ダウンサイジングの波はどこに エンジン排気量拡大トレンドが起きているのはなぜなのか?
2021.01.20 デイリーコラムDセグセダンの主力が1.5リッター前後に
いわゆるダウンサイズエンジンは、5代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」が搭載した「TSI」エンジンに端を発している。1.4リッターエンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーを組み合わせ、2リッター並みのパワー&トルクを発生するというものだった。
狙いは至ってシンプルで、年々厳しくなる排ガス規制にミートすべく、CO2の排出量を抑えて燃費を稼ぐこと。そのためには、エンジン排気量の縮小が有効だからだ。特に欧州のメーカーはダウンサイジングに積極的に取り組んできた。ちなみに国内メーカーがそれほど乗り気ではなかったのは、日本の市街地のようなストップ&ゴーの多い場面では、ハイブリッドのほうが燃費性能に優れているからだ。
ダウンサイジング化が進む中で、2016年にアウディは「A4」のエントリーモデルに1.4リッター直4直噴ターボエンジンを採用。また同年BMWは「3シリーズ」(先代)に、1.5リッター直3直噴ターボエンジンを搭載したエントリーモデルを追加している。
ちなみに「メルセデス・ベンツCクラス」は、現行型導入時のエントリーモデル「C180」に1.6リッター直4直噴ターボエンジンを搭載。2018年のマイナーチェンジでは1.5リッター直4直噴ターボへとさらにダウンサイズし、1つ上の「C200」ではこの1.5リッターエンジンに「BSG」と48V電気システムを加えたマイルドハイブリッド仕様として燃費を向上させている。
排気量拡大で新たな燃費測定モードに対応
ところが、2020年にアウディはA4のマイナーチェンジのタイミングでエントリーモデルに2リッター直4直噴ターボエンジンとベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)、12Vリチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムを採用。BMWは3シリーズ(現行)のエントリーグレード「318i」に、電動化に頼ることなく効率を追求して燃費13.4km/リッター(WLTCモード)を達成した2リッター直4ターボエンジンを搭載した。
くしくも同タイミングでアウディもBMWもエントリーモデルの排気量が2リッターに拡大しており、それはこれまでのダウンサイジング化の波に逆行しているようにも見える。果たしてその理由はといえば、これまで各国でばらばらだった欧州での燃費基準が、国際基準のWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)に統一化される動きが進んでいるためだ。このWLTPは従来のテスト基準と比べ、運転モードが多岐にわたること、またテスト時はコールドスタート(冷間時にエンジンを始動)であること、また速度変化が従来より急であることなど、より現実世界での使用に即したものになっている。
一般的にダウンサイズしたターボエンジンは、低回転から過給して早めにトルクを立ち上げ、エンジン回転数を低く抑えることで燃費を稼ぐ傾向にある。それが、急加速を伴うようなWLTPのテストにはうまくミートしないのだ(少々ややこしいが、WLTPに基づく測定法をWLTCモード法と呼ぶ)。低回転域のみならず、すべての回転域で効率を高めようとすると、排気量を増やさざるを得ないというのが実情のようだ。
実はアウディやBMWが日本でダウンサイジングモデルの発売を始めたころ、本国ではすでに今につながる次世代の2リッターエンジン技術がアナウンスされていた。当時のアウディのプレスリリースにも、新世代の「2.0 TFSI」エンジンは、圧縮行程を短縮し、膨張行程を長くしたミラーサイクル(通称:Bサイクル)の燃焼方式の採用や高圧縮化、デュアルインジェクション化などで実質的なダウンサイジング効果を得ていると紹介されている。
いつのころからか、リアのバッジの数字と排気量は符合しなくなり、また車格と排気量の大きさも、必ずしも比例するものではなくなった。自動車はいつの時代にも規制に翻弄(ほんろう)されながら技術革新を続けていく。それはスポーツカーなども例外でなく例えばポルシェは「718ボクスター/ケイマン」に、一度はラインナップから消滅した水平対向6気筒エンジンを、気筒休止システムなどを取り入れることで復活させている。
先のアウディのプレスリリースの中にこんな言葉があった。ダウンサイジングから“ライト(right:適切な)サイジング”へ。内燃エンジンの可能性はまだまだあるということのようだ。
(文=藤野太一/写真=アウディ、BMW、フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
-
「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来 2025.10.3 スズキ初の量産電気自動車で、SDVの第1号でもある「eビターラ」がいよいよ登場。彼らは、アフォーダブルで「ちょうどいい」ことを是とする「SDVライト」で、どんな機能を実現しようとしているのか? 発表会の会場で、加藤勝弘技術統括に話を聞いた。
-
フォルクスワーゲンが電気自動車の命名ルールを変更 「ID. 2all」が「ID.ポロ」となる理由 2025.10.2 フォルクスワーゲンが電気自動車(BEV)のニューモデル「ID. 2all」を日本に導入し、その際の車名を「ID.ポロ」に改めると正式にアナウンスした。BEVの車名変更に至った背景と、今後日本に導入されるであろうモデルを予想する。
-
18年の「日産GT-R」はまだひよっこ!? ご長寿のスポーツカーを考える 2025.10.1 2025年夏に最後の一台が工場出荷された「日産GT-R」。モデルライフが18年と聞くと驚くが、実はスポーツカーの世界にはにわかには信じられないほどご長寿のモデルが多数存在している。それらを紹介するとともに、長寿になった理由を検証する。
-
なぜ伝統の名を使うのか? フェラーリの新たな「テスタロッサ」に思うこと 2025.9.29 フェラーリはなぜ、新型のプラグインハイブリッドモデルに、伝説的かつ伝統的な「テスタロッサ」の名前を与えたのか。その背景を、今昔の跳ね馬に詳しいモータージャーナリスト西川 淳が語る。
-
「MSRロードスター12R」が『グランツーリスモ7』に登場! その走りを“リアルドライビングシミュレーター”で体験せよ 2025.9.26 あの「マツダ・ロードスター」のコンプリートカー「MSRロードスター12R」が、リアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモ7』に登場! 他業種(?)との積極的な協業により、運転する楽しさとモータースポーツの普及を進める、マツダの最新の取り組みに迫る。
-
NEW
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】
2025.10.4試乗記ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。 -
NEW
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た
2025.10.3エディターから一言頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。 -
NEW
ブリヂストンの交通安全啓発イベント「ファミリー交通安全パーク」の会場から
2025.10.3画像・写真ブリヂストンが2025年9月27日、千葉県内のショッピングモールで、交通安全を啓発するイベント「ファミリー交通安全パーク」を開催した。多様な催しでオープン直後からにぎわいをみせた、同イベントの様子を写真で紹介する。 -
「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来
2025.10.3デイリーコラムスズキ初の量産電気自動車で、SDVの第1号でもある「eビターラ」がいよいよ登場。彼らは、アフォーダブルで「ちょうどいい」ことを是とする「SDVライト」で、どんな機能を実現しようとしているのか? 発表会の会場で、加藤勝弘技術統括に話を聞いた。 -
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す
2025.10.3エディターから一言2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX編
2025.10.2webCG Movies山野哲也が今回試乗したのは「スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX」。ブランド初となるフルハイブリッド搭載モデルの走りを、スバルをよく知るレーシングドライバーはどう評価するのか?