第46回:クルマを買い替えようとして、結局やめた話
2022.10.03 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
アメリカの暴れん坊「ダッジ・バイパー」に振り回されてはや6年。webCGほったの心に、ついに魔が差す? 読者諸兄姉の皆さまは、どんなタイミングでクルマの買い替えを考えますか。お金ですか? トラブルですか? 記者の場合はこうでした。
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なんでまだ使えるものを手放すの?
ちょいと前のことだが、一時やたらとバイパーの買い替えを促されることがあった。編集長のこんどーには「これ以上長く持ち続けても、新しい発見はないで」と言われ、カメラマンのK氏には「『ルノースポール・スピダー』とかイイと思うんだよ」と絡まれ、「ジープ・グラディエーター」の取材でご一緒した清水草一氏にさえ「ほった君にはどんなクルマが似合うかなー」と圧をかけられた次第である。
バイパーがわが家にやってきてから満6年。確かに世間一般ではそろそろ買い替えを考える時期なのは確かだ。当連載でもここのところ不調のお話ばかりしていたから、周囲に「お、そろそろか?」と思われたのやもしれぬ。しかし結論から申し上げると、記者にバイパーを手放すつもりはない。
そもそも私は、基本的に物持ちがいい。ネグローニのドライビングシューズはバイパー同様今年で6年だし、ぽんこつスマホの「SH-M05」も、この間バッテリーを交換した。愛用するエドウィンも半分以上が10年選手で、穴やすり切れを手芸用ボンドと端切れで補修しているありさまだ。一番付き合いが長いのはバイクの「トライアンフ・サンダーバードスポーツ」で、確か今年で14年。思い起こせばかつての相方「ローバー・ミニ」も、ラジエーターが噴水を吹くまで10年にわたり乗り続けた。
実家でモノを捨てるという行為を学んでこなかったこともあるのだろう。筆者の生活様式に断捨離は存在しないのである。そんなわけで、バイパーも買い替えは考えていないのでした。残念!
……過日、酒の席で知古の友にそんな話をしたところ、おもむろにスマホの画面を見せられた。某中古車情報サイトに掲載されている、広島のお店の物件紹介ページだった。
車種 ダッジ・バイパーGTS
年式 1996年
走行距離 6.3万km
本体価格 1150万円
新車時価格より高いやんけ!
いやはや、とんでもない時代になったものである。
国産の平成スポーツカーが軒並み爆騰しているのは知っているし、かつてと違い、アメリカのクルマも少しずつマトモな扱いをされつつあることも知っていた。しかし、こと自身の相方の相場についてはすっかり無頓着であり、それだけに1150万円の衝撃はすさまじかった。記者に翻意を促すのに十分な一撃だった。
だって奥さん、1150万円ですよ? 1150万円っつったら、398万円だった筆者のバイパーのほぼ3倍よ。かつてクライスラーが正規販売していた頃の新車価格は1100万円で、“26年落ち・6万km超”の中古車がそれを超えてるんだぜ? いつの間に初代バイパーはこんなプレミア商品になっていたんだよ?
いや、そんなことはどうでもいい。問題は今日のバイパーの買い取り価格である。さすがに1000万円オーバーが当たり前ではないにしろ、バイパーの販売価格が高騰しているんだったら、買い取り価格も上がっているハズ。ひょっとしたら筆者のバイパーも、購入時の398万円より高い額で売れるかもしれない。まさにクルマde資産形成!
そんなわけで鯨飲の翌日、筆者は芋焼酎の抜けない頭で、ちょっと真面目に買い替えについて考えてみた。
仮にバイパーを売るとして、問題は次のクルマだ。もちろん必ずしも買わねばならないわけではないが、重度のガソリン中毒である記者が、バイク2台オンリーの生活に耐えられるはずがあるまい。久方ぶりにそういう目線で中古車物件サイトを回遊する。
ちなみにわたくし、終(つい)のクルマは「スズキ・ジムニー」と心に決めているのだが、まだ人生は折り返し。さすがにそこに手を出すには早い。現状独り身だし、所帯を持てる気配もないのでドアは2枚で十分。もうしばらくは不便なクルマで遊んでいるのもよかろう。
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アメ車以外もちゃんと好きなのよ
まっさきに思い浮かぶのは、かなしいかなやっぱりアメ車だ。黄金時代のマッスルカー……は、正直探るだけムダ。モノによっては今やフェラーリと伍(ご)す高級車である。やっぱり、若いうちに借金してでも買っておくべきだったなぁ(嘆息)。しからばと年式を上げてみても、筆者にとってのクロスフラッグの原風景、C6世代の「シボレー・コルベットZ06」は軒並み600万オーバー。だったらいっそ、先代「フォード・マスタング」の「GTパフォーマンスパッケージ」とかはどうだろう?
……いや。待て、落ち着け。この世代のアメリカのスポーツカーを買うんだったら、バイパーのままでよくない? ここはいったんデトロイトを離れるべきだ。天邪鬼の旗を降ろして、欧州勢の軍門に下ろう。だいたいバイクはトライアンフ(とヤマハ)だし、前に持っていたクルマはミニだったし、バイパーに買い替えるときも、FRのポルシェやイギリスの古いスポーツカーなんかを物色していたし。
調べてみると、かつてSTIのエンジニア氏が「フットワークがスバラシイ!」と褒めたたえていたE90世代の「BMW M3セダン」が、いつの間にか値ごろな感じに。“200万円台で買える12気筒”こと「フォルクスワーゲン・トゥアレグW12スポーツ/エクスクルーシブ」で地獄を見るのもバカな感じがしてよさげである。フランス車なら「ルノー・カングー ビボップ」! スポーツカーならアルピーヌよりヴェンチュリのほうが正体不明で面白そうだ。イタリア車だと、記者がギョーカイに入った頃に人気だった「アルファ・ロメオ147/156GTA」あたりをゲットして、初心を思い出すのもいいかもしれない。
……と、まぁ見ているぶんには「あの人は今⁉」的な感覚で楽しめるのだけれど、なんでしょう、いまいち気持ちが乗らない。そこから先に妄想を膨らませるところまで、モチベーションが上がらないのだ。
これはどうしたことだろう。
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反逆の精神が足りないんだよ
先日、山中湖に遊びに行く機会があり、ここのところトラブル気味だったバイパーを久々に遠出に引っ張り出した。このクルマで車窓を楽しむのは本当に数カ月ぶりで、センターのズレたステアリングとちょいと吸い込まれ気味のブレーキペダルを気にしながら、流し気味に走った。で、そんな状態でのドライブでも、記者はそこそこ満足だったのだ。
つくづく思うに、記者がこのポンコツで一番気に入っているのは、存在自体がチャレンジ(日本語じゃなくて英語の意味でね)しているところなのだ。不穏なナリと音、それに時代錯誤な風体が、いかにも世間に唾(つば)してる。中指をおっ立てている。地位も名誉も財産もないひとやまいくらの民草が、世知辛い世の中に向こうを張って生きるには、こういうものが必要なんだよ。
賢明なる読者諸兄姉ならもうお分かりだろう。問題はそこで、ひとたびその気に触れてしまうと、どれほど「この野郎、買い替えてやる!」なんて目に遭っていても、手放そうという気持ちが霧散するのだ。それに、これほどの反逆の気骨をよそのクルマは持ち合わせていない。持てるクルマもあるにはあるが、そうした例は大抵の場合、「これだったらバイパーのままでもよかったんじゃね?」というものだったり、記者には到底手に負えない高額銘柄やビンテージものだったりする。
そんなわけで、やっぱり記者はバイパーを手放さないと思う。もし翻意するとしたら、それは反逆のメンタルを失したときか、事故って全損にしたときだ。ギョーカイ関係者の皆さん、もう記者に「バイパーいつ売るの?」とか聞いてこないように。金積まれても売らないよ。
(webCGほった<webCG"Happy"Hotta>)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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