BMW M3コンペティションM xDriveツーリング(4WD/8AT)
懐古主義にあらず 2023.07.28 試乗記 「X3 M」や「X5 M」があるのに、なぜこれまで「M3」にはワゴンがなかったのだろうか。その理由は分からないが、BMW Mのメモリアルを祝うモデルとして、めでたく「M3ツーリング」がデビューした。最高出力510PSを誇る快足ワゴンは、ドライバーにどんな世界を見せてくれるのだろうか。Mの創立50年を記念する一台
ヴォンッ! センターコンソールのスターターボタンを押すと、間髪入れず、レーシーなサウンドを発して、6気筒エンジンが目覚める。古典的ガソリンのいななき。その迫力あるサウンドと振動に、スッゲー……と思わず口から漏れる。
着座位置は地をはうように低い。SUVがスタンダードになっているこんにち、乗り込んだ当初はとりわけそう感じる。これまた古典派になりつつある大きなシフトレバーをDレンジに入れて走りだすと、後ろに広い荷室を持っていることをすっかり忘れる。知らなかったなぁ。M3にツーリング、すなわちワゴンがこれまでなかったことを。ツーリングは「M5」にしかなかったんですね。
正式名称はちょっと長い、「M3コンペティションM xDriveツーリング」。ま、考えてみたら、M3セダンに「M4クーペ/カブリオレ」という兄弟だって、ツーリングから前は同じだから、特別長いわけではないけれど。って、細かい話は置いておき、史上初のM3ツーリングのワールドデビューは2022年、毎年6月に開催される英国のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードが舞台だった。BMW Mの創立50年を記念する一台として登場し、ニッポンでは2023年1月から販売されている。グレーのボディー色がステキなこの個体は4月に登録されている。
肉を感じるボディー剛性
中身はほかの兄弟と同じで、ジェットエンジンのエアダクトのようなキドニーグリルの後ろにはバイエルンの伝家の宝刀、3リッターの直列6気筒ツインターボが控え、M専用のロジックで仕立てられたZFの8段ATと4WDシステムがその途方もないパワーとトルクを大地に伝える。最高出力は510PS/6250rpm、最大トルク650N・m/2750-5500rpm。タイヤは4WDなのに前後異サイズで、前275/35R19、後ろ285/30R20の「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」を履いている。太さも違えば、偏平率も半端のない薄っぺらさ。前後で直径まで違うところにバイエルンの狂気、ぢゃなかった本気を感じる。前後フェンダーの張り出しぶり、充実ぶり、モッコリ、は永遠の青年の証しであるやもしれない。
印象的なのはその硬さである。ボディー剛性が高い。という表現で済むところなのですけれど、肉を感じちゃう。ぶ厚い大胸筋、盛り上がった上腕二頭筋、大谷翔平とかなかやまきんに君とかアーノルド・シュワルツェネッガーとかエンゼル体操のムキムキマンとかにハグされているような官能。骨太な骨格をマッスルが覆っている。ああ、抱かれたい。
アクセルを踏み込むと、くおおおおんっ! という爆音に近い快音を発して飛ぶように加速する。ペガサスが後ろ足で蹴っ飛ばして離陸しているような、躍動感、後輪駆動感がある。全開加速せずとも、背中がシートに押し付けられる。大げさではなく、本当に。シートも肉厚で、硬めだけれど、体をやさしく包んでくれる。ああ。私は抱かれている。チョウになる。『白い蝶のサンバ』。作詞:阿久 悠なんである。
揺れを受け止めるマッスル
それに、なんてステアリングが太いんだぁ。これぞ、ファロティックシンボル。硬さも似ている。ドイツ人はなにを考えるのか? ヴァス・イスト・ダス? 出してはいけないモノである。万年青年、BMWの主張が込められている。あくまで筆者の主観です。
あなたに抱かれてわたしはチョウになる……。
高速巡航はもちろん得意中の得意。フロイデ・アム・ファーレン。駆けぬける歓(よろこ)び。歓喜の歌。低中速のワインディングロードも低速ではギアレシオの大きな可変ステアリングだから、小さく切るだけで大きく動く。だから、ホイールベース2855mm、全長4805mm、全幅は1905mmもあるのに、もっとコンパクトなスポーツカーを操っている感がある。
大きい入力があるとブワッと揺れる。ウィーウィル、ウィーウィルロックユー!
どんどんちゃ。どんどんちゃ。シングアゲイン。ウィーウィル、ウィーウィルロックユー。決してフラットな乗り心地ではない。揺れて揺られて、それをガシッとした、なかやまきんに君的、大谷翔平的、あるいはあなたの好きなひとのマッスルで抱かれている気分を味わう。ああ。
夢心地から現実に引き戻してくれるのは、ブレーキ。めちゃんこ利く! テスト車はオプションで100万円ちょっとのカーボンセラミックブレーキを装着している。
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トラックデーにぴったり
ロードノイズがデカいのはタイヤが極太だからか。それもあるだろう。接地面がデカいのだから。でも、それだけではない。私は忘れていたけれど、キャビンとカーゴルームの間に隔壁のないワゴンだから、でもあるに違いない。
それにしても……、いまどきなんだってBMWはこんなオールドスクールの超高性能ワゴンをつくったのだろう? 私だったら、フツーの「3シリーズ ツーリング」で十分である。あ。サーキットで走るためだ。M3/M4の4WDシステム「M xDrive」とリアの「アクティブMディファレンシャル」は、通常の4WDのほか、例によって私は試していないのですけれど、トルク配分を後輪駆動寄りにする4WDスポーツと、さらに完全に後輪駆動に切り替え、スタビリティーコントロールをオフにするモードまで備えている。
サーキット走行をわざわざワゴンで楽しむヤツがいるのか? もちろん、いらっしゃる。後ろに広い荷室があれば、スリックのタイヤ&ホイール4本と工具その他を積んで、いわゆるトラックデー、走行会の会場まで行けるからだ。
2030年以降、いや、いまでさえガソリンエンジン車は、馬がそうであるように、閉鎖された空間で楽しむものになりつつある。過去ではなくて、現在、そして未来をBMWは見据えているのである。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
BMW M3コンペティションM xDriveツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1905×1450mm
ホイールベース:2855mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6250rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2750-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR19 100Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:9.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1394万円/テスト車=1658万3000円
オプション装備:ボディーカラー<Mブルックリングレー>(10万円)/フルレザーメリノ<シルバーストーン×ブラック>(30万8000円)/Mカーボンエクステリアパッケージ(64万4000円)/Mドライブプロフェッショナル(12万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ<ゴールドキャリパー>(107万5000円)/Mカーボンファイバートリム(15万1000円)/ラゲッジコンパートメントパッケージ(5万5000円)/アクティブベンチレーションシート<運転席&助手席>(11万7000円)/パーキングアシストプラス(6万9000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:4573km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:340.5km
使用燃料:40.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.3km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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