ジャガーEペースR-DYNAMIC SE P300e(4WD/8AT)
お見事! 2022.05.13 試乗記 当初からスポーツカーのような乗り味で評判だった「ジャガーEペース」だが、遅れてやってきたプラグインハイブリッドモデル(PHEV)は、いい意味でまさに別物の感がある。最新のシャシーと電動パワートレインが織りなす走りの印象をリポートする。賞味期限は短い
ジャガーは急速な電動化に突き進んでいる欧州勢でも、もっとも野心的な戦略を標榜するブランドだ。なにせ、2025年までに全車を電気自動車(BEV)化するとしているのだ。2025年といえば、あと3年である!
今のジャガーは少数精鋭型のラインナップなので、いざとなれば世代交代は一気に完了するのかもしれない。しかし、2022年5月現在、ジャガーのBEVは「Iペース」の1種類しかない。昨2021年5月にはジャガー初のPHEVも登場したが、彼らのBEV計画に変更がなければ、それとて短命モデルに終わる可能性が高い。
というわけで、今回試乗したのが、そんなジャガー初のPHEVとなるEペースである。EペースのPHEVは日本ではまず「PHEVローンチエディション」として20台限定で発売された後、2022年モデルから「P300e R-DYNAMIC」というグレード名で、カタログモデルに昇格した。
動力システムの原理や基本構成は、ボルボの「60」系やジープのFF系モデルである「レネゲード」や「チェロキー」のPHEVと酷似する。フロントにベルト駆動マイルドハイブリッドを組み合わせたエンジンを置いて、リアにモーターを追加した4WDレイアウトだ。エンジンを停止したBEV走行時には、ボルボやジープと同じく後輪駆動となる。
心臓部となるのは初上陸の1.5リッター3気筒ターボ。ジャガー・ランドローバーの「インジニウム」シリーズとシリンダーレシオを共有するモジュラー設計エンジンで、単独での最高出力は200PS。そこに専用8段ATと約54PSのスターター兼発電機、そして約109PSのリアモーターを組み合わせる。合計したシステム出力は309PS(=300PS強)だそうで、それが「P300e」というグレード数字の由来ともなっている。
電池容量は15kWhで、一充電のBEV航続距離はローンチエディション時のメーカー公称値では55kmになっている。
初期モデルとはシャシーが別物
現在では2023年モデルの概要も一部公開されているが、今回の試乗車は2022年モデル……の先行生産車だそうで、内装装備の細部に市販モデルとわずかな差異があることはご容赦いただきたい。
思い返してみれば、このPHEVに乗る前にEペースそのものに触れたのは、日本上陸直後の2018年夏のことだった。あれから3年半以上ぶりの手合わせとなったEペースなのだが、最初に驚いたのは新しいPHEVのパワートレインではなく、その操縦性と乗り心地だった。
というのも、今回乗ったEペースの走りは筆者の記憶のなかにあるそれより1ランク……いや2~3ランクは上がったくらいの鮮烈な印象だったからだ。もともとのEペースはちょっとしたFFスポーツカーともいうべき旋回性能が最大の武器だったが、今回のEペースは従来の俊敏性や正確な操縦性はそのままに、見事なまでにしなやか、かつ豊潤、そしてフワピタと路面に吸いついて走るのだ。基本的なキャラ設定はEペースのままなのだが、いい意味で、まるで別物のクルマというべき仕上がりだった。
これはおそらく、本国でPHEVが追加された2021年モデルのタイミングで実施された大幅改良の恩恵と思われる。このときの改良は、見た目には内外装の一部アップデートにとどめられたこともあってか、ファンの間以外ではあまり大きな話題にはならなかった。しかし、実際には、プラットフォームが旧フォード由来の「D8」から電動化を想定した最新の「プレミアムトランスバースアーキテクチャー(PTA)」に、なんと丸ごと刷新されているのだ。つまり、中身は下手なフルチェンジより大規模な改良だった。
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駆動システムも秀逸
ジャガーのPHEVはシャシーだけでなく、パワートレインのデキも素晴らしい。プラグイン機能は日本の急速充電に対応していないが、電池残量8割程度をキープする「セーブ」モードにセットすると、残量がそれ以下の場合にはスキを見ながらジワジワ充電して、残量8割前後まで復帰させる“準チャージモード?”として使えるのが興味深い。シフトレバーをSレンジに入れると、アイドルストップをキャンセルして停止時もガンガン充電するようになるので、残量復帰時間も短縮する。
電池残量がたっぷりあるうちは、基本的にはリアモーターによる後輪駆動BEVとして走る。もちろん強く加速したり、高負荷になったりすると自動的にエンジンが始動するが、日本の公道で許される速度域を先を急がず上品に走っているかぎりは、BEV状態のまま走り切ることはむずかしくない。
電池が底をつくか、ドライブモードを「ダイナミック」(あるいは前記のセーブモード)にすると、いよいよエンジンが主役となる。耳をすませば3気筒の音はするが、音量自体はうまく抑制されている。また、ベルト駆動のアシストモーターに加えて8段ATのトルク容量に余裕があるのか、変速ショックは小さく、パワートレインに安っぽさはない。
見た目の電池残量がゼロになっても実際は2割ほどの電力を維持しているそうで、発進時にはほぼリアモーターによるBEV状態で転がりだすし、走行中もリアモーターを自在に制御しながら、まるでラグを感じさせない電動車ならではの加速レスポンスを披露する。
フルパワーでの絶対的な力感は、額面どおりの300PS級……つまりは最新の2リッターターボ相当といった印象だ。ただ、車重が2tを軽く超えるヘビー級なので、総合的な走りは1.6リッターターボくらいのレベルか。いずれにしても、すこぶる優秀なシャシーと駆動システムもあって、完全なシャシーファスターカーだ。
乗り味だけで選ぶ価値あり
とくに感心するのはダイナミックモードにしたときの走りだ。同モードではリアモーターもフル稼働する常時4WDとなるが、前後輪が完全に独立した制御になるので、どちらかにトルクが偏ることがない。リアモーターによるキック力も相当に強力なのだが、かといって後輪にトルクが偏ってテールをグリグリと張り出すような姿勢になるわけでもない。
いかにアクセルペダルを乱暴にあつかっても、つねに4輪が均等に吸いつくニュートラルなハンドリングは素直に新鮮で、そのハンドリングはまさに洗練の極みというほかない。ロールもほとんど感じさせないのに、必要な瞬間に適切なタイヤにヒタリと荷重が載って、スルリと正確にターンインする。そこからアクセルペダルをグイグイ押し込んでも、アンダーステアにおちいることもなく、リアから押されていく感触はあるがオーバーステアになるわけでもない。見事なものである。
PHEVはあくまで日常走行の大半を外部充電でおぎなってこそCO2排出を抑制できるソリューションであり、ただのハイブリッド車として使うと、このEペースの燃費も場合によっては10km/リッター程度に落ち込んでしまう。日本の急速充電にも対応していないので、ガレージで200V普通充電できる環境にある人でないと選びにくい。
ただ、EペースのPHEVには1台のクルマとして、それを差し引いても食指を動かしたくなる魅力があるのも事実だ。素晴らしい完成度の車体やシャシーと、活発な加速レスポンスを実現するハイブリッド、高度にトルク配分する電動4WDによる走りは、素直に好事家の琴線に触れる。CO2排出うんぬんをひとまず横に置いても、純粋な乗り味において、これは「ベストEペース」の最有力候補とみて間違いない。で、購入するなら、残された時間は冒頭のとおり、けっこう少ないことになっている。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジャガーEペースR-DYNAMIC SE P300e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1900×1650mm
ホイールベース:2680mm
車重:2150kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/2000-4500rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/1万rpm
モーター最大トルク:260N・m(26.5kgf・m)/2500rpm
システム最高出力:309PS(227kW)
システム最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 104Y/(後)235/50R20 104Y(ピレリPゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:14.2km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:55km
充電電力使用時走行距離:55km
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:752万円/テスト車:953万5000円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーファイヤーブルー>(9万円)/クラウドウインザーレザースポーツシート(30万1000円)/プレミアムアップグレードインテリアパック(15万3000円)/Meridianサラウンドサウンドシステム(23万1000円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(8万2000円)/20インチ“スタイル5120”5スプリットスポークホイール<サテンダークグレー×コントラストダイヤモンドターンドフィニッシュ>(8万9000円)/固定式パノラミックルーフ(19万4000円)/プライバシーガラス(6万8000円)/ピクセルLEDヘッドライト<シグネチャーDRL、フロント&リアアニメーションターンランプ付き>(13万2000円)/アクティビティーキー(6万6000円)/パワージェスチャーテールゲート(2万円)/コールドクライメートパック(6万7000円)/テクノロジーパック(35万5000円)/ラゲッジスペースストレージレール<ラゲッジリテンションキット付き>(5万6000円)/16ウェイ電動フロントシート<運転席メモリー機能&2ウェイマニュアル調整ヘッドレスト付き>&40:40:20分割可倒式リアシート<センターアームレスト付き>(4万9000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:4121km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:287.5km
使用燃料:26.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/10.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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