車両開発において「ドアの閉まり音」は意識されるか?

2023.07.04 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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かつてディーラーなどで、クルマのドアを閉めてはその音を確認し、製品の良しあしを語るシーンが見られました。メーカー側、車両をつくる側はどうでしょうか? 開発の場面で、この「閉まり音」が論じられたり重視されたりするのでしょうか?

ひと昔前は、「ドイツ車のドアは閉まり音がいい」などとささやかれ、例えばトヨタ社内でもそれをベンチマークにしなさいと言われた時代がありました。

もっとも、解析・対策するにしても、ドアの閉まり音を良くする目的で車両開発にあたるというのは費用対効果の点で難しく、吸音材をドアの内側に貼る程度のことはしていたものの、課題としては後回しにされがちでした。

その後、西暦でいうと2000年ごろからだと思いますが、クルマの安全性が重視されるようになり、製品開発においては衝突安全の確保が絶対の指標になりました。メーカー間の競争も熱を帯び、自動車のボディーは大いに固められ、寸法の精度も上がっていったのです。

その結果、日本車のハンドリング性能も大幅に向上しました。そしてドアの閉まり音まで良くなった、というのが実情です。

最近はどのクルマも、閉まり音はだいたい同じレベルになりました。もはや開発の現場で、ドアの閉まり音が議論されることはないと思いますよ。

「86」ではドアとボディーの結合剛性をさらに上げるために「ドアスタビライザー」というパーツまで開発しました。今後、“感動できるドアの閉まり音”を生む、新たな技術は出てくるかな? 期待したいですね。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。