脱・日本の新型「C-HR」に見る、強者トヨタのクルマづくり
2023.07.10 デイリーコラム国内よりも海外で成功
2016年に「C-HR」が発表された時は、直感的に「うおお! カッコええ!」と思いました。私の頭に浮かんだのは、アニメ『攻殻機動隊』。コレはアレに登場しそうだ! デザイン的にとがってるぜ! と感じたのです。
サイドウィンドウは後ろにいくにしたがってせり上がり、ルーフも後部が下がっているので、後席は閉塞(へいそく)感が強いけれど、それはクーペと同じスポーティーな感覚。若い頃クーペに男5人ギューギュー詰めでガンガン走った世代としては、どこか懐かしくもうれしいコンセプトでした。C-HRには青春が感じられる! カッコつけたスポーティーなSUVとしてスバラシイ! と思いました。
C-HRは、当初、非常によく売れました。爆発的といっていいほど売れました。ところが1年余りで急激に売れ行きが落ち、その後も減る一方で、ついに2023年3月、国内販売が終了してしまいました。出足のよさとその後の販売の尻つぼみぶりも、かつてのスポーツクーペを思わせました。
現在、トヨタの国内SUVラインナップは大変充実しており、もはやC-HRを必要としていません。2019年4月に「RAV4」が、同年11月に「ライズ」が、2020年6月には「ハリアー」が、同年8月には「ヤリス クロス」が発売されたのです。C-HRにとっては、RAV4の登場が特に痛手(?)で、お客をごっそり取られました。そこで新型C-HRは、ヨーロッパの顧客向けに、ヨーロッパで設計・製造されることになったのです。
C-HRは国内よりも海外で成功し、なかでも欧州で好評でした。かの地でウケた理由は、シャープでスポーティーなスタイリングにありました。トヨタによると、欧州では「半数以上が、購入の主な理由としてスタイリングを挙げた」とのことです。欧州人は、C-HRを見て日本製アニメを連想したに違いないと想像しております。
“割り切った進化”がさえる
日本では、そのとがったスタイリングがすぐ飽きられたC-HRですが、欧州ではかなり根づいており、新型も初代の流れを踏襲しています。フロントマスクは新型「プリウス」風のハンマーヘッドになりましたが、ブラックを大胆に使うことで、『攻殻機動隊』風味は増しております。
海外専用モデルとなったことで、中身も割り切った進化を遂げています。ドライバーを中心とした斬新な内装デザインは、エクステリアに合わせた進化といえるでしょう。最も注目すべきは、リサイクル素材やアニマルフリー素材の使用を増やし、軽量化と新たな生産プロセスによる炭素排出量の削減により、持続可能性に焦点を当てていることです。“リサイクル素材”や“アニマルフリー素材”は、日本では特にウリにはなりませんが、かの地では必須条件になりつつあります。
インターフェイスも先進的です。ドライバーが車両に近づくだけで、ライト類が点灯。ユーザーは、キー登録した自分のスマホを持っているだけでドアロックが解除され、エンジンを始動できるシステムも採用されています。近年欧州で大流行中の「アンビエント照明」も大進化。キャビンの気温や時間帯に合わせて、最大64色が24の色合いを実現するプログラムなのです。スマホアプリで、出発前に車内を暖めたり冷やしたりもできます。なにせ『攻殻機動隊』ですから、最先端じゃないといけません。
パワートレインは4つ。1.8リッターと2リッターのハイブリッドと、2リッターのPHEV、およびそのAWDモデルです。日本ではリーズナブルなガソリンモデル(先代C-HRは1.2リッターガソリン)も必要ですが、新型C-HRは、トヨタ得意のハイブリッドとPHEVのみという構成になりました。EVはないですが、トヨタの得意技をアピールしつつ、欧州向けに特化した、プリウスのSUVバージョンといった位置づけですね。
現在、多くの自動車メーカーは、グローバルモデルの開発に絞っていますが、トヨタには、仕向け地ごとに最適なモデルを選択する余裕があります。かつて日本でも大ヒットしたC-HRを、惜しげもなく捨てる余裕もある。それがトヨタの強みといえるでしょう。
(文=清水草一/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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