MINIクーパー クロスオーバー(FF/6AT)【試乗記】
ぜんぜん、MINI。 2011.03.16 試乗記 MINIクーパー クロスオーバー(FF/6AT)……315万9000円
MINIファミリーのニューモデル「クロスオーバー」の売れ筋グレードに試乗。その走りと使い勝手をリポートする。
ズルいクルマ
駐車場に行くと、新しい「BMW5シリーズ」の横に「MINIクーパー クロスオーバー」が止まっていた。両車を見比べると、何となくほほ笑ましい。「同じ自動車メーカーの製品」という先入観もあるのだろうが、ブランドも性格もまるで違う2車なのに、おでこのあたり(ボンネットの前端付近)のふくらみがよく似ている。歩行者保護に関するアプローチが同じだからだろう。
「最近のクルマは、機能より安全や環境要件によってカタチが決められる」とわかったようなことをツブやきながら、同時に、すっかり聞き飽きたフレーズがまたしても頭のなかに浮かんできた。
「MINI、ぜんぜんミニじゃないじゃん」
日本市場向けに、わずかに低められたとはいえ、MINIクロスオーバーの車高は1550mm。高級セダンの隣に置かれてもなかなか存在感があって、「これでMINIっていうのはズルいよなあ」と思った。さらにもうひとつ、「ズルいよなあ」と言いたくなることがある。
MINIクーパー クロスオーバーのサイズは、全長が4105mm、全幅1790mm、全高が1550mmである。国内ではあまり比較する対象にならないかもしれないが、「日産ジューク」の全長×全幅×全高=4135×1765×1570mmに近い数字だ。
「新しさ」を求めてSUV風味を一振り……というのは、デザイナーの常とう手段のひとつ。そもそも「SUV」という分野自体、「乗用車ベースのクロカン風モデル」と解釈することもできるから、SUVのサイズが、「フォード・エクスプローラー」や「レクサスRX(旧トヨタ・ハリアー)」、(北米市場では)コンパクトな「トヨタRAV4」や「ホンダCR-V」などを経て、さらにハンディなサイズにまで降りてきたと考えてもいい。呼び名は「クロスオーバー」と変わったが。
全長4100mm前後のSUV/クロスオーバー市場に参入するにあたって、MINIクロスオーバーが「ズルい」と思ったのは、もとよりMINIが備えているアドバンテージについてである。
楽してキマる(?)エクステリア
クルマをデザインするにあたって、地面に平行なショルダーライン(サイドウィンドウ下端)とやはり平行なルーフラインを与えると自動的にMINIになる。もちろんクルマのスタイリングはそんなに単純なものではないけれど、カーデザイナーの間では、そんな暗黙の了解事項がありそうだ。
コンパクトなクルマの開発者たちにとって悩ましいのは、限られたボディサイズで効率よくスペースを稼ごうとすると、えてして「MINIルック」になりがちだということ。世界中の小型車担当デザイナーたちは、なんというか、ピニンファリーナがデザインするフェラーリのアンチテーゼとして、どうにか新しいスポーツカーの姿を成立させようと四苦八苦していたベルトーネやザガートなどと同じ困難さを抱いているのでは……というのはあまりに想像が飛躍しすぎか。
なにはともあれ、同じような車体の大きさながら、こねくり回して、ひねりを利かせて、意表を突いて、押したり引いたり傾きを付けたりして、結果的になんとか「新しさ」の演出に成功した日産ジュークを街で見かけるたび、「MINIクロスオーバーはズルいなあ」と思ってしまうのだ。ワゴンだろうがクロスオーバーにしようが、サイドビューに水平なショルダーラインとルーフラインと、それでも心配なら屋根を白く塗ってしまえば、いやおうなしにMINIになるのだから(やや暴論)。
ヨーロッパでは、MINIカントリーマンと呼ばれるMINIクロスオーバー、日本には、1.6リッターのNAが2種、「ONE」(98ps)と「クーパー」(122ps)、それに1.6リッターターボを積む「クーパーS」(184ps)が輸入される。駆動方式はFFがメインで、電子制御の4WDシステムが装備されるのは、最上級の「クーパーS クロスオーバー ALL4」のみで、6ATモデルが379万円。一方、廉価な98psONEは、同じATモデルが278万円。試乗したのは、売れ筋のクーパー。312万円(6AT)からである。
MINIルックの面目躍如
スーサイドドアと呼ばれる、珍しい前開きの後ろドアを採用した「MINIクラブマン」と異なり、MINIクロスオーバーは純然たる5ドアモデルである。だからこそ、たとえばポルシェが5ドアという新しいカテゴリーに進出するにあたってSUVという車型を使ったのと同様、MINIもクロスオーバーのデザインをまとってニューモデルをリリースしたわけだ(「SUVのポルシェ」とか「クロスオーバーのMINI」と口にすると、何かを説明した気になるところも両車は似ている)。
運転席に座ると、センターコンソールに見慣れたグランドファーザーズクロック風のメーターが置かれ、その下に並ぶトグルスイッチの横列がいかにもMINI。ドライバーの視線は高い。
ONEより24psアップの122ps/6000rpmの最高出力と、こちらはあまり変わらない16.3kgm/4250prmの最大トルクを発生する1.6リッター直4は、あまり個性のないエンジンだ。トルキーだが、無理に回してもうるさいだけ。
乗り心地はMINIらしく、やや硬め。カーブするときの、ロールの少なさが印象的で、「ゴーカートフィーリング」と言えなくはない。個人的には、もっと車高を落として運転感覚との整合性を取りたいところだが、それではクロスオーバーにならない。「MINIクロスオーバーの車高を変えてみたい」という奇特なクルマ好きがいるとしたら、「クロス」の部分を強調して高くするのか、「ゴーカート感」を重視して低くするのか、ちょっと聞いてみたい気がする。
存在としては異型ながら、四角いボディと立ち気味のピラー類ゆえ、MINIクロスオーバーの居住性は高い。MINIルックの面目躍如。さらに大きくなったボディの恩恵で、「ようやく労なく後席に座れるMINIが登場した」のも朗報だ。
贅沢(ぜいたく)なセパレートタイプの後席から前後席にわたってキャビンを左右に隔てるセンターレールを眺めていると、「そこまでしてカップホルダーを優遇する必要があるのか」と持ち前の貧乏気質が頭をもたげるが、その遊び心がMINIなのだ、と納得しないといけないのだろう(MINIクロスオーバーを5人乗りにできるベンチタイプが、オプションで用意されてはいるが)。
(文=青木禎之/写真=荒川正幸)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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