第753回:“脱炭素の島”にBEVをお届け! 屋久島での取り組みにみるアウディの環境意識
2023.07.15 エディターから一言 拡大 |
アウディの電気自動車(BEV)でサステイナブルな取り組みの最前線を訪ねる「サステイナブル・フューチャー・ツアー」に参加。電力のほとんどを再生可能エネルギーで賄う屋久島で、アウディの日本におけるカーボンニュートラル推進の取り組みをみた。
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月のうち“35日”が雨の島
世界自然遺産の縄文杉で有名な鹿児島県・屋久島は、雨の島としても知られている。「屋久島は、月のうち三十五日は雨といふ位でございますからね……」(『浮雲』林芙美子/著)と小説にも語られるくらいで、その年間平均降水量は平地で約4500mmと、日本の平均の2倍。山間部では8000~1万mmにも達するという。暖かい黒潮の本流のなかにあるという島の位置と、九州最高峰の宮之浦岳(1936m)をはじめ標高1000mを超える高山が46座もそびえる洋上のアルプス的な形状が相まって、海からの水蒸気が山の斜面を上昇して雲になり、大量の雨を降らせるからだ。
一方、その豊富な水をダムに蓄え、水力発電によって島のほぼすべての電力を賄っているというのはあまり知られていない事実。つまり、水という再生可能エネルギーをしっかりと活用し、日本で脱炭素の実現に最も近い地となっているのが屋久島なのだ。
「持続可能な社会の実現の重要性について、一人ひとりが考えるきっかけの場をつくる」ことを目的にしたアウディ・サステイナブル・フューチャー・ツアーを実行中のアウディ ジャパンでは、そこに注目。次なるツアーの舞台として、屋久島に白羽の矢を立てた。走行中のカーボンフリーを実現するBEVの「e-tron」シリーズ13台で、メディアとともに島内を巡り、水力発電の現場を訪ね、また屋久島町と持続可能な未来の実現に向けた基本合意書を締結するのが今回の旅の目的だ。
島の再生可能エネルギーを創出する場としてわれわれが訪れたのは、屋久島空港から26km離れた山中にある、水力発電を担う島唯一のダムである屋久島電工尾立ダムだ。ここではダム湖に蓄えられた200万tもの水を間近で見ることができ、サステイナブルな電力の源となる雄大なエネルギーを感じることができた。さらにそこから14kmほど下流にある安房川第二発電所では、特殊なエレベーターで地下150mに下り、水力発電に使用する巨大なタービンを見学。ここがまさにカーボンニュートラルの要となる現場なのである。
屋久島の未来へ向け3者で基本合意書を締結
さて、先ほど「屋久島町と基本合意書を締結するのが旅の目的」と述べたが、アウディ ジャパンと同社の正規ディーラーであるファーレン九州が、屋久島町と結んだ基本合意の内容は、「島のほぼすべての電気を水力発電で賄っている屋久島において、BEVの普及によりさらに脱炭素を推し進めるため、島内4カ所への計7台の8kW普通充電器の設置、アウディe-tronのレンタカーや社用車/公用車としての貸し出し、地元高校生に対する校外学習の機会提供(アウディ ジャパン豊橋拠点で)など、包括的な支援を行う」というものだ。
電動化戦略「Vorsprung(一歩先に行く)2030」に基づき、持続可能なプレミアムモビリティーを提供する企業への変革を続け、2033年以降は販売する全モデルをBEVとするとしているアウディ。日本でも、国内最大級の急速充電ネットワークサービス「プレミアム チャージング アライアンス」を発足し、旅行先での目的地充電を可能にする「デスティネーションチャージ」によるネットワーク構築をサポートするなど、BEVを検討しやすい環境づくりを行っている。屋久島との基本合意の締結は、その取り組みの一環なのだ。
あいさつに臨んだアウディ ジャパン ブランドディレクターのマティアス・シェーパース氏は、「われわれが行っているサステイナブルツアーは、脱炭素を通じて世界を変えていく仲間づくりを進め、そのパートナーシップのなかで自動車メーカーとしてなにができるかを考え、さまざまな分野で連携していくことが目的です」と、この活動の意義を説明。「今回、屋久島において、こうしたパートナーシップが実現できたことを大変うれしく思っています。屋久島には屋久杉を代表とする多くの自然と人々が共存しており、島内で使用される電気のほぼすべてが水力発電でつくられた再生可能エネルギーで賄われている、日本でも稀有(けう)な島、脱炭素に最も近い島です。一方、国によって環境は異なりますが、例えば日本全体での再生可能エネルギーの割合は22%前後で、ドイツと同様な数字。まだまだやることはたくさんあります。アウディは自動車のライフサイクルにおけるミッション:ゼロ(カーボンニュートラル化)にフォーカスしており、自然と人が共存し、島全体でサステイナビリティーに取り組んでいる屋久島町の皆さまをサポートしたいと考えました」と述べた。
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“脱炭素”の観点から島の魅力を発信する
一方、屋久島町長の荒木耕治氏は「今年(2023年)は屋久島が世界自然遺産に登録されて30周年という節目の年で、登録後は屋久杉をはじめとする島の豊かな自然に魅せられて、国内外を問わず多くの観光客の方に屋久島を訪れていただけるようになりました。一方で、島内のほぼすべての電力が水力発電で賄われており、脱炭素に非常に近い島であることなどはあまり知られていません。屋久島の自然環境はこの豊かな水によってつくられています。今後は、今回のような取り組みを通して屋久島の自然環境を守り、さらに新たな屋久島の魅力を国内外に向け届けていきたいと考えています」とした。
またファーレン九州の金氣重隆社長は「われわれは鹿児島の企業なのですが、実は屋久島を訪れるのは初めて。今回、アウディ ジャパンとともに屋久島との包括連携協定に向けて協議を開始できることを大変うれしく思います。電気自動車e-tronの貸し出しという取り組みを通して屋久島のさらなる魅力を発信し、地元鹿児島県の発展に貢献していければと考えています」と述べた。
屋久島高校の生徒らと「未来共創ミーティング」を開催
1泊2日のプログラムでは、千年杉をはじめとする杉の巨木が茂るヤクスギランドでのトレッキングや、地元で唯一の公立高校である屋久島高等学校を訪問してのアウディ ジャパンによる出前授業を実施。校庭に駐車したe-tronシリーズの各車に実際に触れることで、島で生まれ育った子供たちに最新のBEVを実感してもらうことができた。
さらに、建物全体が屋久杉でつくられた屋久島町役場では、シェーパース氏、金氣社長、荒木町長、屋久島観光ガイドの中馬真一郎氏らが、屋久島高校の恵美由紀教頭や生徒らとともに「未来共創ミーティング」を開催。同高校による自然環境保全への取り組みが紹介されたほか、屋久島の持続可能な未来について、活発な議論が行われた。
アウディ ジャパンによるこうしたツアーはすでに3回目を数える。1回目は2022年4月、ゼロカーボンシティーの先駆けとなっている岡山県真庭市を訪問。2回目となる同年10月には、日本で最初に地熱発電所を運転させた岩手県八幡平を訪れている。
(文と写真=原アキラ/編集=堀田剛資)

原 アキラ
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