世界中で愛される“市民のクルマ” 新型「ホンダ・シビック」がこの姿で登場した理由
2021.08.13 デイリーコラム今のシビックは高い? 大きい?
今回の新型で通算11代目となり、来る2022年には生誕50周年をむかえるという「シビック」は、ホンダの四輪車では最長の歴史をもつモデル名である。ホンダの大生命線といえる北米市場での地歩を固めるきっかけとなったのも、初代シビックだったことは間違いない。また、その初代シビックが国内発売された1972年から2000年ごろまでは、日本でもシビックがエントリーモデル的な存在だった。
よって「シビックはこうあるべし」との一家言をもつファンは少なくなく、「シビックで運転をおぼえた」という中高年のクルマ好きも多い。そんなシビックゆえに、新型が出るたびに侃々諤々(かんかくがくがく)というか、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論が巻き起こるのがお約束である。
最近のシビックに対する国内ファンの否定的評価といえば「サイズが大きすぎる」とか「価格が高すぎる」が典型で、そこから「つまりは日本軽視か!?」というホンダの商品戦略そのものへの批判につながるパターンも多い。なるほど、全幅1.8mという新型シビックの車体サイズはエントリーモデルと考えると明らかに大きい。そして、319万円~353万9800円という価格帯は、200万円台前半グレードも用意される「トヨタ・カローラ」や「マツダ3」と比較すると、いかにも高い。
最新の国産Cセグメントとしてはまっとう
ただ「サイズが大きすぎる」というのは、シビックというクルマに対する認識が20世紀末で止まったままの、いささか不公平な評価だ。現在の日本におけるホンダの(登録車の)エントリーモデルは、いうまでもなく「フィット」である。初代フィット発売後に開発された8代目シビック(国内は2005年発売)は、ホンダ自身も「ベーシックカーからミドルクラスへ移行した」と明言している。日本の交通環境でドンピシャの使い勝手を追求する役割は、この時点でシビックからフィットに引き継がれたのだ。
また新型シビックの国内価格は絶対的には高額だが、割高というわけではない。というのも、日本で売られる新型シビックはガソリンエンジンとしては高度な内容の1.5リッターターボを搭載しており、しかも最初からナビにADAS、アルミホイール、さらにはETC車載器まで、至れり尽くせりのフル装備だからだ。装備内容をシビックと同等にしても明確に安価なカローラはさすがだが、マツダ3の場合は、1.8リッターディーゼルで同等装備のシビックとほぼ同じ価格となり、「スカイアクティブX」だとシビックよりちょっと高い。
このように、シビックの実質価格は最新国産Cセグメントとしては十分にリーズナブルといっていい。問題なのは日本では300万円台の高級グレードしか用意されない(できない?)ことで、その理由は国内での販売台数を最初から少なく見積もっているからだ。新型シビックの国内販売目標は、先代の実績にならった月間1000台。カローラのそれは9400台、マツダ3でも2000台である。対して、1種類の車形と2種類のグレードで月間1000台を確実に売り切る……というのが新型シビックの国内マーケティングだ。
“失われた7年”の傷は深い
それにしても、日本におけるシビックがここまで縮小均衡商品になってしまった最大の理由は、約50年の歴史のなかで、日本でシビックが売られなかった空白期間が約7年間(2010年9月~2017年9月)もあるからだろう。その空白期間はグローバルではちょうど9代目シビックがつくられていた時期にあたる。当時は一応「タイプR」のみ限定輸入販売されたものの、シビックそのものの国内市場はいったん崩壊した。
その9代目シビックの企画担当氏にお話を聞いたことがあるが、当時のシビック日本撤退は、もちろん本意ではなかったという。2008年にぼっ発したリーマンショックは日本の自動車メーカーにも多大な影響を及ぼしたが、なかでも経営がもっとも傷んだのがホンダだったといわれる。前出企画担当氏も「あのときは、北米の主力であるシビックをプラットフォームもそのままにとにかく新しくして、販売台数とポジションを守ることが最優先でした」と振り返る。同時期の国内市場では「Nシリーズ」による軽自動車復権が最大ミッションであり、日本でシビックをどうこうする余裕はなかったというのが本音のようだ。
その後、待望の日本市場復活を果たしたのが先代シビックである。その10代目シビックもタイプRはとくに高く評価されて、通常モデルも6段MTが全体のなんと3割を占めるというエンスーな売れかたをした。しかし、2000台という当初の月販目標に対して、実際の販売台数はその半分ほどにとどまった。
こうした事実から日本人は「新型シビックは大変革して起死回生をはかるべきだったのでは?」と思うのだが、それもまた早計である。じつは先代シビックは、世界的に見れば大成功作だったからだ。
世界中の若者が求めるカタチ
ホンダのグローバル商品といえばフィットに「ヴェゼル」「アコード」などいくつかあるが、なかでも世界でたくさん売れるホンダ車の2トップは、ここ数年、ずっとシビックと「CR-V」である。毎年、ベストセラーホンダの座をこの2台が争いつつも、俯瞰して見るとシビックが1位の年が多い。しかも、シビックは北米と中国という世界の2大市場でとくに売れており、そこでの主要顧客が20~30代の若者層であることも大きな利点である。とくに北米では現在もシビックがエントリーモデルなのだ。新型シビックがデザインではキープコンセプトとしつつ、そこにデジタルネイティブ世代の若者をターゲットとしたポイントを仕込んでいるのは、そうした背景からである。
また、今回は1.5リッターターボの導入が先行し、より売れ筋であるはずのハイブリッドの「e:HEV」が遅れるのも、日本人には少し違和感があるかもしれない。ただ、今のところ新型シビックでe:HEVが主力になる予定なのは、日本と欧州だけだ。つまり、よくいえば成熟した、悪くいうと“枯れた?”市場にかぎられる。今後の各地域の環境政策によるところも大きいが、世界的には1.5リッターターボこそが、活発で若々しい新型シビックの主力パワーユニットという位置づけだという。
それにしても、シビックやCR-Vなど、足もとの日本でどうにも大量販売が見込めなそうなホンダ車ほど、世界では売れる……という事実をあらためて突きつけられると、日本人としてはなんともいえないモヤモヤが募る。そして、ホンダにとって、それがさぞかし悩ましい現実なのだろうと察する。
ただ、そういう精神的なモヤモヤを横に置けば、さすが世界一売れるホンダ車だけに、新型シビックはとてもよくできたクルマだ。人間とピタリとシンクロする走りは、なるほど“爽快”そのもの。そして先代同様のファストバック風ながらも、Aピラーの延長線がフロントタイヤ中心に着地する地にアシがついたプロポーションは、いかにもクルマらしく素直にカッコいいと思う。それでも、日本ではたくさん売れることはないだろうけど……。
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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