スズキ・ジムニーシエラJC(4WD/5MT)
知る人ぞ知るベストバイ 2022.08.24 試乗記 先代よりぐっと存在感が増し、街でも頻繁に見かけるようになった現行型「スズキ・ジムニーシエラ」。デビューから4年を経ても高い人気を誇る理由はどこにあるのか? ツウ好みな5段MT仕様に試乗し、他のモデルでは代えがたいその魅力を確かめた。人気はいまだ冷めやらぬ
今日び「ジムニー」といえば、なにはさておき話題に上るのは納期だ。やれ1年だ1年半だと、発売5年目を迎えてなお待ちの長さが衰えないことを煽(あお)るネット記事が目につく。いや、お前もじゃんと言われればそれまでなんですけどね……。
今、コロナ禍やら半導体不足やらウクライナ侵攻やらで、国の内外を問わずクルマの生産や流通は相当ままならないことになっていて、それが供給にも大きな影響を及ぼしている。一部の車種は納期が数年のような事態になり、なんとあらば自社サイトで紹介する該当モデルに「買えない場合もあります」とお断りを入れているメーカーもあるくらいだ。売れもしない商品を案内しているのはけしからんと、某くるくる寿司のようにお上から指導が入りかねない。そういう配慮をしなければならないほど厄介な事態になっている。
そんななかでの1年待ちなんてかわいいもんだといえばそうかもしれないが、車検時の代替などを考えているユーザーにとっては契約のタイミングの見極めも難しく、さぞ悩ましいことだろうとお察しする。
しかし、なんでジムニーの納期は縮まらないのよ? と問われれば、答えは至極簡単。きっちり売れてるからなのだ。2022年上半期の国内販売台数は、軽のジムニーが2万1880台、登録車のジムニーシエラが8661台。ざっくりならせばジムニーが月3500台余、シエラが月1500台弱という計算になる。
ちなみにこの数字、ともに前年累計比でほとんど変わっていない。ということは、常に需要は供給を上回り、いっぱいいっぱいでつくっているから販売台数にブレが出ないという裏読みも成立する。湖西工場でのジムニーシリーズの生産能力は2019年に月あたり7000台に引き上げられているが、その7割以上を日本仕様に割いている計算だ。2021年からはインドでも生産が始まっているとはいえ(参照)、世界の仕向け地に輸出する分を勘案すれば、これ以上の増産は勘弁してくださいというのがスズキの本音だろう。
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機能追求の果てに行きついたカタチ
それにしても、だ。驚かされるのはシエラの販売台数である。先代までは国内市場でほとんど存在感がなかったというのに、前項の数字から計算すれば、ざっくり日本にいる現行型の3~4台に1台はシエラということになる。道端でその姿を見かけるたび、おっ富裕層だ! と羨望(せんぼう)のまなざしを向けていたが、よもや日本にこれほど勝ち組が潜んでいたとは思いもよらなかった。
久々にシエラを試乗する機会が巡ってきたのはそんな折である。編集のHくんが鼻の穴を膨らませて借り出してきたのは、この6月に一部改良が施されたモデル(参照)だ。といっても、プレスリリースに見る変更点は、MT車にアイドリングストップが追加されただけ。しかし、これに乗じて今までATの用意しかなかったシエラの広報車両にMTが配備され、それを嗅ぎ取って拝借してきたというわけだ。借受時の走行距離は96km。替え玉でいえば“粉落とし”のようなパリパリの個体である。
現行型の発売から4年がたつ今、その形状をみても新しさも古さも感じない。悲観的ではなくいい意味で、もはやコモディティーの領域に達しつつある。四駆的なものとして絵文字化されそうなカタチというのだろうか。アングルの確保や見切りのよさなどの機能を突き詰めたがゆえの造作で、当然といえば当然だろう。ジムニーより全幅は170mm広く、そのすべてはフェンダーの拡幅分ということになるが、運転しているぶんには、あきれるほど見切りのいいボンネット端をアテにしていれば、草むらの中でもフェンダーを擦るようなことにはならなかった。
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より豊かにエンジンの恩恵を味わえる
5段MTは先代のシエラから引き継いでおり、ギア比も同じ。ファイナルは先代比でローギアード化されているが、副変速機はハイ/ローともにハイギアード化されていて、結果的にはハイギアとなっている。シフトフィールはまだ慣れていなかったこともあってか若干の渋みを感じるものの、縦横方向ともに節度がしっかりしていてカチカチと確実なリンケージ感があるところはジムニーと同じだ。歯車をはめ込んでいる実感が手のひらに伝わる、このタッチはちょっと官能的でもある。
1.5リッター自然吸気の4気筒エンジンもまた、距離を刻んでいないこともあって回転フィーリングに起き抜けのネムさは感じたものの、そこを差し引かずとも、レスポンスに過敏さもなく扱いやすい特性に仕上がっていた。ATとの組み合わせではトルコンを介しながらも特に低速域で線の細さを感じたものの(参照)、むしろMTでは持てるトルクをアクセルペダルできめ細かく使い分けることができる。
ちなみに先代よりはハイギアード化されているとはいえ、MTの現行シエラは1速であれば平地で5km/h程度、2速であれば15km/h程度の速度で、クラッチをつなぎっぱなしにしてアクセルペダルを触ることなくアイドリング走行が可能だ。このポート噴射ユニットならではの粘り気をもって、悪路でグリップを探りながらじわじわとトラクションをかけていくような操作も楽に行える。
そして5速100km/h時の回転数はおおむね3000rpmと、先代に対して500rpmほど低くなっていた(ちなみに現行ジムニーは3800rpm程度)。130cc大きく、しかもロングストローク化された新しいエンジンの効果は、ATよりMTの側でより豊かに享受できるというのが正直な印象だ。
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これほど魅力的なクルマだったとは!
しかし、最新のシエラでなにより驚いたのは、乗り心地の素晴らしさだった。もちろんそれはジムニー比という注釈つきだが、低速域から曖昧な動きがしっかり封じ込められていながら、目地段差や凹凸などを超えた際のリジッドアクスル的な突き上げもしっかり抑えられている。さらに中高速域でも不安な横揺れは小さく、連続したうねりなどでも上屋の動きは落ち着いていた。ダンパーなりマウントものなりが変わったのかと思うほどの乗り心地の変貌の裏には、今回の一部改良でタイヤの銘柄が変わったことに一因がありそうだ。
そもそもワイドトレッド&ワイドタイヤでジャダー系の揺すりには強い設定ではあるが、前述のエンジン回転数の低さもあって、高速では100km/h巡航はもとより、120km/h巡航もさほど苦にならない。ジムニーに比べると快適に移動できる速度レンジが20km/hほど高い印象だ。それすなわち、欧州の速度レンジにきっちり合わせ込まれているということでもある。
正直、現行シエラがこれほど魅力的なクルマに化けていようとは思いもよらなかった。時折見かける富裕層と思っていたオーナーたちは、金にあかしてシエラを買っていたのではない。こっちでしか味わえない蜜の味を知っていたのだろう。
というわけで、自分的には迷わずジムニーの側だった選択肢に今、大きな揺らぎが生じている。本体価格差は想像以上に小さいものの、自動車税やら任意保険やら高速料金やらと、お決まりの比較材料を出すならばジムニーの優位は約束されている。燃費は恐らくどっこいどっこいか、高速を多用する人にとってはシエラのほうが伸びが期待できるかもしれない。そっちとこっちを相殺して……と、ソロバンをはじいてはため息をつくのもセコい話だが、そのくらいジムニーとジムニーシエラとの魅力は甲乙つけがたい。「マツダ・ロードスター990S」もそうだったが、どうも今年は知らぬが仏のお花畑に足を踏み入れてしまいがちである。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スズキ・ジムニーシエラJC
サイズ:全長×全幅×全高=3550×1645×1730mm
ホイールベース:2250mm
車重:1080kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:102PS(75kW)/6000rpm
最大トルク:130N・m(13.3kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)195/80R15 96S/(後)195/80R15 96S(ダンロップ・グラントレックAT20)
燃費:15.4km/リッター(WLTCモード)
価格:198万5500円/テスト車=225万8630円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0515円)/パナソニック スタンダードプラス8インチナビ(17万1105円)/オーディオ交換ガーニッシュ(5830円)/アンテナセット+アンテナ変換ケーブル(1万6830円)/ドライブレコーダー(3万7730円)/ETC車載器(2万1120円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:96km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:353.9km
使用燃料:26.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.2km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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