ベンツに移籍した。
“本物”へのこだわり
さて、新型C4の姿を見れば、シトロエンが今後さらにクロスオーバー車に特化していくことは明らかだ。そのうえで、いわゆる“顔”のデザインは従来のそれを正常進化させている。ダブルシェブロンから伸びるグリルルーバーは、これまではポジションランプが受け止めて終わっていたが、新型C4では上下に開いて「X」字を描きつつ、上がポジションランプに、下がヘッドランプユニットに融合する。それと同じX字モチーフがリアエンドでも繰り返されるのも今回の新しさだ。フロントバンパーやサイドシルに仕込まれたエアバンプもこれまでとの継続性を表現したデザインだが、その形状がヘキサゴン=六角形なのは新しい解釈といえる。
前出のCEOがいうデザイン上の「シトロエンの歴史」の具体例は、伸びやかなフロントオーバーハングによるロングノーズと強く傾斜したリアウィンドウ、それとともに緩やかな弧を描くルーフライン、スパッと切り落としたリアエンド……と理解すべきかもしれない。こうした昔ながらのシトロエンを思わせる猫がうずくまったような低いプロポーションを、クロスオーバーならではの大きめの地上高と、しなやかなPHCが支える“高床式クーペスタイル?”が、新世代のシトロエンということだろうか。
新型C4の国際オンライン発表会で登場したシトロエンのキーマン/キーウーマンたちは口をそろえて、これを「本物、あるいは本当のシトロエン」と表現していた。そんな当たり前のことをわざわざ口にするということは、裏を返せば「今後のシトロエンは本物でなくなりかねない」という懸念があるということだ。
6年ぶりに迎えた大転換期
シトロエンを取り巻く環境は2017年のオペル買収以降もさらに変化している。とくに大きなものは、いうまでもなく、2019年末に合意されたグループPSAとFCAの統合だろう。これで、シトロエンブランドの分かりやすい差別化はさらに重要となった。
そういえば、新型C4のオンライン発表会に参加していたシトロエンの現CEOは、おなじみのリンダ・ジャクソン氏ではなく、この2020年1月に就任したばかりのヴィンセント・コビー氏だった。コビー氏は2002年に日産に入社したのが自動車業界キャリアの最初であり、17年間ルノー・日産(そして三菱)アライアンスで働いてきた。つまり、カルロス・タバレス氏とは旧知の仲である。
シトロエンにとって、この2020年は2014年とよく似ている。シトロエンは2014年にも、新世代商品第1号を上市して、CEOが交代した。なかでも最大の出来事はさらに上のグループ総帥も代わったことだが、今回はFCAとの統合という、ある意味でそれ以上の大きな変化があった。まあ、時期的に見て、統合が新型C4の開発に直接的な影響を与えたことはないだろう。しかし、2020年がシトロエン大転換の年となり、新型C4がその象徴となる可能性は高い。
それにしても、新型C4のプロポーションには、どことなく胸をざわつかせる絶妙なアンバランス感があり、それこそが歴代名シトロエンとの最大の共通点かもしれない。実際、こうして画像や動画を公開されただけで、新型C4はコアなシトロエンマニアにも、おおむね好評のようである。
(文=佐野弘宗/写真=グループPSA/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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