ホンダが「ダックス125」を発表! 再興を遂げるレジャーバイクの今昔物語
2022.03.25 デイリーコラム起源はやっぱりあのバイク
先ごろ開催された「大阪モーターサイクルショー」(開催期間:2022年3月19日~21日)において、ホンダは新型レジャーバイク「ダックス125」を初公開した。本イベントの主役を担った一台といってもよく、その出展ブースには長蛇の列ができた。
このカテゴリーにおけるホンダの強さは群を抜く。近年、「モンキー」や「ゴリラ」「エイプ50/100」といったモデルが厳しい排ガス規制を前に生産中止を余儀なくされたわけだが、その一方で環境に適合させた新型機種を続々と投入。アセアン諸国を筆頭に日本でもヒットを飛ばし、欧米においても勢力を拡大している。
レジャーバイクには、明確なフォーマットがあるわけではない。愛玩的なデザインを持つモデルのリリースには、レジャーバイク、レジャーモデル、レジャー用途、レジャー目的といった文言が使われており、それに倣うと「スーパーカブ」シリーズの一部もそのひとつに数えることができる。
閲覧可能なリリースをさかのぼると、ホンダの「モンキーZ50A」にその表現を見つけることができる。このモデルは「モンキーZ50M」(1967年)の改良型として1969年に登場し、以来モンキーは49ccの横置き空冷単気筒エンジンと前後8インチホイールの組み合わせを堅持。2017年の記念モデルをもって、歴史が一度閉じられた。
その間、モンキーから派生したモデルは相当数にのぼる。子供の乗車や競技場内での移動を目的にした「Z50R」(1981年)、ローハンドルを備えたスポーティーな「モンキーR」(1987年)、逆にアップハンドルとリアキャリアでツアラーの要素を高めた「モンキーRT」(1988年)、デュアルヘッドライトによってオフロード色を強めた「モンキーバハ」(1991年)などのほか、たびたびリミテッドエディションや限定色が設定されてきたのだ。
一時は7機種10タイプものバイクをラインナップ
このモンキーの兄貴分がゴリラだ。1978年に初代モデルが発売され、やはり幾度もの改良と特別仕様の追加を繰り返し、2007年モデルが最終型となった。モンキーとゴリラの大きな違いは、航続距離の長さにある。例えば1978年型同士を比較すると、モンキーの燃料タンク容量が5リッターなのに対し、ゴリラは9リッターを確保。変速機もモンキーが3段の自動遠心式なのに対し、ゴリラは4段の湿式多板式とかなり異なっていたのだ。
そんな2機種は特別息の長いモデルになったわけだが、いずれにしても1960年代から1980年代にかけてはバイクの過渡期だったことも手伝って、かなりの数のレジャーバイクが存在した。
「ハンターカブ」は1968年に初代「CT50」が登場した後、1981年には「CT110」へと進化している。新型ダックスのオリジナルにあたる「ダックスホンダST50」は1969年に発売され、「ST70」や「ST90」といった排気量違いのバリエーションモデルも設定。よりアップライトなライディングポジションを持つ「ノーティダックスホンダCY50」(1973年)も加わり、人気を博したのだ。
このほかにも、49ccの縦置き空冷単気筒エンジンを搭載し、高い積載性能を持つ「R&P」(1977年)、自転車さながらの細いフレームを持つ「パルホリデー」と「パルディン」(いずれも1978年)、2サイクルエンジンとクルーザースタイルを組み合わせた「ラクーン」(1980年)と、例を挙げればきりがない。なかでも異色だったのが「モトコンポ」(1981年)や「モトラ」(1982年)だろうか。
モトコンポは四輪車の「シティ」に収納できることを前提に設計され、折り畳み式のハンドルとステップを装備。乾燥車重はわずか42kgしかなかった。このモトコンポが軽量小型を突き詰めたポータブルバイクだとすると、モトラはその対極にあるヘビーデューティー仕様だ。大型キャリアやワイドなブロックパターンタイヤもさることながら、3段のトランスミッションをローギアードに切り替えられるサブミッションによって走破性を強化。この2台を含め、当時のホンダは50ccクラスに7機種10タイプものレジャーバイクをラインナップしていたのである。
人気復活につながった映像作品での注目と法改正
一方で、マーケットが成熟するとバイクの主たるニーズはより大きな排気量のモデルが担うようになった。その過程で小排気量モデルは細分化されていったものの、バブル経済の崩壊や環境規制の壁、生産効率の問題もあり、レジャーバイクのブームもやがては沈静化していったのである。
レジャーバイク復権の兆しが見え始めたのは2000年代に入り、エイプ50/100が送り込まれて以降だろう。それがより鮮明になったのは、初代「クロスカブ」(2013年)が登場してしばらくたってからだ。漫画、アニメ、映画、小説などを通してこれらの製品が広く知られるようになり、そこに描かれるバイクの手軽さに若年層が注目した。結果、スーパーカブや「リトルカブ」、2代目「クロスカブ」「グロム」などの人気へとつながったのである。
タイミングもよかった。2018年はスーパーカブ誕生から60年を数えるアニバーサリーイヤーとなり、その年に新生「モンキー125」がデビュー。さらにはプレミアムなつくり込みを持つ「スーパーカブ125」も発売され、このカテゴリーがにわかに活気づくことになったのだ。
また、同年7月に道路交通法が改正され、普通自動車免許を持っていれば普通自動二輪の小型AT免許が取得しやすくなったほか、二輪の駐車違反に対する基準の緩和が検討され始めたのもこの頃である。レジャーバイクに限らず、125cc以下のモデルを取り巻く環境が改善され、そこに魅力的なデザインとほどよいスペックを持つモデルをホンダが次々と投下。結果的に、大きなムーブメントが生まれることになった。
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他メーカーにもある“小さな名車”の数々
再びブームのけん引役となったホンダだが、そのラインナップのなかでも、幅広い年齢層から支持されたモデルが「CT125ハンターカブ」(2020年)だ。オリジナルの雰囲気を崩すことなくデザインされた車体は、アドベンチャーに耐えるタフな装備とネオクラシックの要素が巧みに盛り込まれていた。44万円の車体価格は高価な部類に入るものの、今も大量のバックオーダーを抱えている。そこへ今回のダックス125が加わるのだから、ホンダの無双状態はしばらく続くに違いない。
もっとも、レジャーバイクはホンダの専売特許ではない。ヤマハには「ジッピィ」「ボビイ」「ポッケ」「フォーゲル」「ポップギャル」、スズキには「バンバン」「マメタン」「エポ」「ウルフ50」、カワサキには「KV75」「KM90」「AV50」などがあり、どのネーミングが復活しても、あるいはまったく新しいコンセプトのモデルが登場したとしても、広く受け入れられそうだ。
なにせ、このマーケットには大きな可能性がある。かつてアセアン諸国における125cc前後のモデルはファミリーユースが主たる用途の実用車だったが、昨今は経済状況が向上し、ゆとりの象徴へと変化している。一方で、日本や欧米ではデイリーユースの利便性に加え、スポーツ性や経済性も満たすパーソナルコミューターとして再構築され、潜在的なニーズはまだまだ見込めるからだ。日々の時間を豊かにしてくれるレジャーバイクは、われわれユーザーにとってペットにも似た存在なのである。
(文=伊丹孝裕/写真=本田技研工業、スズキ、ヤマハ発動機/編集=堀田剛資)

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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