BYD ATTO 3(FWD)
背筋が伸びる 2023.01.09 試乗記 中国のBYDが日本での自動車販売をスタートする。その嚆矢(こうし)となるのがCセグメントSUVの「ATTO 3(アットスリー)」だ。初号機ゆえに仕上がりは文句なし。これが車両本体価格440万円というのだから、間違いなく黒船級の衝撃である。世界2位のBEVメーカー
「Build Your Dreams」の頭文字をとってBYD。中国・深センに本社を置くこの会社の設立は1995年。電池開発製造を祖業に、携帯電話の普及や周辺技術の発展とともにトントン拍子で会社は大きくなり、2003年には子会社で自動車製造を開始する。そのころから創業者の王伝福氏は技術や調達で利が発揮できる電動車に焦点を当てて成長計画を描き、それに賛同したウォーレン・バフェット氏はリーマンショックの渦中に10%の出資を決める。
その後は中国の驚異的経済成長にも乗り、自動車メーカーとしての存在感を高めていく一方で、政策の追い風にも乗って国内を中心にパワートレインの電動化を推進。そして2022年中には内燃機モデルの販売を終了し、電気自動車(BEV)専業メーカーにシフトするとしている。ちなみにBEVの販売台数もテスラに肉薄する世界2位だ。
……と、その歴史や背景を勉強するにつけ、驚かされるのはBYDの成長ぶりがいかにただならぬ勢いだったかということだ。例えば従業員数でみても、現在はグループ全体で創業時のざっと1万倍に近い約22万人という。次はインドだアフリカだと言われてはいるも、われわれがこの規模の成功物語を目にするのは相当難しいのかもしれない。
そんなBYDが抱く大きな目標は当然ながらBEVを武器にした本格的な世界進出だ。そのターゲットには日本も含まれていて、2025年までに100以上の実店舗を構えての販売網を構築するという計画が先だって発表された。そこでの中心的な商材と目されるのがこのATTO 3。フォルクスワーゲンになぞらえれば「ID.4」にあたる世界戦略車としてこの春から、本国を皮切りに販売が開始されたクルマだ。
熱気の伝わるインテリア
その寸法をみるに、全幅は若干広いものの車格的にはCセグメントクロスオーバーといった趣だ。床下にバッテリーを敷くぶん、室内高を確保するには天地を大きくとって……と、世界のメーカーが掲げるBEVの最も常套(じょうとう)的なパッケージングでもある。
用いるプラットフォームはBEV用として開発されたものだが、生産の柔軟性などで判断が分かれる駆動モーターの搭載位置は前。「リーフ」や「bZ4X」などと同じFF的なレイアウトだ。ホイールベースも2720mmとCセグメントとしては長めだが、車幅に比例した操舵角も生かして最小回転半径は5.35mにとどめている。
床下に配される駆動用バッテリーは熱安定性に優れたリン酸鉄を正極に用いたリチウムイオン式を採用。リン酸鉄バッテリーは低温時の性能やエネルギー密度などに欠点があるとされていたが、ATTO 3は「ブレード=刀」と呼ぶ細長いバッテリーパックで体積を稼ぎエネルギー密度を高める策によって58.56kWhの容量を確保。一充電走行距離はWLTC基準の自社計測値で485kmという。
これをスペック的に近い「日産リーフe+」と比べてみると、62kWhの容量で航続距離が450kmというから、効率的にはそれを上回ることになる。一方でモーター出力はリーフe+の側が10kW/30N・m高い。ちなみにATTO 3の最高速は160km/h、0-100km/h加速は7.3秒と発表されている。
アルファ・ロメオやアウディなどで辣腕(らつわん)を振るったウォルフガング・エッガー氏が率いるBYDのデザイン部門。そこで練られたATTO 3のスタイリングは、BEVの世界戦略商品として至ってソツのない、中間的な形状に見える。対して、なぜかスポーツジムやギターから着想を得たという内装はなかなかのアクの強さで、クルマづくりに夢や希望を抱く若人たちがワイガヤしながらつくってますという熱気が伝わってくる。
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隙のないドライブフィール
と、そこではたと気づくのが、ATTO 3の静的品質の高さだ。スポーツジムですか……と苦笑したものの、内装をよくよく見れば、ダッシュアッパーやドアトリムのシボ感、ステッチ類のそろい、樹脂部品の金属調加飾の仕上げ、ボタン類の具詰まり感やレバー類の押し引きの感触、モニターやセンターコンソールといった大物部品の建て付けと、それらのクオリティーに目を見張る。ドアノブやルーバーなど、流用の利かないワンオフ的部品がきっちりおごられているあたりにはパイクカーでもつくらんばかりの資金力の勢いも感じるが、同時に品質に対する基礎もすさまじく向上している。センスの問題はさておき、同級のBEVを思い浮かべるに、その質感はひとつ抜けたところにいるかもしれない。
その驚きをもってドライブすると、走りの側にも隙がないことにまた驚かされる。動力性能は平凡できらめくようなところはないが、アクセル操作に対するスピードの乗りは従順で、動きだしからじわじわと速度を上げていくような運転も苦にならない。ブレーキはファーストタッチで利きの立ち上がりがやや強めな傾向だが、制御が難しい油圧との協調のようなところはそつなくまとまっている。
ハンドリングにおいては大舵角からの立ち上がり時にトルクステアが現れる傾向があるが、これも他のFF系BEVに照らせばおおむね許容範囲だろう。重心の低さを生かしての旋回挙動にも安心感がある。サスはやや柔らかめの設定で乗り心地は優しいが、ヒューンというインバーター系のノイズが少し大きいところが気になった。自慢の大画面タッチパネルは操作性やレスポンスも良好。そこにナビは備わっていなかったが、日本仕様への搭載に向けてゼンリンの地図データをベースにしたものを製作中とのことだった。
消耗戦の末に……
もちろん、長期的な性能や品質の安定といった日本が時間をかけて磨き上げてきた項目については未知数だ。そして撮影込みで3時間程度、しかも豪州仕様への試乗という限られた状況だったため、ADASなど試せなかったことも多い。
でも、現時点で言えば、中国車=安かろう悪かろうという先入観はいよいよ捨てるべき時が来たというのが率直な印象だ。設備も工機も新しく、工員の質も高い。そのうえ、世界のサプライヤーが切磋琢磨(せっさたくま)している。そんな中国がクオリティーで日本に勝負できる時は遠くない。日本メーカーのエンジニアに話を聞くと概してそのような印象を述べていたが、それを目の当たりにすると背筋が伸びる。
V2LやV2Hにも対応するATTO 3のようなBEVは、異業種の販路との親和性も高い。ヤマダデンキやジャパネットたかたのような地方に強いネットワークで、パワコンやソーラーパネルなどと車両を結び付けて補助金申請等も含めた一括セールスを仕掛けるのに向いているように思うし、彼らもそんな絵はとっくに描いているだろう。が、BYDはディーラー網を構築、日本市場に真っ向勝負する道を選んだ。
BEV普及の課題として表面化しつつある電池調達の面においても、全量自社生産である彼らが他社よりも強いコスト耐性をもっていることは間違いない。BEVを巡る世界的消耗戦の果てに、残ったのはBYDだったというてんまつも考えられる。そんな怖いシナリオまで思い浮かんでしまうほど、その出来栄えは衝撃的だった。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BYD ATTO 3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4455×1875×1615mm
ホイールベース:2720mm
車重:1750kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R18 101V XL/(後)235/50R18 101V XL(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
一充電走行距離:485km(WLTCモード<自社計測値>)
交流電力量消費率:144Wh/km(WLTCモード<自社計測値>)
価格:440万円/テスト車=440万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3850km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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