ルノー・カングー ビボップ(FF/5MT)【試乗記】
みんなのおもちゃ 2010.09.10 試乗記 ルノー・カングー ビボップ(FF/5MT)……234.8万円
“短いカングー”、カングー ビボップがデビュー。個性的なルックスと機能は、走りの楽しさをどう変えるのか?
ホントにこれで走っていいんですか?
クルマに限らず、「おもちゃっぽい」という表現は否定的な意味で使われる。そこに「子どもっぽい」というニュアンスも含まれているからだろう。けれども「ルノー・カングー ビボップ」(ビーバップにあらず)は、おもちゃっぽくない。おもちゃなのだ。意図しないでおもちゃ的になったのではなく、確信犯的におもちゃを狙っている。相手を喜ばせようという狙いがはっきりした、大人のおもちゃだ。エッチな意味ではなく。
縦横比がヘン、というのがパッと見の印象。ベースとなった「カングー」と比べると、全長で345mm、ホイールベースが390mmも短くなっている。一方で幅と高さはほとんど変わらないから、カングーを見慣れた目にはかなりの寸詰まりに見えるのだ。けれども、次第にそのアンバランスさがかわいく思えてくる。それはきっとイモトアヤコの眉毛がかわいく見えてくるのと同じで、このクルマが周囲を楽しませてくれるからだろう。
面白さの理由のひとつである、後席部分をオープンにする仕掛けから試してみる。まず、テールゲート部分のガラスをセンターコンソールのスイッチで下げる。続いて、手動のロックを解除して、ルーフ後端を前方にスライドさせる。スライドというより、操作する実感として折りたたむ感じ。で、折りたたんだルーフがカチッとロックされるとできあがり。慣れればアッという間に完成で、ロックさえしてあればこの状態で走っても問題ない。
操作は簡単だけれど、後席をオープンにした姿はかなり異様。『webCG』のM編集部員はルノー・ジャポン広報部に「ホントにこれで走っていいんですか?」と確認したほど。停止した状態で後席に座って見上げると、真っ青な夏空が広がっていて気持ちがいい。2階建てはとバスの屋根を取っ払った「オー・ソラ・ミオ」をたまに見かけてうらやましく思っていたけれど、こんな感じなのか。ここで運転席に移って、エンジンをスタート。さて、走らせた印象やいかに。
兄貴とは異なる芸風
カングーのトランスミッションには5MTと4ATが用意されるが、カングー ビボップは5MTのみ。エンジンはカングーと共通で、105psを発生する1.6リッター直列4気筒エンジンだ。つまりパワートレインはカングーの5MT仕様と同じで、エンジンは低い回転域から粘り強く、ブン回さなくても市街地だったらスーッと速度を上げて活発に走る。エンジンは素直に回転を上げるものの、4000rpmからは、ややにぎやかな印象。ただし耳につくイヤな音質ではないのが救いだ。
高速の登り勾配(こうばい)はさすがに苦しいけれど、追い越し車線をかっ飛ばしたい人はそもそもこのクルマに興味を持たないだろう。ひとつ気になったのは、5MTのシフトフィール。カングーの5MTはもっと剛性感があったというか、かしっとシフトが決まった記憶がある。一方ビボップは、くにゅっという頼りない感触が手のひらに残った。ギアボックスはカングーと共通だというから、これが個体差だといいのだけれど。
パワートレインの印象はカングーと同じく好感が持てるものだったが、乗り心地は全然違った。ひとことで言えば、ビボップは硬いのだ。ルノー・ジャポン広報部によれば、ホイールベースを短くしながらも安定性を確保するために、セッティングが変えられているとのこと。また、タイヤサイズがカングーの195/65R15から、205/60R16へ変更されている影響もあるのだろう。速度域を問わず、かつんかつんという突き上げを感じる。
ただしこの硬さは、シャキッとしたコーナリングにつながっている。アイポイントが高いのに、あまり横傾きを感じさせずにすばしっこくコーナーを曲がる感覚は独特だ。ぺたーっとロールしながら、コーナーをなめるようにクリアしていたカングーとは対照的。足まわりに関しては、兄弟でありながら北野大と北野武ぐらい芸風が違う。どっちが好きかと問われれば、圧倒的にカングーのまったり味が好きだ。けれどもM編集部員にハンドルを譲って、走行状態で後席オープンを経験するとそんな気持ちもグラついてくる。
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乗り降りは意外と楽ちん
フルオープン状態であっても、80〜90km/h程度までなら風はまったく巻き込まない。高速走行だって快適だ。ただ、周囲の景色が飛ぶように後方に流れていく。青空の下では心地よく、木立の中を駆け抜けるのもいい。試してないけど、きっと夜空を見上げながら走るのもオツなものだろう。レッグスペースは十分で、足を組んで座ることができる。シートのサイズがもうちょっと大きければ言うことなし。
後席のふたつのシートは簡単操作で取り外し可能で、この状態だと2シーターの荷役車に変身。外したシートは重量がかなりあるので、取り外した後で持ち運ぶのに難儀したことは付記したい。ちなみに4名乗車時にはほとんど荷物が積めないので、このクルマをフル活用しようと思ったら頻繁にシートの取り外しを行うことになるはずだ。
試乗する前にカングーとの比較で一番気になっていたのは、後席スライドドアがない点だった。後席へのアクセスの悪さが大きな弱点になるのではないかと思ったのだ。カングー ビボップは一般的な2ドア車のように前席を倒して後席に乗り込むこともできるし、リアゲートから乗り込むこともできる。そして、この後ろから乗り込む方式が意外と快適だった。後席へのアクセスが悪いから……、とちゅうちょなさっている方は、ディーラーで後方からの乗り込みを試してみてはいかがか。後方からのアクセスは楽ちんだっただけでなく、非日常的な行為なのでちょっとワクワクする。
ドライバーが楽しくて、パセンジャーが楽しくて、そして「オー・ソラ・ミオ」をうらやましく思った経験からいくと周囲の人も楽しい。みんなをワクワクさせるわけだから、大人のおもちゃというだけでなく、みんなのおもちゃだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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