ランドローバー・ディスカバリーSE D300(4WD/8AT)
目利きの選択 2021.09.07 試乗記 新型「ディフェンダー」のヒットによって立場が微妙になったのが同じランドローバーの「ディスカバリー」だ。ただし、新たに直6エンジンを搭載した最新モデルに乗ってみると、むしろ積極的に選びたくなるほどの魅力にあふれていた。エンジンラインナップを刷新
先日発表になったディスカバリー(以下、ディスコ)の2022年モデルは、通算5代目となる現行型としては初めてのマイナーチェンジとされる。資料によると、外観ではフロントグリルやバンパー、ヘッドライト、テールライトなどが一新されたというが、基本造形やキーモチーフは従来のままだ。今回は3種ある新しい車体色以外はオーナーでないと気づかない程度の変化しかない。
いっぽうのインテリアは大刷新である。ダッシュボード全体のデザインテイストは踏襲されているが、ステアリングホイールをはじめ、11.4インチの大画面インフォテインメントを中心としたセンターパネル、ダイヤル式からジョイスティックに宗旨替えとなったシフトレバーを擁するセンターコンソール……などは明らかに新しい。
エンジンもまったく新しい。従来は3リッターV6のガソリンスーパーチャージャーとディーゼルターボの2機種だったが、最新型では昨今の上級ランドローバーに共通する「インジニウム」シリーズの直列6気筒に乗せ替えられた。新しい直6はガソリンとディーゼルともに過給機付きの3リッターで、どちらもベルト駆動スターター兼発電機を組み合わせた48Vマイルドハイブリッド(MHEV)となる。
また、今回からサードシートが全車標準化されたほか、走行中に車両下の映像確認もできる3Dサラウンドカメラが追加された先進運転支援システム(ADAS)は、全車に機能の分け隔てなく標準装備となった。さらに、これまでは両エンジンとも基本的に「HSE」と「HSEラグジュアリー」という2グレードずつだったのが、スポーツ系の内外装を与えた新グレード「R-DYNAMIC」を含めて5グレードずつ……と選択肢も増えた。
ライバルは身内にあり
というわけで、今回のマイナーチェンジは、時代に合わせた正常進化型のアップデートともいえるが、最近のディスコにまつわる最大の環境変化といえば、新型ディフェンダーの登場だろう。というのも、2017年の現行ディスコ発売当時は、アルミモノコック構造をもつランドローバーは「レンジローバー」と「レンジローバー スポーツ」しかなかったからだ。至高のレンジローバーや舗装路志向を強めたレンジローバー スポーツに対して、ディスコは「オフロード志向の上級ランドローバー」というべき明確な位置づけだった。
ところが、新型ディフェンダーもよく似たアルミモノコック構造を採用して登場したため、ディスコの立ち位置が曖昧になったのは事実だ。もともとディスコの売りだったオフロードイメージは、ディフェンダーのほうがさらに強い。また、ディスコの機能的な特徴だったサードシートはディフェンダーにも用意されるし、荷室の多用途性もディフェンダーのほうが高い。
ディフェンダーは一応、4気筒ガソリンが主力であり、スタート価格もディフェンダーのほうが低めではある。ただ、ディーゼルモデルとなると、そのエンジンは新しいディスコと共通の3リッター直6で、本体価格もともに700万円台からとなってしまう。最上級グレードの本体価格ではディフェンダーのほうが高価なくらいだ。このように、ディーゼル同士だと価格も大きく変わらない……となると、よりキャラクターが立って分かりやすい商品力にあふれるのは、正直いってディフェンダーである。
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上質かつ広々としたキャビン
今回の試乗車は日本でも売れ筋になるであろうディーゼルだった。インテリア全体の雰囲気に大きな変化がないのは前記のとおりだが、ダッシュやアームレスト、シート表皮にジャージ風素材があしらわれていたこともあり、よりモダンでクリーンになった印象だ。新しいディスプレイはセンターパネルと一体化した曲面を描く。ただ、意図的に玩具っぽい仕立ても取り入れたディフェンダーのインテリアと比較すると、ディスコのそれのほうが明らかに乗用車的で高級感もある。
標準化されたサードシートは相変わらず広い。“フル7シーター”を標榜するだけあって、身長178cmの筆者にとっても着座姿勢はいたって普通だし、すべての席を日本人としては大柄な筆者に合わせて調整した場合でも、体のどこも当たらないのは大したものだ。ディフェンダーにもサードシートの用意はあるが、その居住性については、空間の広さと着座姿勢、調度品の質感のどれをとってもディスコに軍配が上がる。
また、今回の試乗車のように、オプションの「電動サードシート」と「インテリジェントシートフォールド」を装着すると、2列目と3列目の展開や収納、2列目の可倒まですべてがスイッチひとつで可能となる。しかも、スライドやリクライニングの具合で作動時に干渉しそうだと、各シートが自動で避けてくれるなどして、まるでAIロボットのようでいとおしい(笑)。こういう凝ったシートアレンジ機構もディフェンダーには用意がない。
直6ディーゼルに可変ジオメトリーターボとMHEVを組み合わせたパワートレインは、従来のV6より飛躍的に静かになった。しかも、別の機会に乗った同じパワートレインのディフェンダーと比較しても明らかに静かだ。エンジン本体が静かになっただけでなく、遮音・吸音対策もより入念になったようだ。
本格的にトルクを供出するのは2000rpmを超えたあたりからだが、そこから4000rpm強まで、よどみなく滑らかに回る。リミットとなる4300~4500rpmまでアタマ打ち感がほとんどないのは、直6レイアウトならではの美点だろう。
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本質の分かる好事家に
新しいディスコの乗り心地は、よりホイールベースが長いディフェンダーの「110」と比較しても、明確に重厚で高級感のあるものになっている。全高は小山のように大きいが、それでもディフェンダーよりは低い。コーナリングの安定感もディスコのほうが一枚上手といっていい。
エアサスやダンパー、スタビライザー、パワステなどにも、改良や熟成の手がひととおり入っているようで、走りのリズム感はあくまでゆったりと穏やかなのに、反応はリニアで、無駄な動きや一体感を損なう遊びのようなものがまるでない。揺り戻すような挙動もディフェンダーより明らかに少ない。ロールチェックも入念で安定した姿勢をくずさない。本来エアサスが得意としない細かい凹凸が連続する路面でも、突っ張らずに吸いつくようなロードホールディングはなかなか見事だ。
繰り返しになるが、ディフェンダーによって、ディスコのポジションがニッチへと追いやられた感は否めない。また、少なくともディーゼルにかぎれば価格もディフェンダーと非常に近いので、なおさらディスコは立ち位置が曖昧に見えてしまう。
ただ、ディフェンダーの老若男女に分かりやすいデザインやキャラクター(とリセールバリューへの期待)をひとまず横に置けば、オフロード性能はほぼ同等だし、日常の乗り心地、操縦安定性、各部の高級感、機能、装備、燃費(=ディスコのほうが空気抵抗が小さい)といった乗用SUVとしての客観的な商品力は、ディスコに軍配があがる。それが(同じエンジンなら)ディフェンダーよりほんの少ししか高くない価格で提供されるのだから、純粋なコスパはディスコのほうが高い。だれにも魅力が分かりやすいディフェンダーが爆発的ヒットしているからこそ、それでもあえてディスコに乗る人が“モノゴトの本質が分かっている上級エンスー”と一目置かれるようになる……といいなあ。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランドローバー・ディスカバリーSE D300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1995×1970mm
ホイールベース:2925mm
車重:2560kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:24.5PS(18kW)/1万rpm
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)/1500rpm
タイヤ:(前)275/45R21 110W M+S/(後)275/45R21 110W M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:--km/リッター
価格:950万円/テスト車=1140万9000円
オプション装備:ボディーカラー<ナミブオレンジ>(20万1000円)/ファミリーパック(26万5000円)/空気イオン化テクノロジー<PM2.5フィルター付き>(3万6000円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(3万6000円)/ワイヤレスデバイスチャージング(2万8000円)/アクティブリアロッキングデファレンシャル(19万5000円)/インテリジェントシートフォールド(8万1000円)/ヘッドアップディスプレイ(7万7000円)/フロントセンターコンソールクーラーボックス(5万8000円)/ルーフレール<シルバーペイント>(4万9000円)/プレミアムキャビンライト(5万2000円)/マトリクスLEDヘッドライト<シグネチャーDRL付き>(3万3000円)/アクティビティーキー(6万円)/パワージェスチャーテールゲート(1万6000円)/コールドクライメートパック(8万4000円)/アドバンストオフロードケイパビリティーパック(25万8000円)/プレムアムカーペットマット(4万円)/パネル<ナチュラルチャコールオーク>(6万7000円)/電動3列目シート(22万4000円)/18ウェイ電動フロントシート<ヒーター&メモリー&キャプテンアームレスト付き>(4万9000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2327km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:526.5km
使用燃料:58.9リッター(軽油)
参考燃費:参考燃費:8.9km/リッター(満タン法)/9.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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