ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド(FF/4AT+2AT)
一考の余地はある(かな) 2022.06.25 試乗記 どちらかというと先進技術よりも乗り味やドライバビリティーのよさが売りだったルノーが、独自のハイブリッドを搭載した「アルカナ」を送り込んできた。“ハイブリッド大国”のわが国にとって、これは事件だ。果たしてその仕上がりはどんなものか?晴れて先進国市場へ
日本では先日発売されたばかりのアルカナだが、このクルマが初めて世に出たのは、じつは2018年のモスクワモーターショーにまでさかのぼる。そのデビューの場からも想像できるように、アルカナはもともと、ロシアやアジアの新興国市場に照準を合わせた商品だった。“立派なサイズのわりに安い”という点もアルカナの商品企画の大きなポイントであり、たとえば「プジョー3008」や「フォルクスワーゲン・ティグアン」とならぶ堂々たるCセグメントサイズでありながら、基本骨格に旧世代Bセグメント用プラットフォームのロング版「B0」が使われていたのも、そのためだった。
その独特すぎる(?)クーペSUVデザインが世界的に注目されたことに加えて、おりからのSUVブームもあり、ルノーはその後、アルカナを西欧圏をはじめとした先進国市場にも導入することを決意する。ただ、最新鋭の力作ぞろいの市場環境を考えると、そのままでは戦えない……と、ルノーはアルカナのプラットフォームをごっそり最新の「CMF-B」に入れ替えて、パワートレインに新開発ハイブリッドを追加するという荒業に出た。
さらに、その先進国向けアルカナは生産拠点も新たに韓国(もともとはロシア生産)とされて、2021年夏から順次発売となった。ちなみに、欧州にはおなじみの1.3リッターターボ+7段DCT(の12Vのマイルドハイブリッド仕様)もあるが、日本仕様はご承知のとおり、「E-TECHハイブリッド」と呼ばれる1.6リッターハイブリッドのみとなる。
同じCMF-B系列の「ルーテシア」より135mm、「キャプチャー」より80mm長い2720mmというホイールベースはCセグメントSUVのなかでも長い部類に入るが、SUVとしてはかなり低めの全高(1580mm)やリアに向けて明確に下降する独特のルーフラインからも想像できるように、後席は閉所感が強い。室内環境はSUVというより4~5ドアセダンに近い。
「F1由来」をうたう根拠
その心臓部はルノー・ジャポン(日本での輸入元)が「輸入車唯一のフルハイブリッド」をうたうルノー独自の新開発ハイブリッドである。このハイブリッドにかぎれば日産の技術は無関係という。1.6リッター自然吸気エンジンには4段変速機が直結されており、その変速機をはさんでエンジンと向かい合うように最高出力49PS/最大トルク205N・mの2段変速可能な駆動用モーターが組み込まれる。それとは別に20PS/50N・mのスターター兼発電用モーターも備わるので、いわゆる2モーター式ハイブリッドとなる。
一般的なクラッチやシンクロナイザーはもたず、ニュートラルを含めた変速時の断続はレーシングカー(やオートバイ)でおなじみのドグクラッチが担当する。E-TECHの技術が「F1由来」とされる主な理由のひとつがそれで、それゆえに小型軽量でロスの少ないシステムになっているのが売りだ。また、ドグクラッチによる断続は一般乗用車には許容しがたい衝撃がともなうのが通例だが、そこは電動モーターによるアシストでピタリと回転を合わせることで、シームレスな味わいを実現したというわけだ。
EUを中心とした西欧圏といえば、電気自動車までの過渡的なパワーユニットとしてプラグインハイブリッド(PHEV)をとくに手厚く優遇する方針で進んできた。それもあって、欧州メーカーの多くが(いわば日本車的な)フルハイブリッドに興味を示してこなかった。でありながら、ルノーがわざわざこの種のハイブリッドを手がけた背景には、EU以外の新興国でも販売される傘下ブランドのダチアにも搭載することが念頭にあったようだ。
パワーと速さはソコソコ
そんなルノーE-TECHの実際のふるまいは、今でいうとトヨタ式のハイブリッドに近い。エンジン走行、エンジンを停止した電気走行(以下、EV走行)、エンジンをモーターがアシストするパラレルハイブリッド走行、そしてエンジンが発電してモーターで走るシリーズハイブリッド走行……と、考えられるすべての組み合わせを、状況に応じて細かく使い分ける。エンジンと変速機の間に通常のクラッチをもたない構造なので、ゼロ発進での転がりだしはEV走行となる。
フル加速に近い状態では4段変速の様子が比較的明確に伝わってきたり、走行中にエンジンが停止するときに少しショックをともなったりするあたりに、ドグクラッチの存在を感じなくもない。しかし、そうした限定的な瞬間以外でのエンジンとモーターの連携は、素晴らしくシームレスである。
この種のシステムとしては比較的大容量(1.2kWh)の電池を積むこともあってか、EV走行の頻度はけっこう高い。そうした電動感の強いシステムなので、中低速ではけっこう力強いが、いっぽうで高速連続走行では120km/hあたりからアタマ打ち感が出てくる(欧州でのカタログ最高速は172km/h)。パワー源はあくまで1.6リッター自然吸気なので、この車格に対して不足というほどではないものの、余裕しゃくしゃくでもない。
また、ときおり不意にエンジンが一気に吹け上がったり、逆にアクセルはほぼ全開なのにエンジンがまるで反応しないケースがままあるのは気になった。これは瞬間ごとの電池残量のちがいによって起こるもので、アクセルペダルの踏み込み量に対して、計算上で必要なトルクは供出されている。しかし、アクセル操作に対してエンジン回転が無関係(しかも大げさ)に上下するのはやはり人間の生理的に違和感がなくはない。ハイブリッド経験の深い日本車の場合、効率を低めてでもアクセル操作に比例したエンジン制御をするのが定石だが、E-TECHはそのあたりの熟成がこれからということかもしれない。
クルマと一体になれる
動力性能はそこそこレベルのアルカナも、ハンドリングはすこぶる軽快だ。コンパクトカーを想定したCMF-Bプラットフォームのおかげもあってか、アルカナはウェイトも軽い。その車重はハイブリッドでありながら、たとえばプジョー3008のガソリン車と同等で、ディーゼルと比較すると140kgも軽い。
また、前記のようにエンジンの回し方には熟成の余地があるE-TECHだが、パワーデリバリーの調律そのものは文句なしだ。「エコ」に「ノーマル」、「スポーツ」というどのモードでも、アクセルひとつで思いどおりの加速をしてくれるだけでなく、わずかにアクセルを戻したときの減速マナーも以心伝心というべきリニアさなのだ。
そんなこんなで、アルカナの走りは素晴らしく一体感に富むものに仕上がっている。ステアリングも正確で、わずかにアクセルをぬくだけでヒタリと荷重移動して、ねらった走行ラインにピタリと乗る。リアタイヤが粘りすぎない回頭性も、いかにもルノーらしい。まあ、そのぶんリアシートの乗り心地はCセグメントとしては物足りない感もあるが、もともと後席を多用することは想定しないクーペなので、そこは致命的な弱点にはならない(?)。
加えて、先進運転支援システム(ADAS)の充実ぶりとデキのよさも、CMF-B系のルノー各車に共通する美点である。日本の電光表示式の制限速度標識も正確に読み取ってくれるし、アダプティブクルーズコントロール走行で前走車に追いついたときに、設定した車間距離でピタリと合わせる制御もなかなか見事だ。また、半導体不足からかルーテシアでは装備グレード(=テックパック)が受注停止中の「360度カメラ」も、アルカナには標準装備となる。これは韓国で生産されるがゆえのメリットだろうか。
「立派で安い」が魅力なのに……
このように、充実したADASと軽快で一体感のある走りが美点のアルカナだが、いっぽうで、荒れた路面での剛性感や静粛性に、どことなくBセグメント骨格の限界を感じさせてしまうのも否定できない。アルカナの車体サイズはルノーの宿敵プジョーでいう3008とほぼ同等だが、3008はひとクラス上といえる「EMP2」プラットフォームを土台とする。もともと重いので重厚感があるのはもちろん、クルマ全体に通底する剛性感や静粛性でも、明らかに3008に軍配が上がる。
また、インテリア調度の質感や装備レベルについても、アルカナのそれはよくも悪くもルーテシアやキャプチャーの域から大きく出ていない。前席はフル電動調整シートが標準だが、座面高調整はフロントを支点にヒップポイントだけが上下するシンプルなタイプである。また、この価格帯のSUVとしてはパワーテールゲートの用意がないのもさみしい。
そんなアルカナにルノー・ジャポンが与えた値札は429万円。それが3008やティグアンといったCセグメントSUVを意識した設定なのは明らかだ。まあ、アルカナはハイブリッドであることを考慮するにしても、絶対的な動力性能で抜きんでているわけでもなく、各部の質感を考えると「もう少し安ければ……」と思ってしまう。アルカナはやはり「立派なのに意外と安い」であればこそ、存在価値が光るというものだ。
ただ、燃費はさすがフルハイブリッドの面目躍如だ。このサイズのSUVで22.8km/リッター(WLTCモード)というカタログ値もハイレベルだが、高速から山岳路まで遠慮もなくアクセルを踏みつけて17km/リッターにせまる実燃費は素直に優秀である。
冷静にいえば価格設定に一考の余地はあるものの、見るたびに胸さわぎを禁じえない個性的なデザインとメカオタクの好奇心をくすぐるハイブリッドに、この燃費である。これならちょっとお高い価格も許せるか……と、先ほどの舌の根も乾かぬうちに、コロッと転がされてしまうのは、筆者を含むルノーファンの悪いクセである。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ルノー・アルカナR.S.ラインE-TECHハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1820×1580mm
ホイールベース:2720mm
車重:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:4段AT(エンジン用)+2段AT(モーター用)
エンジン最高出力:94PS(69kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:148N・m(15.1kgf・m)/3600rpm
メインモーター最高出力:49PS(36kW)/1677-6000rpm
メインモーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/200-1677rpm
サブモーター最高出力:20PS(15kW)/2865-1万rpm
サブモーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/200-2865rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(クムホ・エクスタHS51)
燃費:22.8km/リッター(WLTCモード)
価格:429万円/テスト車=435万0500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETCユニット(2万8600円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2279km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:359.1km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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