第737回:氷上で実感! 「日産アリア/エクストレイル」に積まれる「e-4ORCE」の底力
2023.02.03 エディターから一言 拡大 |
日産恒例の氷上試乗会で、「アリア」や「エクストレイル」に搭載されるデュアルモーター4WD「e-4ORCE」の姿勢制御を体験! 2つのモーターと4輪のブレーキを緻密に操るこのシステムは、滑りやすい路面でも異次元のスタビリティーを提供してくれた。
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凍結した湖で試す電動4WDの実力
長野県の中部、白樺高原のそばにある女神湖といえば、コンディションが整えば冬季に氷上で運転トレーニングができる数少ない湖だ。その期間を使って日産は、毎年メディア向けの試乗会を催してきた。暖冬やコロナ禍によって中止になることもあったが、2022年からは再開。目玉となったのは「ノート」に搭載された「e-POWER 4WD」の体験で、駆動制御の機敏さや緻密さを極低ミューのもとで安全に確認できた。
そして今年の目玉は、そのe-POWER 4WDの発想をさらに進化させ、前後モーターの応答性に4輪独立の制動制御を合わせてコーナリングフォースを生み出すe-4ORCEの体験だ。以前、テストコースで確認したエクストレイルのオンロードドライビングでは、往年の「ランエボ」ばりのアジリティーと、きっちきちに粘り抜くスタビリティーがきれいに両立しているところに感心させられた(参照)。とともに、これが低ミューの状態ではどのように反応するのだろうという興味も膨らんでいたから、今回の試乗機会はまさに渡りに船。喜び勇んで現場へと赴いた。
試乗当日のコンディションは晴れ。一方で気温は連日低く、凍湖は表面がしっかり磨き込まれてミューはかなり低いという説明だった。例年に比べると雪が少ないようで、コースを形成する雪壁の背丈も低い。捉えようによっては、調子こいてるとめっちゃ滑ってコース外に飛び出ることになりかねない……ということで、最初は昨年も乗ったノートe-POWER 4WDや、明らかに絵面映え用に用意されたであろう「フェアレディZ」で、恐る恐る路面の感触をつかんでいく。
アクセルオフ時にも姿勢制御に介入
400PS超のFR車なんて、スタッドレスタイヤを履いていようが低ミュー環境ならくしゃみひとつでとっ散らかるほど危ういものだ。昔ならメーカーの看板を背負うスポーツカーをこんなイベントに供するなんて、ありえなかっただろう。このパワーをむき出しにすることなく鞘(さや)に収めてくれるVDCがあればこそ、氷上でも常識的な操作でなんとかライントレースしてくれる。怖いもの見たさでVDCのOFFボタンを押すや瞬時にダブルアクセルだ(ドラテクじゃなくてフィギュアスケートのほう)。長い試乗人生、自分の計り知らぬところでVDCに何度も命を救われているんだろうなあと、人知の素晴らしさに思いをはせる。
そんなウオームアップを経て、いよいよe-4ORCEの試乗だ。エクストレイルのそれは搭載バッテリーの容量が1.8kWhと余裕があることもあって、残量いかんでは発進時や低負荷走行時にエンジンを稼働させず、純粋なEV走行が望外に長く味わえる。しずしずと走りだしてみると、この低ミュー路でさえ蹴り出しに偏りや迷いが感じられないのが印象的だ。
e-4ORCEは前後2基のモーターで前後輪を駆動させる。センターデフのような物理的な接続がないため、制御次第では本当に0:100~100:0の駆動配分が可能だ。が、実際には走行状況やドライブモードに応じて、おおむね100:0~30:70の範囲でリニアに駆動力を調整している。また、前後輪の回生ブレーキを微細に制御することでアクセルオフ時の減速姿勢を安定させるなど、ボディーコントロールにも積極的に介入している。
あえて急加速を試すとトラクションコントロールの作動とともにエンジンも稼働を始めるが、その作動は感心するほど静かで、3気筒固有の振動や音色も強くは現れない。可変圧縮比のおかげで低回転域からしっかり力を立ち上げるぶん、使用回転域も低く抑えられる。低回転、つまり高圧縮時の燃焼音には悩まされるものだが、それも際立たないところは、日産の内燃機設計にまつわるノウハウのたまものだろう。
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雪上で「アリア」の4WDに初試乗!
ドライブモードに応じた挙動変化は手応えとしてしっかり伝わってくる。スノーモードでは努めて4輪をしっかり同調させながらライントレースしていく一方で、スポーツモードではe-POWER 4WDより明確に高出力化されたリアモーターの稼働を高めて、アクセル操作に応じて軽いオーバーステア状態をつくり出しながら曲げていくこともできる。もちろんクローズドコースが前提になるが、極端にミューの低い氷上ではなく、ある程度グリップが期待できる雪上であれば、アクセルワークによってリアタイヤで積極的に曲げていくことも難しくはなさそうだ。
今回は、同じくe-4ORCEをうたうデュアルモーターのアリアにも試乗することができたが、運転と挙動の感覚をつかむのに時間がかかったのは、むしろこちらだった。極低重心のパッケージに加えて、アクセル開度に対する五感的なリアクションが薄いところがそう思わせたのだろう。スポーツモードではアクセル踏量にシンクロした疑似的な効果音が鳴らされるが、リア側の駆動力を使って曲げていくような挙動は、むしろエクストレイルのほうが楽に引き出せる。アリアの場合、実重や重量配分と制御の緻密さの相関関係を体になじませる必要もあるのだろう。
が、そういう余計なことをせずにクルマ任せでドライブするぶんには、アリアは氷上という特殊環境においてもエンジン車とは異なる安定した動きを見せてくれる。「秒間1万回という頻度で駆動制御が可能」と言われても宇宙すぎてまるでピンとこないが、結果、介入にさえ気づかせぬまま提供されるスタビリティーは、新次元の驚きに満ちている。
日産のエンジニアはそのしつけにあたって、「今までのクルマとは違う」という違和感を極力抱かせないようにしたというが、裏を返せば、クルマ好きがお望みの挙動もパラメーターをこちょこちょイジれば造作なく引き出せるということでもある。電動化によるクルマの進化はダイナミクスの側にこそ顕著だということを、e-4ORCEは端的に表しているわけだ。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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