フォルクスワーゲンID.Buzz(RWD)
ムーブメントは起きるか!? 2022.09.07 試乗記 長年にわたって親しまれた“ワーゲンバス”が「ID.Buzz」として復活! その中身はフォルクスワーゲン(VW)グループが総力を挙げて開発した最新のプラットフォームを使う電気自動車(EV)だ。デンマーク・コペンハーゲンで乗った第一報をお届けする。一充電走行距離は423km
日本導入が決定しているモデルの国際試乗会が開かれ、日本導入に合わせて試乗記事が出回るというのが輸入車ローンチの基本パターンだが、今回試乗したID.Buzzは、正式に日本導入が決定したわけではない。ならば日本人ジャーナリストをわざわざデンマーク・コペンハーゲンで開催された試乗会に呼んだ目的は何か? 日本市場にこのクルマの記事を出回らせ、市場の反応を確かめることだ。反応がよければ導入が決まるだろう。そうでもなければ……。今回、お読みいただいたあなたの反応はいつも以上に重要なのだ。
そして試乗した私はこう叫びたい。ID.Buzzに日本の路上を走り回ってほしい。ユーザーになったらアイデア次第で有意義に活用できる気がしたし、ユーザーでなくともこういうアイコニックでファニーなルックスのEVを、例えば花屋の店先で見かけるだけできっと楽しいと思う。ID.BuzzはEV時代の「ルノー・カングー」になれるはずだ。
ID.Buzzは、世界三大自動車メーカー(グループ)のひとつであるVWが、電化に大きく舵を切るべく威信をかけて開発した「MEB」というEV専用プラットフォームを用いてつくられる。欧州ではすでにこのプラットフォームを用いた「ID.3」(ハッチバック)と「ID.4」(SUV)、「ID.5」(4ドアクーペ)を販売中。このうち国際戦略車であるID.4は日本にも導入されるはずだ。ワンボックスのID.Buzzは、IDシリーズの変化球であるとともに、「ID.Buzz Cargo」という商用車のベースとしても用いられる。こっちが主眼で乗用車が派生かもしれない。
ボディーサイズは全長4712mm、全幅1985mm、全高1938mmで、ホイールベースは2989mm。フロアに容量77kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、永久磁石同期モーターが後輪を駆動する。欧州の走行モードであるWLTPでの一充電走行距離は最大423km。仮に日本導入を果たすとしてもバッテリーが77kWhのままかどうかは分からないという。MEBのほかのモデルには4WDが選べるタイプも存在するが、このクルマには現時点では設定されない。
先進的かつ伝統的なグリルレスデザイン
全長は「トヨタ・ノア/ヴォクシー」と「ホンダ・ステップワゴン」の中間くらいなのだが、全幅と全高は「アルファード」を超えて「グランエース」くらいある。このずんぐりとしたフォルムとツートンカラーの塗り分け方を見れば一目瞭然、ID.Buzzは「VWタイプ2(T1ブリー)」をEVとして現代によみがえらせた存在といえる。タイプ2のリバイバルはコンセプトカーとして何度か登場したが、市販にまでこぎ着けたのは初めてだ。
ヘッドランプは真ん丸ではなく、「ゴルフ」をはじめとする現行VWラインアップに準じた切れ長だが、グリルレスはタイプ2と同じ。タイプ2はざっくり言えば「タイプ1(ビートル)」の派生なので駆動方式はRR。だからフロントグリルがなかった。ID.Buzzはマスク下部にいくつもの穴が開いていて必要なパーツを冷却しているものの、EVらしくこれ見よがしのグリルは存在しない。フロントマスク中央のブランドロゴはタイプ2ほどではないものの、片手を広げても覆いきれないほど大きい。
一段登るようにして運転席にたどり着き、シートに腰を落ち着けると、目線の高さもあって遠くまで見渡せる。フロントガラスが遠くにある日本のミニバンと同じような風景が広がる。水平基調のダッシュボードの中央に10インチのタッチスクリーンがあり、多くをタッチ操作で行う。なので物理的なスイッチは少ない。ステアリングホイール奥には5.3インチの小さなディスプレイが配置され、スピードをはじめ走行に必要な情報を表示する。ステアリングコラムの右側からシフトレバーが生え、奥や手前にひねるようにして「R」「N」「D」を操作、先端のスイッチを押して「P」という具合だ。左側にはウインカーレバー。ヘッドランプ類のスイッチはゴルフと同様、ダッシュボードの窓側に配置される。
VWのインテリアというとブラック中心のシックな色づかいというイメージがあるが、ID.Buzzのインテリアはそれを覆し、非常に明るい。ダッシュボードの木目調パネルからして明るい。ベースカラーはホワイトで、差し色としてボディーカラーと同じイエローが使われる。ステアリングホイールだけが黒いままで、ゴルフからもってきたみたいだ。
3列目シートも置けるはずだが……
ミニバンに見えるが、ID.Buzzは2列シートの5人乗り仕様のみの設定だ。リアに40:60の分割可倒式の一体型3人掛けシートが備わる。左右それぞれ前後に150mmのスライドが可能。電動スライドドアが両サイドに備わる。スライドドアに備わるドリンクホルダーや小物入れに物を置いたままドアを開けると取り出せなくなるのはご愛嬌(あいきょう)。財布などを置いたなら先に取り出してからドアを開けよう。スライドドアのウィンドウを開閉できないのは残念だ。
5人乗りのみと書いたが、ラゲッジスペースの両サイドには3列目シートを装着したらぴったり真横にくる位置にドリンクホルダーなどが存在したため、後から3列シート仕様も追加されるかもしれないと想像した。「車中泊などの際に使うためのもの」と説明されたが、どうも額面どおりには受け取れない感じがした。ラゲッジ容量は5人乗った状態で1121リッター(後席背もたれの上端まで積載した場合)、後席を倒せば2205リッターに拡大する。
ID.Buzzのリアに配置されるモーターの最高出力は150kW(204PS)、最大トルクは310N・m。車両重量は2471kg。最高速は145km/hでリミッター作動。0-100km/h加速10.2秒というデータから分かるとおり、EVとしてはおとなしい部類に入る。しかしモーター駆動の特性は健在。つまり発進は力強い。後輪駆動なのでトラクション能力も高く、ラフにアクセルを踏み込んだ場合、簡単にホイールスピンしたりトラコンが作動したりすることはなく、鋭いダッシュを見せる。
5人乗りの貨客両用車としては十分に実用的な動力性能が備わっている。静粛性の高さや、加減速がスムーズであることは言わずもがな。回生ブレーキの強さはシフトレバーでDもしくはBを選ぶことで、強弱2段階から選べる。ステアリングパドルは備わらない。
自分のセンスでカスタマイズできる
1.9mを超える全高のクルマだが、EVならではの低重心ぶりを発揮し、目線の高さのわりに背高グルマを運転しているという感覚はない。後輪駆動ならではの癖のない素直なハンドリングにも好感がもてた。絶対的な車重が重いのに加え、ルックスのために20インチの大径タイヤを装着するので、不整路面を低速で通過するとバタつく。高速での直進安定性は素晴らしく、見た目がチャラチャラしていてもこれはドイツ車、VW車だと思い出させてくれる。
充電器側にその能力がある場合、普通充電では最大11kW、急速充電では最大170kWの出力でチャージできる。その場合、前者は7時間30分で0%から100%に、後者は30分で5%から80%にそれぞれ充電できるが、日本では、普通充電は最大で6kW、現行世代のCHAdeMOだと50kW前後が多いので、そのぶん充電時間は延びることになるだろう。
至れり尽くせりのジャパニーズミニバンに慣れた身には、ID.Buzzのドンガラ感はいささかそっけなく思えるが、お仕着せの装備がないぶん、用途に応じ、またはセンスを発揮して、好みの仕様にカスタマイズしがいがあるともいえる。ID.BuzzはEVだが、過去の名車を復刻させた分かりやすい見た目と、多様な用途を受け入れる広いスペースが備わる限り、これがエンジン車だろうとプラグインハイブリッド車だろうと魅力的なクルマに仕上がっただろう。ま、エンジン車をエンジン車で復刻させる意味はあまりなく、EVで復刻させたからこそ前向きなリバイバル商品になり得たのだろうが。
ぶっちゃけ日本導入の可能性は高いのだろうが、確実にするのは興味を抱いた読者の皆さんの反応だ。さあ拡散スタート!
(文=塩見 智/写真=フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンID.Buzz
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4712×1985×1938mm
ホイールベース:2989mm
車重:2471kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 104T XL/(後)265/45R20 104T XL(コンチネンタル・エココンタクト6)
交流電力量消費率:206Wh/km(WLTPモード)
一充電走行距離:423km(WLTPモード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

塩見 智
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