スズキ・ソリオ ハイブリッドMZ(FF/CVT)/ソリオ バンディット ハイブリッドMV(FF/CVT)
幸福家族の願いを乗せて 2020.12.24 試乗記 5ナンバー規格に収まるフットプリントと背高ボディーで人気の「スズキ・ソリオ」がフルモデルチェンジ。コンパクトさと広さの両立を求められる日本ならではのファミリーカー、その最新モデルの仕上がりをリポートする。マイルドハイブリッドがメイン
フルモデルチェンジされたスズキ・ソリオは4代目。初代は2005年デビューだが、元は1997年に登場した「ワゴンR」ベースの「ワゴンRワイド」だから、20年以上にわたって親しまれてきたことになる。Aセグメントのコンパクトハイトワゴンとして、揺るぎない人気を得ているのだ。スズキの小型車の中では稼ぎ頭だという。
コンパクトなサイズながら広い室内を持つというコンセプトは変えようがない。改良点は3つ。後席の快適さ向上と荷室の拡大、安全装備の充実だ。いずれもユーザーからの要望が多かったという。パワーアップとかハンドリング性能の向上といった項目についての声もあったが、やはり実用性に関心が集まるクルマなのだ。
そして、燃費についても触れられていない。先代モデルにあったストロングハイブリッドは、ラインナップから外された。燃費のよさが、ストレートに販売成績につながらなかったのだ。価格が高いうえに荷室が狭く、トランスミッションがシングルクラッチ式ATの「AGS」のみで4WDモデルがなかった。この組み合わせだけでは、ストロングハイブリッドのメリットをユーザーが感じられなかったようだ。
純ガソリンエンジン車も用意されているが、メインはマイルドハイブリッドモデルに絞られている。先代と同様、1.2リッターエンジンにISG(モーター機能付き発電機)と12Vのリチウムイオンバッテリーが組み合わされている。燃費はFFモデルで19.0km/リッター(WLTCモード)だから、これで十分だと判断したのだろう。
ゆるふわ系やギラツキ顔は排除
従来どおり、ソリオと「ソリオ バンディット」の2本立てである。ロゴを見ると、ソリオ バンディットのロゴは「BANDIT」が大きく表記されている。スズキとしては、2台を異なるモデルとして見てほしいのだ。中身はほぼ同じだが、ターゲットを差別化している。カタログを見ると、ソリオは「コンパクトなのに、室内さらにひろびろ」、ソリオ バンディットは「強く、美しきコンパクト」と、キャッチコピーが全然違うのだ。
CMでもソリオは5人で踊りまくっているが、ソリオ バンディットは吉沢 亮と橋本環奈の2人だけでドライブ。パーソナルユースをアピールしているようだが、実際にはファミリーカーとして使われることが多いはずである。好みのデザインを選べばいいだろう。ソリオがおとなしめでソリオ バンディットがギラついた顔という分け方にはなっていない。ソリオもゆるふわ系ではなく、クロームパーツが多用されていてシュッとしている。ソリオ バンディットは細い目がつり上がっているクール系だ。
インテリアはソリオがネイビー×ホワイト、ソリオ バンディットがボルドー×ブラックというカラーコーディネート。どちらもファニーな感じは排除されているから、安っぽいイメージにはなっていない。ダッシュボードやドアトリムの素材は触ると固いが、子供も乗ることを考えると耐久性を重視するのは正しい選択である。薄っぺらな上質感を演出するより、使いやすさと利便性を重視したつくりになっているのが好ましい。
運転席に座ると、正面のヘッドアップディスプレイが目に入る。スズキの小型車としては初の装備だ。センターメーター方式を引き継いでいるので、ドライバーの視線移動を減らす効果がある。焦点調節も容易になるので、高齢者にはありがたい装備だ。
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荷室長が大幅に拡大
ソリオとソリオ バンディットは、パワーユニットだけでなく足まわりの設定も同じ。乗り比べてみたが、当然ながら違いは感じられない。エンジンは2013年に「スイフト」で初採用されたデュアルジェットだ。1気筒あたり2つのインジェクターを備えていることを表した名称である。12.5という高い圧縮比で効率を高め、EGR(排気再循環システム)クーラーの採用などでノッキングを抑え込む。パワー向上よりも省燃費を重視したエンジンだ。
最高出力は91PSで、いわゆる“必要にして十分”というものだ。発進はスムーズだが、急加速するにはアクセルを深く踏み込まなければならない。ISGのサポートは限定的である。メーターパネルの右側に表示されるエネルギーモニターを見ていても、モーターが作動するのはごく短時間だった。リチウムイオンバッテリーは助手席の下に収まるコンパクトなサイズなのだ。電装品への電力供給などの地道な働きで省燃費に貢献している。
街なかを普通に流している限りでは、室内は静かである。エコタイヤを装着している割には、ロードノイズは低いレベル。リアフェンダーライニングの全面的な採用やリアスタビライザーへのストッパーゴム追加といった細かい改善が功を奏したようだ。静かなのはいいことだが、皮肉な現象が発生した。後席の空調効果を高めるスリムサーキュレーターの音が気になってしまうのだ。よほど暑かったり寒かったりするのでなければ、送風レベルは控えめにしたほうがいい。
先代より全長が80mm伸びたのは、荷室拡大が主な目的である。荷室床面長はなぜか100mm延長されていて、20mmは構造の見直しなどでプラスされているようだ。室内長は2500mmと変わっておらず、20mmの全幅拡大などのおかげで居住空間はさらに大きくなっている。ただ、シートの50:50分割も踏襲されたため、後席真ん中はエマージェンシーと考えるべきだろう。
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快楽よりも安全を優先
安全装備のアップデートも重要な変化である。衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能などがセットになった「スズキセーフティーサポート」は、レスオプションが設定されているものの実質的には標準装備だろう。アダプティブクルーズコントロール(ACC)は全車速追従となった。快適に機能したが、停止すると「ブレーキを踏んでください」というアラートが表示された。パーキングブレーキが足踏み式なので、自動的に停止状態を保持することはできない。
地味にうれしいのは、全方位モニターの画像がきれいになったことである。バック駐車で重宝するこの機能は珍しいものではなくなったが、使い勝手は同じではない。粗い画面だと、自車の位置が確認しづらいことがある。リバースとドライブを切り替えると、リアビューとフロントビューが自動で切り替わるのも、利便性を高めている。
運転していてものすごく楽しいというクルマではない。ステアリングを切ったときの反応には多少のラグが感じられるし、上屋が揺れる感覚も残っている。ドライバーの快楽よりも乗員の安全を優先したクルマなのだ。ファミリーカーとしては誠に正しい方針だといっていい。わがままで自己中心的なドライバーには似合わないクルマだ。
とはいいながら、ドライバーフレンドリーなクルマでもある。見晴らしのよさは素晴らしい。前方だけではなく、前後左右360度すべてが容易に把握できる。駐車場のゲートでチケットを受け取るときも、ストレスがまったくない。荷室や居住空間を拡大したのに、4.8mという優秀な最小回転半径がそのままというのも素晴らしいことだ。コンパクトなボディーの中には、ファミリーへの気づかいがぎっしりと詰め込まれている。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
スズキ・ソリオ ハイブリッドMZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3790×1645×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:118N・m(12.0kgf・m)/4400rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:19.6km/リッター(WLTCモード)
価格:202万2900円/テスト車=235万3065円
オプション装備:全方位モニター用カメラパッケージ(5万5000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(18万7000円) ※以下、販売店装着オプション フロアマット<ジュータン>(2万9315円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:654km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
スズキ・ソリオ バンディット ハイブリッドMV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3790×1645×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:118N・m(12.0kgf・m)/4400rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:19.6km/リッター(WLTCモード)
価格:200万6400円/テスト車=238万0565円
オプション装備:ボディーカラー<スピーディーブルーメタリック×ブラックルーフ>(4万4000円)/全方位モニター用カメラパッケージ(5万5000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(18万7000円) ※以下、販売店装着オプション フロアマット<ジュータン>(2万9315円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:821km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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