シトロエンC5エアクロスSUVプラグインハイブリッド(FF/8AT)
禁断の果実 2021.08.07 試乗記 「シトロエンC5エアクロスSUV」にプラグインハイブリッドモデル(PHEV)が追加設定された。先に上陸しているプジョーやDS版と決定的にちがうのは、このクルマが“トラクシオン アヴァン=前輪駆動”であるということだ。果たしてその仕上がりは?シトロエンは後回し?
プジョーやDSと比較すると(旧グループPSAでは)シトロエンだけ少し電動化が遅いように思えるかもしれない。プジョーとDSは昨2020年にそろって電気自動車(EV)を日本発売して、この2021年春には「3008」や「DS 7クロスバック(以下、DS 7)」のPHEVを次々と追加した。その時点で、日本仕様のシトロエンには電動化モデルが一台もなかった。
ただ、画期的な1人乗りマイクロ電気自動車の「アミ」がシトロエンから市場導入されるなど、本国でシトロエンの電動化が意図的に遅らされているわけではなく、タイミングの問題が大きい。たとえば「C3」や「C3エアクロスSUV」などのシトロエンのBセグメントにEVが用意されないのは、これらの骨格設計がEV化に対応した「CMP」プラットフォームではないからだ。C3の本国発売は2016年、C3エアクロスSUVのそれは2017年で、ともにひとつ前の「PF1」プラットフォーム最終期に開発された商品である。
今回の主題であるC5エアクロスSUV(以下、C5エアクロス)のPHEVにしても、DS 7や3008のそれより遅いわけではない……と思ったら、PHEVの本国デビューはDS 7が2018年、3008が2019年で、C5エアクロスは2020年だった(汗)。シトロエンが特別に遅らされているわけではないが、序列としては電動化推しの強いDSが最優先で、3008は先代で同社初のハイブリッドを用意した記念碑的モデルでもあり、結果的にC5エアクロスが最後発にされた感もある。まあ、こういう新技術モノは、最初は慎重を期して1台ずつ市場導入されていくものなので、タイミングに差が出てしまうのはいたしかたない。
というわけで、C5エアクロスPHEVだが、中身は先行したDS 7や3008のそれと基本的に同じといっていい。ただ、先に上陸した2台が後軸にもモーターを備える4WDでシステム出力300PSなのに対して、C5エアクロスは「プジョー508 GTハイブリッド」と同様に、後軸モーターを省略したFFで、システム出力も225PSとなっている。現時点では本国にも4WDの用意はない。
アイシン製ハイブリッドの持ち味
この事実をもって「やっぱりDS 7や3008のほうに力が入ってる?」とふたたび嫉妬するシトロエニストもいるかもしれない。だが、これもタイミング的な要素が大きく、本国ではこのクルマと同時期に、DS 7や3008にも225PSのFF版が追加された。欧州ではこうしたSUVでも4WD需要は小さい。それとは反対に4WD人気が高い日本のシトロエニストは、ここでもまた嫉妬心にかられるだろうが、いずれにしても今後は4WDが限定的存在になっていく可能性が高い。
それはともかく、このC5エアクロスを筆頭に、DS 7に3008、508といった同じ「EMP2」プラットフォームを土台とするPHEVにおいては、パワートレイン構成は後軸モーターの有無以外、基本的にすべて共通である。核となるのは1.6リッターターボエンジンとアイシン製の1モーター式ハイブリッド「e-EAT8」で、13.2kWhの駆動用リチウムイオン電池容量も全車共通だ。
日本のアイシンが供給するハイブリッドシステムは、既存の8段ATをベースとして、トルクコンバーター部分に1基のモーターと2組の湿式多板クラッチを内蔵する。これにより、エンジンのみ、モーターのみ、エンジン+モーターという3種の駆動パターンを自在に使い分けられるうえに、もちろんエンジン発電や回生による充電も可能である。こうしたフルハイブリッド車に近い機能を、通常のエンジン車とほぼ変わりないスペースにおさめられる点が、このアイシン製1モーターハイブリッドの大きな特徴である。
スポーツモードを賢く使う
……と、ここまでの説明でお気づきの向きもあると思うが、このシステムは発電機を兼ねるモーターを1基しか持たないので、おなじみのトヨタ方式などのように「エンジン発電しながらモーターで走る」という、いわゆるシリーズハイブリッド走行は物理的にできない。DS 7や3008の4WDであれば、実際に“フロントモーターで発電+リアモーターで駆動”というシリーズハイブリッド走行をすることもあるのだが、C5エアクロスPHEVではそのぶん、駆動パターンは少なくなっている。
用意されるドライブモードは「エレクトリック」「ハイブリッド」「スポーツ」の3種類があるが、ハイブリッドモードでもリチウムイオン電池に残量があるうちは基本的にEV走行となり、普通に穏やかに走るかぎりは高速道でもEVのままだ(EV最高速度は135km/h)。またEV優先のエレクトリックモードを選んでいても、従来でいうキックダウンスイッチを作動させる深いアクセルペダル操作をすると、自動的にハイブリッドモードへと切り替わってエンジンが加勢する。このあたりの柔軟性はいかにもPHEVらしい。
残るスポーツモードは完全なエンジン主体となる独特のモードで、アイドルストップすらしなくなり、アクセルの踏み具合によってモーターが加速アシストをする。全体に明らかにパワフルで、パドル変速ではブリッピングまでかまして、エンジン音は高らかに響く。アイシンによると、こうした場合にはATの小気味よさ優先で変速ショックも辞さない。ただ、アクセル操作と加速にわずかな“間”が生じているのも事実で、電動車らしいレスポンスやリニア感が後退するのも事実だ。
スポーツモードは割り切った制御なので、優しい加減速に徹すると、モーターが駆動に駆り出される場面が激減して“電池セーブモード”として裏メニュー的に使える。実際、今回も東京都心から山梨県の河口湖まで、中央高速をスポーツモードのままおとなしく走ったら、メーター内のEV航続距離は1kmも減らなかった。まあ、正式な「セーブ」モードではないので、長く走るうちに少しずつ電池残量は減っていくが、アイデア次第で面白い使いかたもありそうな気はした。
変速されるモーター出力
このシステムで興味深いのは、その構造から想像できるように、EV走行時のモーター駆動力も8段ATの変速部分を介していることだ。ほかのEVの例を見ても、このクルマ程度の性能なら変速なしで十分に成立しそうだが、アイシンによると、その構造を利してEV走行時もあえて積極的に変速しているそうだ(ただし、モーターの回転特性から使うのはいくつかの低いギアだけ)。もっとも、実際にC5エアクロスでEV走行しても、見事なまでに、変速の「へ」の字も体感できなかった。
メーター表示上での電池残量が尽きて自動的にハイブリッドモードに移行しても、実際には最低限の電池残量をキープしているようで、交差点などのゼロ発進ではエンジン停止のままモーターで転がり出すケースが多いし、減速時や下り坂では即座にエンジン停止して積極的に回生する。このあたりの走行感覚はいかにも本格的なハイブリッドだ。また、今回でいうと河口湖から帰京する際に走った中央高速上り線のように、効率よく回生できる長い下り坂に遭遇できると、いつしか電池残量が復活してEV走行を再開することもある。
今回のPHEVの車重は同じC5エアクロスの1.6リッターガソリン車より300kg以上、ディーゼル比で200kg弱も重い。360N・mというシステムトルクは、ガソリンより強力だがディーゼルにはゆずる。また、PHEVは電動化に合わせて最終減速比もガソリンよりハイギアード化されている。そんなこんなで、トータルでの動力性能は(それぞれに得手不得手はあっても)1.6リッターガソリン車と同等か、実感としてはそれよりちょい控えめかも……といったレベルである。絶対的に不足はないが、よくも悪くも上品な走りである。
効果絶大のマルチリンク
e-EAT8やリチウムイオン電池、インバーターに高電圧ケーブルなどPHEV化にともなう追加デバイスは、車体のいろんな場所に分散搭載される。そのために「このクルマの前後重量配分56:44は、ディーゼルエンジン版の61:39、ガソリンエンジン版の約60:40より改善されており、ハンドリングと乗り心地の両面でさらにレベルアップしている」と輸入元のグループPSAジャパンは主張する。今回担当した編集部F君などは、このクルマに乗って開口一番「これは人生最高の乗り心地!」と大感動していたくらいだ。
実際、単純な乗り心地については、もともと素晴らしく快適でヒタリとした接地性が絶品だった従来のC5エアクロスより、よりゆったり重厚になった感はある。PHEV専用の騒音対策が入念なのか、ロードノイズも明らかに静かだ。上下ストロークは相変わらず大きめだが、ロールはあくまで最小限。これだけヘビー級のSUVなのに山坂道でも持てあまさないのだから、そのデキはなるほど悪くない。また、路面の大きな凹凸にズドンと蹴り上げられるようなシーンでも、身体に響くような衝撃を伝えないのは素直に感心する。
ただ、山坂道でちょっとオイタをしようとすると、ガソリンやディーゼルより無理がきかないのは、重量配分うんぬん以前に、やはり1.9t近い絶対的な重量によるものだろう。また、その乗り心地やハンドリングにしても、重量配分以上に実効果を発揮しているのは、リアのマルチリンクサスペンションと思われる。C5エアクロスのPHEVでは3008のそれに続いて、リアサスペンションがベースのトーションビームからマルチリンクに格上げされている。3008では「後軸にモーターを抱える構造上の都合か?」とも思わせたが、それ以前に車重によってリアサスペンションを使い分けるのが、EMP2プラットフォームの設計要件らしい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
価格差をどう見るか?
C5エアクロスPHEVのプラグイン機能は3008やDS 7のPHEVと同様に、日本の急速充電には非対応の普通充電のみとなる。満充電での最大EV走行距離は65km(WLTCモード)というが、今回の総走行距離からEV走行距離を引いた分、つまり通常のハイブリッド車としてガソリンを使った走行分のみに着目すると、燃費はおよそ11.3km/リッター。以前に同じような乗りかたをしたガソリンやディーゼルと比較すると、その燃費性能はガソリンとディーゼルのちょうど中間というイメージだ。
で、このクルマはディーゼルに用意される「ナッパレザーパッケージ」相当の装備内容で、本体価格は550万円。同等装備のディーゼルとの価格差は74万円だが、PHEVならではの補助金や優遇税制分の22万7000円を差し引くと、実質価格差は51万3000円となる。
乗り心地や静粛性ではなるほど優位にあるPHEVだが、動力性能やハンドリングなどの純粋な“乗り味”だけでいうと、リアのマルチリンクに後ろ髪をひかれつつも、さすがに50万円強という付加価値は見いだしにくい……というのが、自家用車を賃貸駐車場に保管している筆者個人の偽らざる気持ちである。
ただ、200V電源を引き込んだ自宅ガレージをお持ちなら、PHEVへの評価はがらりと変わるだろう。休日の遠出以外は“ほぼガソリンスタンド不要生活”となるPHEV生活を一度でも謳歌してしまうと、普通のエンジン車には戻れない……と経験者が口をそろえるのは本当である。そういう向きは、50万円程度のエクストラコストや、重量増による多少のハンドリングの悪化などはまったく意にも介さず、PHEVを選ぶはずだ。PHEVとは現状ではそういうクルマであり、C5エアクロスはその典型的な一台かもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
シトロエンC5エアクロスSUVプラグインハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1850×1710mm
ホイールベース:2730mm
車重:1860kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:180PS(133kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/3000rpm
モーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
システム最高出力:225PS
システム最大トルク:360N・m
タイヤ:(前)225/55R18 102V/(後)225/55R18 102V(ミシュラン・プライマシー4)
ハイブリッド燃料消費率:16.1km/リッター(WLTCモード)
価格:550万円/テスト車=600万3930円
オプション装備:パールペイント<ブランナクレ>(8万2500円)/バイトーンルーフ(3万0600円)/ナビゲーションシステム(24万8380円)/ETC車載器(1万0450円)/ビーウィズプレミアムスピーカーセット<フロント>(13万2000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2632km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:426.0km
使用燃料:34.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/12.4km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
マクラーレンW1(MR/8AT)【海外試乗記】 2026.6.29 マクラーレンが、かつての「F1」や「P1」に続く“究極のロードゴーイングカー”として開発した、超高性能モデル「W1」。そのドライブフィールはどのようなものか? イタリアで試乗した西川 淳がリポートする。
-
ヒョンデ・ネッソ ラウンジ+(FWD)【試乗記】 2026.6.27 ヒョンデの水素燃料電池車「ネッソ」がフルモデルチェンジ。……といっても多くの方にはなじみがないかもしれないが、デザインが一気にモダンになったほか、満タンからの走行可能距離が25%近くも拡大するなど長足の進歩を果たしている。300km余りをドライブした。
-
アストンマーティンDBX S(4WD/9AT)【試乗記】 2026.6.24 「SUVの形をしたGT」こと「アストンマーティンDBX」が、さらに高性能な「DBX S」に進化。より機敏なフットワークと、よりパワフルなエンジンを得たハイパフォーマンスSUVは、どのような体験を提供してくれるのか? 飛ぶがごとく走る英国の巨獣の実力に触れた。
-
三菱トライトンGSR(4WD/6AT)【試乗記】 2026.6.23 三菱のピックアップトラック「トライトン」のマイナーチェンジモデルが登場。トヨタの新型「ハイラックス」を迎え撃つべく三菱は、シャシーを鍛え上げ、走行性能をさらなる高みへと引き上げている。400km余りをドライブした印象をリポートする。
-
ハーレーダビッドソンCVOストリートグライド3リミテッド(6MT)【レビュー】 2026.6.22 ハーレーダビッドソンのユニークな三輪モデル「トライク」シリーズが大幅に進化。お値段800万円超(!)の最上級モデル「CVOストリートグライド3リミテッド」の試乗を通し、新しくなった乗り味と、受け継がれる独創のファン・トゥ・ライドをリポートする。
-
NEW
ホンダのビーチクリーン活動が20年の節目に 本田宗一郎が涙したというそのルーツとは?
2026.7.1デイリーコラムホンダが陰に日向にと活動を支えてきたビーチクリーン活動が2026年で20周年を迎えた。これ自体も素晴らしいが、実はホンダとともに活動を運営する団体の設立には、かの本田宗一郎氏の涙が関連しているというから興味深い。今から60年前の人間味あふれるストーリーを紹介する。 -
NEW
第118回:デザイン目線で大総括! 2026年上半期のニューモデル ―「マツダCX-5」「ホンダ・スーパーONE」編―
2026.7.1カーデザイン曼荼羅例年同様、さまざまなニューモデルが登場した2026年の上半期。クルマ好きの注目を集めた新型車の数々を、カーデザインの視点で振り返ってみよう。まずは、一見キープコンセプトに見える新型「マツダCX-5」と、古くて新しい「ホンダ・スーパーONE」から! -
NEW
BMW R1300RS(6AT)
2026.7.1JAIA輸入二輪車試乗会2026BMWが擁するフラットツインの大型スポーツツアラー「R1300RS」に試乗。巨大なボクサーエンジンと安定志向の足まわりの調律は、大人のライダーが週末を楽しむためのバイクとして、完璧な仕上がりをみせていた。 -
NEW
トヨタGRカローラRZ(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.1試乗記GAZOO Racingの手になる「トヨタGRカローラ」が、一部改良でさらに進化。強化されたボディー剛性にサウンドコントロールシステムの追加など、従来モデルからの変更点をおさらいしつつ、硬派で辛口なその走りをリポートする。 -
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2026.6.30試乗記アウディのコンパクトSUV「Q3」がフルモデルチェンジ。新しくなったのはすっかり押し出しの強くなったフロントマスクだけでなく、内装もすべて新設計。インフォテインメントや灯火類などにも最新のシステムを採用した意欲作だ。「スポーツバック」の4WDモデルの仕上がりをリポートする。 -
フェラーリ初の電気自動車「ルーチェ」をどう思う?
2026.6.30あの多田哲哉のクルマQ&A公開されるやさまざまな議論を呼んでいる、フェラーリ初の電気自動車「ルーチェ」。その存在を、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどうみるのか? また、多田さん自身が開発を任されたらどうするのか、話を聞いた。



















































