スズキ・カタナ(6MT)
ストリートの相棒 2022.06.18 試乗記 往年の名機のアイコンと、モダンなリッターマシンの走りを併せ持つ「スズキ・カタナ」。ネオクラシックの枠を超えたスズキ独創のロードスポーツは、より高度な電子制御を得てどのように進化したのか? 初夏のワインディングロードで確かめた。よりパワフルに、扱いやすく
現在のスズキ・カタナは1980年代の名車「GSX1100Sカタナ」の名を受け継いではいるが、ノスタルジーを追求するのではなく、最新装備に身を包んだスポーツネイキッドとして誕生したマシンだ。2022年モデルのマイナーチェンジでは、環境規制に対応しながらもさらにマシンの魅力に磨きをかけている。
厳しい排出ガス規制に対応して変更が加えられたエンジンは、若干パワーアップが図られて最高出力の発生回転が高くなっている。マネジメントシステムも進化し、パワーモードの切り替えができるようになった。
スペック上ではわずかな変化でしかないのに、新しいカタナが元気になったような印象を受けるのはマネジメントシステムの影響が大きい。電子制御化されたスロットルは緻密にコントロールされていて、どんな回転数、スロットル開度でも違和感なく反応してくれる。高出力なエンジンでありながら扱いやすく、大パワーを無理なく引き出せるようになっている。
もちろん日本のストリートでリッターバイクのポテンシャルをフルに引き出すことは不可能なのだが、カタナは4気筒らしい荒々しいフィーリングも演出されていて、流して走っているくらいでも高揚感のある加速フィーリングを楽しむことができる。後述するハンドリングにも言えることなのだが、単にパフォーマンスを追求するだけでなく、ストリートでの楽しさも考えられているのだ。
アップダウンの両方に対応するクイックシフターの作動も確実で、ほとんどショックを感じずに変速が可能だ。クロスしたトランスミッションとシフターで味わう、切れ目なくスムーズかつパワフルに加速するカタナのフィーリングは気持ちがいい。また減速時はシフトダウンに気を使わなくていいから、ブレーキングとターンインに専念できる。
これまでのカタナも十分にパワフルだったが、スーパースポーツ並みのマネジメントシステムが与えられたことにより、さまざまなシチュエーションで高いレベルの走りを楽しめるマシンに生まれ変わっているのである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
個性的かつ走りを楽しめるハンドリング
カタナは、ステアリングのヘッドパイプは低い位置にありながら、相対的にハンドル位置は高い。そこから生まれるハンドリングは独特だ。アップハンドルのマシンは、スーパースポーツのようにライダーがフロントに荷重をかけることが難しく、またライダーの自由度が高いがゆえに、うまく体重移動を行えない状態になると、荷重配分が不安定にもなりかねない。しかしカタナの場合は、十分に高いフロント荷重が確保されているから神経質さはない。スポーツネイキッドとしては鷹揚(おうよう)なほうだと言ってもいいだろう。
スーパースポーツに匹敵するレベルの装備がおごられていることに加え、低荷重域を意識したサスセッティングやブレーキの味つけになっているのもうれしいところ。減速時のブレーキのタッチは素晴らしいし、マシンをバンクさせていくときのサスの動きも滑らか。高品位なパーツの動きが感じられて心地よい。こういったセットアップのおかげで、体重移動などせず、マシンに任せてバンクさせるような(スポーツバイクとしては)無精な乗り方をしたとしても、極めて素直にコーナリングしてくれる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
対話できる高性能
それでいて、一度ライダーが積極的にコントロールしてやると、マシンがしっかりと反応するようになる。クイックに動くスーパースポーツとは異なり、手応えが強めのハンドリングなので、運動性を引き出そうとしたら一つひとつの操作を確実にこなす必要はある。体重移動と、幅広いステアリングハンドルを押し引きしたり、グリップエンドを押し下げたりといった入力、ステップへの荷重移動と、いろんな操作を駆使することになるのだが、こうやって対話しながらマシンを操るのがカタナのスポーツライディングだ。
最近のスポーツネイキッドはマネジメントが進化し、ハンドリングに関しても高い安定性を確保するなど、乗りやすくなってきている。しかし、調教されたとしても本質的な性格は変わらないし、実際には途方もないパフォーマンスを秘めている。だからノンビリ走っていると本来の性能を使い切っていないという意識が残ってしまって、ライダーによってはこれがストレスになったりする。日本の道路事情とパフォーマンスを追求したマシンとのジレンマだ。ただ、そんななかでもカタナからは、ストリートにおけるスポーツライディングの楽しさを強く追求している印象を受けるのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2130×820×1100mm
ホイールベース:1460mm
シート高:825mm
重量:215kg
エンジン:998cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:150PS(110kW)/1万1000rpm
最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:16.6km/リッター(WMTCモード)
価格:160万6000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
NEW
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。 -
NEW
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す
2025.12.19エディターから一言2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。 -
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた
2025.12.18デイリーコラムデビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。















































