スズキ・ジムニーXC(4WD/5MT)/ジムニーシエラJC(4WD/4AT)
褒章に値する 2018.08.03 試乗記 誕生から48年を迎えた小さなクロカンモデル「スズキ・ジムニー/ジムニーシエラ」。20年ぶりのモデルチェンジで登場した4代目では、何が変わり、何が受け継がれたのか。ジムニーの“ホーム”であるオフロードと、オンロードの両方で試乗し、その実力を確かめた。みんな勘違いしてない?
スズキ自身により新型登場確定が通知されたのが去る6月18日。それから1カ月半の間、自動車メディアはさながらジムニー祭りの様相を呈してきた。いや、専門筋だけではない。経済系や生活情報系のメディアまでもがジムニーをホイホイ採り上げる。
「今はもうジムニーに乗っかっとかないと負けなんすよ。バズり方半端ないし。ケケケ」
自ら書いたジムニーの記事が閲覧数トップを記録した編集部のHくんは、すっかり味をしめていた。ついこないだまで半端ないといえば大迫だったのに今はジムニーか。と、そんなちまたの移り気に毒を浴びせるチコちゃんのような気概は僕にはない。
でも、老婆心ながらの心配はある。
果たして、ジムニーの何たるかも知らないお客さんが“かわいい”的なひと目ぼれでお買いになられ納車され、乗った瞬間ドン引くんじゃなかろうかと。確かにモノは劇的に進化したであろうが、前後リジッドの癖は抹消できるものではない。縦横無尽な揺れの数々と操舵応答の遅れ感、そして舵自身のシェイク等に果たして皆々が付き合えるのか。そしてポッキリカツカツの動力性能の割に軽離れした燃費をのみ込めるのか。
これらがもとでジムニー不信になられても困りますよ、と思う一方で、超売り手市場の中で慌てて注文を入れるなら、そういう一見さんが手放したピカピカ盛り盛りの中古車をありがたく頂戴する方が得策だろうと思うあざとい自分もいる。祭りでは得てしてこういうさまざまな思惑が入れ乱れるわけで、この状況は朴訥(ぼくとつ)キャラのスズキにとってもろ刃の剣になってしまわないだろうか。
と、ちょっと不安げな心持ちで迎えた試乗会当日。まずは軽自動車=ジムニーの5段MTモデルに乗って、オフロードコースを走ることになった。
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ESPの標準装備化がもたらした副産物
ドラポジを作っていく上で何より感動するのは、やはり外形を見ただけでも察せられる視界の良さだ。前方両隅はパキパキに見切れるし、ミラー付近を一段下げたサイドウィンドウのグラフィックは、“足元”の路面や地形の確認しやすさに、はっきりと効いている。ウィンドウの上下幅が狭まったぶん真後ろの視界はややそがれるが、後側方の視界や車両感覚の把握のしやすさは、昨今のクルマとしては群を抜く。この点、登録車=シエラの側はオーバーフェンダーやバンパーの出っ張りを勘案しておかねばならないが、ジムニーはほぼ見たまんま、感じたまんまと思って差し支えない。この皮膚感覚というか裸気分というかが、ことオフロードでは静かに、でも劇的に作用する。
ジムニー&シエラには、今回のフルモデルチェンジの主目的でもあるESPの完全標準化に伴い、これを活用することで悪路適性を高めるデバイスが幾つか用意された。このうち、走破性能を高めるのが空転輪のみにブレーキを掛けることで接地輪に駆動力を集めて脱出能力を高めるブレーキLSDだ。
今回用意された悪路はこの効果を試すことが主目的で、ジムニーの本領を発揮するほどのハードなコースにはなっていなかったが、それでも片輪がフリーになるモーグルセクションでは十分その効果を実感できた。本当にハードなセクションを走る前提ならメカニカルLSDの物理的効果は無視できない(ちなみに新型ジムニーのオプションパーツにもリアメカニカルLSDが用意されている)が、もはや大半のユーザーにとってはその出番はないかもしれない。ちなみにこのブレーキLSDは、トランスファーが4Lの時のみ作動、一方でESPや衝突被害軽減ブレーキなど、悪路走行で誤作動を招く可能性のあるものは、4Lではすべてカットされる。
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四輪と路面の状況が正確に感じ取れる
4Lモードを要する悪路走行においては、大半の状況でも2速が程よい粘りをみせてくれるため、運転そのものは非常に楽だ。アクセルペダルの踏力がやや軽く、凹凸の乗り越えではパーシャルを保ちにくい場面もあったが、ブレーキのタッチは微妙に速度を調整するにも扱いやすい。そして踏襲されたリサーキュレーティングボール式の構造に加え、新たに採用された制振ダンパーもあってか、ステアリングのキックバックはかなり軽微に抑えられていた。
そのしっとりしたフィーリングも印象に影響しているのかもしれないが、新型ジムニーは前型比での車重差以上にクルマがドシッと据わりよく感じられる。それでも、他のクロカン系モデルの半身くらいという物理的な軽さの優位はあるわけだが、かつてのジムニーを知る身におかれては、はじけるように登り転がるように降りるアトラクションのような痛快さは希薄だと思ったほうがいい。
そのぶん、各輪の接地状態や路面状況というのは生々しく伝わってくる。“ねじり”で5割向上したフレーム剛性のおかげもあって、そこに取り付けられる足まわりの作動がより正確になり、そのおかげでフィードバック情報が精細化しているのだろうというのがエンジニアの見解だった。
言われてみればこの道理は、オンロードでの走りでも生きているように思う。ロック・トゥ・ロックで約3.8回転、定常的なギア比のステアリングをぐるぐる回す、例えば車庫入れや狭い街中でのクランク走行といった場面では、感覚的に舵の切れ具合や戻し加減が伝わりやすい。舵が中立に戻ろうとするセルフアライニングトルクもつかみやすいため、切れ過ぎや戻し遅れといった、この手のシャシー構造のクルマにありがちな癖もごくわずかに残る程度だ。
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長足の進化を遂げた快適性
ジムニーとジムニーシエラに共通する最大の進化はNVH(Noise, Vibration, Harshness)、特にN=ノイズレベルの大幅な低減にあるだろう。市街での常速域である60~70km/hをみても、ロードノイズや上下まわりからの侵入音はもとより、パワー&ドライブトレインのメカノイズが著しく減っていることに驚かされる。走り疲れの要素として“音”はバカにならないが、これなら100km/h巡航くらいでの、パッセンジャーと会話を楽しみながらの長距離移動も快適にこなせるだろう。今回は高速での試乗がかなわなかったのであくまで個人的印象だが、そのように感じられたのは確かだ。
100km/h巡航といえば先代ジムニーは、その領域になるとホップ&バウンドが激しくなり、操舵や制動の感触も頼りなくなり……と、高速道路ではちょっと左の端っこに寄っておこうという心持ちにさせられたものだ。が、新型ジムニーは間違いなく法定速度上限領域での動的性能も確保されている。転がりのフラット感や横揺れの少なさ、転舵での安定性や上屋の収束性など、常速域での振る舞いは確実に前型を上回る。意地悪な凹凸を選んで踏んでいっても、リジッドサスの癖ともいえる操舵系のシミーは現れる気配もなく、ステアリングダンパーの効果を思い知らされた。スズキのお膝元を走る新東名には一部110km/hの速度区間もあるが、そこで真ん中車線を安定巡航するくらいのパフォーマンスは持たされているだろう。ただしこのデザインゆえ、風切り音が盛大に増えていくことは想定しておくべきだ。
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愛されて(もう少しで)50年
今回は、ジムニーの5段MTを中心にシエラの4段ATもちょっぴり、という試乗内容であったため、シエラの存在意義が完全に理解できたわけではない。そのちょい乗りでは、「1.5リッターという排気量の割に40km/h前後からの中間的加速での力感に乏しいかな」という印象は抱いたが、これについては、シエラは海外、特に欧州市場が主戦場となるため基本的にハイギアード、そしてかの地のRDE(Real Driving. Emissions=公道路上排ガス試験)にマネジメントを合わせこんでいる部分もあって、ちょっとかったるさを感じる場面があるかもしれない……と、担当エンジニアから明快な説明を受けた。作り手が「ここから先は誰任せ」というわけではなく、徹底的に面倒をみてきたという印象は、ジムニーの楽しさや頼もしさを一層引き立ててくれる。
JA型に乗っていた身にしてみれば、それは「スターレット」が「セルシオ」になっちゃった級の進化である。でもそれは、ジムニー的な定規においての話だ。大半の人が期待する“悪路的レジャー”の用途なら、間違いなく「ハスラー」の方が上手にお安く賄ってくれる。重ね重ねだが、いくら新型とて、さすがに万人にあまねくオススメできるものではない。むしろ狭いだの遅いだの跳ねるだのと、いちいちつきまとう至らなさを補うことに喜びを感じる、そういうドライバーに野原に連れ出してもらえることをジムニーは待っている。それはいつの時代も変わらない。
ちなみに東京五輪が開催される2020年、ジムニーは誕生から50周年を迎えるという。局所的な仕事や生活を支え、気軽なレジャーのお供となることで半世紀を曲がることなく進んできた。人ならその功績は褒賞ものだろう。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スズキ・ジムニーXC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1725mm
ホイールベース:2250mm
車重:1030kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:96Nm(9.8kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)175/80R16 91S/(後)175/80R16 91S(ブリヂストン・デューラーH/T II 684)
燃費:16.2km/リッター(WLTCモード)
価格:174万4200円/テスト車=204万0444円
オプション装備:ボディーカラー<キネティックイエロー、ブラック2トーンルーフ>(4万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<トレー>(1万4742円)/パナソニック スタンダードプラスワイドナビセット(15万7518円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット+USB接続ケーブル(7398円)/ドライブレコーダー(3万7260円)/マッドフラップセット(1万4310円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:442km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スズキ・ジムニーXC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1725mm
ホイールベース:2250mm
車重:1030kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:96Nm(9.8kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)175/80R16 91S/(後)175/80R16 91S(ブリヂストン・デューラーH/T II 684)
燃費:16.2km/リッター(WLTCモード)
価格:174万4200円/テスト車=203万1534円
オプション装備:ボディーカラー<ブリスクブルーメタリック、ブラック2トーンルーフ>(4万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0142円)/パナソニック スタンダードプラスワイドナビセット(15万7518円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット+USB接続ケーブル(7398円)/ドライブレコーダー(3万7260円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:904km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(10)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スズキ・ジムニーシエラJC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3550×1645×1730mm
ホイールベース:2250mm
車重:1090kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:4AT
最高出力:102ps(75kW)/6000rpm
最大トルク:130Nm(13.3kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)195/80R15 96S/(後)195/80R15 96S(ブリヂストン・デューラーH/T II 684)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:201万9600円/テスト車=224万9694円
オプション装備:※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0142円)/パナソニック スタンダードワイドナビセット(14万3478円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット+USB接続ケーブル(7398円)/ドライブレコーダー(3万7260円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:714km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(10)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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