第712回:MINIの今後はどうなっていく? 「MINIコンセプト エースマン」を現地で見た
2022.08.03 エディターから一言BEVブランド化へのカウントダウン
BMWグループのプレミアムコンパクトブランドであるMINIは、2030年に新車販売を100%電気自動車(BEV)にする計画である。また2025年以降に登場するニューモデルは、すべてBEVになるとアナウンス済みだ。
今年は2022年。最近は、コンピューター上で多くの作業を行うことで、部品の試作やテストにかかる時間やコストを減らすことができる「モデルベース開発(MBD)」が一般的になったとはいえ、ニューモデルの開発には少なくとも数年のタームを要する。つまりMINIは、そろそろBEVのみとなる次世代ポートフォリオの開発に着手していると考えられる。
今回ドイツ・デュッセルドルフでメディア向けにお披露目された「MINIコンセプト エースマン」は、まさにそれ。次世代MINIに採用される新しいデザインをまとった、最初のコンセプトカーである。
「日本人が多く住む街(近年は中国人や韓国人もかなり増えた)」として知られるデュッセルドルフは、ドイツの都市としては文化的に多様性に富んでいて、アートやファッションの街としても知られている。また電子音楽の大家であるクラフトワークの中心メンバー、故フローリアン・シュナイダーが輩出するなど、ドイツのポップカルチャーの発信地としても知られ、欧州における日本のアニメ・マンガ文化の聖地でもある。ダイバーシティー(多様性)とアクティブなイメージを重視するMINIの、未来の姿を公開するにはピッタリのロケーションだ。
きちんとMINIに見える絶妙なデザイン
住宅街の一角にあるスタジオで行われたお披露目イベントには、BMWグループのデザイントップであるエイドリアン・ファン・ホーイドンク氏と、MINIブランドの責任者であるシュテファニー・ヴルスト氏、そしてMINIブランドのデザイン責任者であるオリバー・ハイルマー氏が登壇。まずはヴルスト氏が冒頭のスピーチで次のように語った。
「今日はとてもエキサイティングな日です。MINIは常に本物であり続け、個性を備えたブランドです。それらは私たちのファンや顧客の特徴であり、プロダクトに反映されます。新しいMINIコンセプト エースマンで、“カリズマティックシンプリシティー”と呼ばれる、アイコニックなMINIデザインの新たな表現をアンベールします」
すると何枚もの扉が開き、MINIコンセプト エースマンが登場。ドライバーズシートにスタンバイしていたハイルマー氏は、拍手が鳴りやむのを待って降りてくると、そのデザインについて説明を始めた。
「これがMINIコンセプト エースマンです。MINIファミリーの新しい個性です。MINIデザインの新しい時代がやってきます。MINIコンセプト エースマンは、次世代MINIのエクステリアとインテリア、カラートリム、そしてユーザーインターフェイスデザインを示唆しています」
要素を極限まで絞り込み、可能なかぎりシンプルなデザインとしたというMINIコンセプト エースマンは、もはやヘッドライトは円形ではなく、フロントグリルも八角形で、クロームのモールもない。だが斬新で近未来的な印象でありながら、ちゃんと“MINI”に見える絶妙なデザインにまとめ上げられているのは、ハイルマー氏が率いるMINIデザインチームの能力の高さがあってこそである。
全長4.05m、全幅1.99m、全高1.59mで、全幅を除いて「MINIカントリーマン(日本名:MINIクロスオーバー)」よりひと回り小さい電動クロスオーバービークルのコンセプトは、現行の「ハッチバック」や「コンバーチブル」などが属する「プレミアムスモールコンパクトセグメント」で最大のモデルに位置づけられる。
「没入型」のユーザーエクスペリエンス
インテリアもとても個性的だ。「MINIマリズム」というMINIのデザインコンセプトを追求した室内は、小さなステアリングホイールや円形の有機ELディスプレイ、トグルスイッチなどがMINIらしさを演出している。一方で、エクステリアと同様に、クロームやレザーを使用せず、リサイクルポリエステルによる革新的なニットによるサーフェスを用いている点が新しい。
またハイルマー氏が「没入型」と説明するユーザーエクスペリエンスも重要なポイント。MINIコンセプト エースマンのデジタルインテリアは、円形ディスプレイやダッシュボードに投影する画像を自由にカスタマイズできる「パーソナルモード」や、気分に合わせて車両が行き先を提案してくれるほか、行き先カテゴリーに応じてサウンドも変化する「ポップアップモード」、そして赤信号での停止時や充電中にムービーやサウンドを奏でる「ビビッドモード」という、3つのエクスペリエンスモードが用意されている。
果たしてこれらのアイデアが、どこまで市販モデルに盛り込まれるのかは不明だが、今回のMINIコンセプト エースマンからは、MINIブランドが次の時代に向かって大きく変化しようとしていることが明確に伝わってきた。というのが率直な感想だ。ラインナップが100%BEVになっても、MINIはファンと顧客にとってアトラクティブなブランドであり続けるという強力なメッセージである。
なお、市販バージョンの「MINIエースマン」は、2024年に登場する予定だ。デザインの約8割はコンセプトカーから継承されるというから、非常に楽しみである。
(文と写真=竹花寿実/編集=藤沢 勝)

竹花 寿実
-
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー 2025.9.5 かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。
-
第842回:スバルのドライブアプリ「SUBAROAD」で赤城のニュルブルクリンクを体感する 2025.8.5 ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」をご存じだろうか。そのネーミングからも想像できるように、スバルがスバル車オーナー向けにリリースするスマホアプリである。実際に同アプリを使用したドライブの印象をリポートする。
-
第841回:大切なのは喜びと楽しさの追求 マセラティが考えるイタリアンラグジュアリーの本質 2025.7.29 イタリアを代表するラグジュアリーカーのマセラティ……というのはよく聞く文句だが、彼らが体現する「イタリアンラグジュアリー」とは、どういうものなのか? マセラティ ジャパンのラウンドテーブルに参加し、彼らが提供する価値について考えた。
-
第840回:北の大地を「レヴォーグ レイバック」で疾駆! 霧多布岬でスバルの未来を思う 2025.7.23 スバルのクロスオーバーSUV「レヴォーグ レイバック」で、目指すは霧多布岬! 爽快な北海道ドライブを通してリポーターが感じた、スバルの魅力と課題とは? チキンを頬張り、ラッコを探し、六連星のブランド改革に思いをはせる。
-
第839回:「最後まで続く性能」は本当か? ミシュランの最新コンフォートタイヤ「プライマシー5」を試す 2025.7.18 2025年3月に販売が始まったミシュランの「プライマシー5」。「静粛性に優れ、上質で快適な乗り心地と長く続く安心感を提供する」と紹介される最新プレミアムコンフォートタイヤの実力を、さまざまなシチュエーションが設定されたテストコースで試した。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.8試乗記「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。 -
NEW
第318回:種の多様性
2025.9.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。 -
NEW
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?
2025.9.8デイリーコラムメジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。