BMW 218iグランクーペMスポーツ(FF/7AT)
テクノロジーの勝利 2021.05.03 試乗記 BMWが初めて手がけた、コンパクトな4ドアクーペ「2シリーズ グランクーペ」。ハッチバック「1シリーズ」と同じ前輪駆動プラットフォームで開発された新型車に、ドライビングプレジャーはあるのか?コックピットに“ビーエム感”
BMW 218iグランクーペMスポーツを前にして思うのは、「果たしてFF、3気筒のビーエムに乗る意味はあるのか?」ということだ。
クルマはかっこいい。正直、好みだけでいえば「3シリーズ」とか「5シリーズ」の“奇数車名トラディショナル系BMW”のほうが、“偶数のモード系BMW”より好きだ。でも、この2シリーズのグランクーペは、こんな自分でもこのクルマに乗ったらステキな人に見えるんじゃないかと錯覚させてくれる。全長4.5mちょいのコンパクトといっていいサイズでありながら伸びやかな造形だと感じるのは、ルーフ後端が優雅な弧を描いているからだ。それでいて、後席の居住性が確保されている点にも好感を持った。
でももうひとりの自分が、「どんなに格好よくても3パツだよ、前カキだよ」と、現役時代の野村克也さんのようにささやきかけてくる。そのささやきを王 貞治さんのようにガン無視してバッターボックス、じゃなくて運転席におさまる。センターコンソールに10.25インチの液晶パネルが鎮座するインテリアのコンセプトは最新のBMWのもの。
BMWのコックピットにおさまって毎度毎度感心するのは、もちろんつくり込みや装飾に違いはあるものの、基本的な考え方は1シリーズから「8シリーズ」まで共通であることだ。
運転に専念するために、必要最低限の計器類やスイッチ類が理路整然と配置されている。だからスッキリとした気持ちで運転に向き合うことができるし、それがこのブランドでしか味わえないスポーティーなプレミアム感を生む。
スターターボタンをプッシュして、1.5リッターの直列3気筒エンジンを始動する。「3パツはやっぱり、シャープでパンチ力のある4気筒やシルキーシックスの滑らかさとは違うんじゃないの?」と、ノムさんがささやいてくる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
意外にスムーズなエンジン
デュアルクラッチ式の7段DCTをDレンジに入れて、アクセルペダルを軽く踏み込んでみる。想像していた「ホロホロ」という3気筒特有の音や振動を感じることなく、エンジンはスムーズに回転を上げた。排気量から想像するよりはるかにアイドル回転付近からのトルクの立ち上がりはリッチだ。
技術の勝利だ、と思う。
ダイレクトインジェクションシステムがばっちりのタイミングでどんぴしゃの量の燃料を噴射する。バルブトロニックとダブルVANOSのコンビネーションで正確かつ自在にバルブを動かし、省燃費と高トルク、そして好レスポンスを実現する。
こうしたBMWが長年磨き上げてきた内燃機関を精緻に作動させる技術によって、3気筒のホロホロ感も、小排気量エンジンのスカスカ感も過去のものとした。3気筒のネガは消え、軽量コンパクトで吸排気の効率に優れるという美点だけが残った。
直3エンジンと、限られたパワーを効率的に地面に伝える7段DCTの連携プレーに感心しながら、とある有名料理人がなにかのインタビューで語っていた言葉を思い出した。発言の趣旨はこんな感じ。
「冷凍や冷蔵物流のテクノロジーが進化したことで、昔のように海産物を塩漬けにして運ぶ必要はなくなりました。だから奥さん、いまや近所のスーパーだって、臭いイワシなんて売ってないですよね? 昔の料理の教科書に載っていたような、イワシの臭みを消す下処理なんて必要ないわけで、私たちはいまの時代の新しい常識を学ばなければなりません」
そう、だから、直3だからダメという古い常識から解き放たれないといけないのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
コーナリングは感動もの
「でもこのエンジン、ありがたみは感じられないよな」と、ノムさんが意地悪にささやく。
それはその通りで、実用エンジンとしてはまったく不満はないものの、突き抜けるような回転フィールとか、胸のすくような快音とか、シートに体を押しつけられるような加速感といった、プラスアルファは感じられない。
ここは難しい。BMWに期待するのは、「不満のないエンジン」ではなく、「感動するエンジン」であるからだ。
一方で、シャシー性能、コーナリングの楽しさは感動するレベルだ。
試乗したのは「Mスポーツ」グレードで、足まわりは固められたバネと強力なダンパーとスタビライザーが組み合わされる。乗り心地はビシッと引き締まっているけれど不快ではない。それは、路面からの突き上げがどこか一点に集中してビシッと脳天に響くのではなく、ボディー全体で受け止めているからだ。野球の硬式球をバットで打つように、硬いけれど気持ちがいい。
ハンドルを切れば素直にノーズをインに向け、「FFだからふくらむんじゃないか」というイメージは一掃される。コーナリング中にパワーを与えても動きは滑らかで、一般道をスポーティーに走らせる程度であれば、FRかFFかを言い当てる自信はない。それくらい、ターンインもコーナーからの脱出もニュートラルだ。
理想は実現されている
これも、技術の勝利だろう。
「ARB(Aktornahe Radschlupfbegrenzung)」と呼ばれるタイヤスリップコントロールシステムがスリップを検知すると、コーナリングを最適化するように駆動力とブレーキをコントロールするのだ。この制御が従来よりも約3倍のスピードで可能になったことで、ドライバーは気持ちよくコーナリングできるのだ。
インテリアのところで「1シリーズから8シリーズまで一気通貫している」という趣旨のことを書いたけれど、ここでは「FFとFRで通底している」と表現したい。つまりBMWが思い描く理想のコーナリングのパフォーマンスがあって、FFでもFRでも同じようなファンを味わうことができるように技術を駆使しているのだ。
目的地は同じだけれど経由地が違う、と表現してもいい。
というわけで、「3気筒のFF」は、静的、動的質感の高さで、やっぱりBMWだった。
エンジンについては、まだ葛藤が続いている。芸術家的でないというBMWのエンジンを認められるのか。他方、もちろん地球温暖化を防ぎたいという気持ちはあります。軽量コンパクトで効率のよさを実現しながらこれほどまでのフィーリングを実現しているのであれば、それは現時点においては感動的なレベルの達成なのかもしれない。
エンジンをブン回して喜ぶなんて時代遅れかも、と言いつつ、E30型「BMW M3」の相場が高騰しているのもよ~くわかる。このご時世、クルマ好きは厄介な人種だ。
(文=サトータケシ/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
BMW 218iグランクーペMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4540×1800×1430mm
ホイールベース:2670mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:140PS(103kW)/4600rpm
最大トルク:220N・m(22.4kgf・m)/1480-4200rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:13.8km/リッター(WLTCモード)/16.9km/リッター(JC08モード)
価格:448万円/テスト車=551万2000円
オプション装備:ボディーカラー<ストーム・ベイ>(16万円)/iDriveナビゲーションパッケージ(24万9000円)/Mスポーツプラスパッケージ<Mスポーツシート+Mシートベルト+Mリアスポイラー+Mスポーツブレーキ+18インチMライトアロイホイール Vスポーク スタイリング554M>(21万7000円)/電動フロントシート<運転席メモリー機能付き>(13万円)/アクティブクルーズコントロール<ストップ&ゴー機能付き>(10万3000円)/ヘッドアップディスプレイ(12万3000円)/HiFiスピーカーシステム<205W、10スピーカー>(5万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2920km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:202.8km
使用燃料:19.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.5km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
スズキDR-Z4S(5MT)【レビュー】 2026.1.7 スズキから400ccクラスの新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」が登場。“Ready 4 Anything”を標榜(ひょうぼう)するファン待望の一台は、いかなるパフォーマンスを秘めているのか? 本格的なオフロード走行も視野に入れたという、その走りの一端に触れた。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。





















































