第626回:“鬼グルミの殻”はどこに効く? トーヨーの新型スタッドレスタイヤを試す
2020.08.11 エディターから一言![]() |
トーヨータイヤが2020年8月にスタッドレスタイヤの新商品「オブザーブGIZ2(ギズツー)」をリリースした。新技術の採用によってさらに強化したという氷上性能を、発売に先駆けて冬の北海道でテストした。
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トレッドパターンまで一新
“専用タイヤ発想”をキーワードとした商品展開を行うトーヨータイヤが、前作から6年ぶりにローンチしたのが、ここに紹介するオブザーブGIZ2だ。“オブザーブ”は、このブランドの乗用車系スタッドレスタイヤに与えられる愛称。ただし、SUVやミニバンなど背の高いモデル向けには「ウインタートランパス」という全く異なるラインナップを用意する点もまた、トーヨータイヤならではの戦略といえる。
ブランド名に続いてGIZ2というサブネームが加えられている点からも明らかなように、このタイヤは2014年に発表・発売された「オブザーブ ガリットGIZ」の実質的な後継モデルにあたる。
氷上走行時にタイヤと路面との間に発生するミクロ単位の水膜にフォーカスして「吸水性能アップでアイス性能を向上」とうたった前作に対し、今回はアイス性能をさらに強化したうえで経年劣化の抑制にも注力。さらに、アイス性能を追うとどうしても低下しがちなウエット性能の向上も図っている。この点がコンパウンドはもとよりトレッドパターンも一新した、文字通りのフルモデルチェンジ作品であるGIZ2の特徴だ。
独自技術の“鬼グルミの殻”は健在
「路面への密着性をアップさせることでアイス性能の向上を図る」というフレーズ通り、3本のストレートグルーブとサイプの刻まれたブロックで構成される非対称のトレッドパターンは、基本的には路面に接する面積が多めのデザイン。それでも「社内評価では制動性能で18%、旋回ハイドロプレーニング性能で約4%の向上」というウエット性能は、高い排水効率と、新開発の「持続性密着ゲル」を配合して柔らかさを保つとともにシリカを増量した、新たなトレッドコンパウンドが支えている。
「バットレスエッジ」と呼ばれる、ショルダー部分の矢印状の切り欠きは、わだち路面の乗り越え性向上を意図したアイデア。3つずつのブロックを縦方向にひとまとめとした中央部の「3連ブロック」は加減速時にブロック同士が接して支え合い、両側ショルダーブロックの側面に施されたジクザグ形状の「バイティングエッジ」と共に、エッジ効果を高めることを狙っている。
ところで「トーヨーのスタッドレス」とくれば“クルミの殻”の配合をイメージする人も少なくないはず。実際、この最新モデルにもトーヨータイヤが20年以上こだわってきたこのアイテムが用いられている。
コンパウンド表面の鬼グルミの殻による実際の“ひっかき効果”もうたわれてはいるものの、現実にはそれが抜け落ちた後に残るくぼみが、親水性を備えた柔らかな新素材「NEO吸水カーボニックセル」と共に氷上の水膜を吸い取るという効果のほうが大きいだろう。クルミの殻自体は、他社製品との差別化を図るプロモーションのほうに効果を発揮しているのかもしれない。
従来品から着実に進化
そんな新タイヤをいち早くチェックできたのは、北海道の佐呂間タイヤ試験場でのことだった。1993年に開設された、トーヨータイヤの冬タイヤ開発のホームグラウンドだ。
従来品のガリットGIZと新しいGIZ2をそれぞれ装着した2台の「トヨタ・カローラ スポーツ」で圧雪路での走行性能とアイス路での旋回性能を比較してみる。優れた印象をもたらしたのはやはりGIZ2だ。圧雪路では全般的に接地感が高く、コーナーでのターンイン時にはノーズの入り方がよりスムーズだった。
一方、氷盤状の旋回路では、動き出してすぐのパーキングスピード状態でステアリングホイールから伝わる手応えが、やはりGIZ2のほうが上だ。厳密に言えば装着車両の個体差による影響は排除できないものの、これもまた間違いのない実感であったことは確かだ。
ドーム型の屋内氷盤路では2台の「トヨタ・プリウス」の4WD車に、同じくGIZとGIZ2をそれぞれ装着し、走りだし時のグリップ力や制動性能をテスト。やはりいずれもGIZ2のほうが勝ることを確認できた。リアルワールドで誰もが体感できるほどの大差か? と問われると微妙なところだが、それでもまだまだスタッドレスタイヤの技術進化が続いていることは間違いない。
例によって短時間かつ限られた条件下でのチェックゆえ、断定的な判断が下せないのは歯がゆいところ。特に、新型の売り物であるはずのウエット性能や経年劣化の抑制については、残念ながら参考意見すら述べることができない。
とはいえ、そんな限られたシーンの中で垣間見えた実力は、やはり従来品から着実な向上を示していたこともまた確か。誰もが“限界性能”までを簡単に使い切ってしまうアイテムだからこそ、スタッドレスタイヤは性能本位で選びたい。
(文=河村康彦/写真=トーヨータイヤ/編集=藤沢 勝)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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