BMW iX5ハイドロジェン(RWD)
メリットはたっぷり 2023.09.06 試乗記 2020年代後半の燃料電池車(FCEV)の市場投入を目標に、「X5」をベースとした実証実験車両「iX5ハイドロジェン」を世界各地で走らせているBMW。もちろん日本もその舞台のひとつだ。実験の一環として(?)webCGチームも300km余りをドライブさせてもらった。トヨタとの協業の成果
カーボンニュートラルに向けて欧州メーカーの多くがバッテリー電気自動車(BEV)になだれこむなか、今なお内燃機関やFCEVなどのマルチソリューションを掲げるBMWの態度は、日本メーカーとの共通点が多い。そんなBMWが初めて量産したFCEVが、iX5ハイドロジェン(以下、iX5)だ。
スタートは2013年1月に発表されたBMWとトヨタによる「協業に関する正式契約締結」だった。両社はこのとき、長期的な戦略的協業関係構築の一環として「燃料電池(FC)」「スポーツカー」「軽量化技術」「リチウム空気電池」という4分野での共同開発契約を結んだ。このうちの最初のFCシステム共同開発における最初の具体的成果が、今回のiX5というわけだ。ちなみに2番目のスポーツカーについてはいうまでもなく、2019年発売の「Z4」と「GRスープラ」で結実している。
ただし、このiX5は量産といっても、ミュンヘンにある研究革新センターのパイロット工場において100台弱という規模でつくられるだけで、あくまでドイツや北米、そして日本といった主要国での実証実験車両として供される。一般販売はされない。
今回、特別に試乗が許されたiX5も「世界でもっとも水素ステーションが普及した国?」である日本での実証実験を目的に、この夏に上陸したうちの1台だそうだ。日本の公道で今年=2023年末までリアルワールドで使い倒された後、ドイツ本国に送り返される予定とか。そして、それで得られたデータや知見は、2020年代後半に商品化予定というBMWの市販FCEVの開発にそのまま役立てられる。
そんな実験車両ゆえに、iX5は全車左ハンドルで、この試乗車にも日本の基準を満たすための補助カメラがワンオフで後付けされる。ベースはいうまでもなく「X5」だが、先ごろ発表されたマイチェン型ではなく、従来型なのは内外装デザインからお気づきの向きも多いだろう。
燃料電池車=電気自動車
サイドやリアの「BMW i HYDROGEN FUEL CELL」のロゴはカッティングシートだが、特徴的なブルーの三角チェック模様は塗装である。いずれにしても少量生産の実験車両だからか、それ以外は内外装の要所にブルーがあしらわれる以外、ベース車と大きな差はない。メーター表示も基本は通常のX5と共通で、目につく変更点は、燃費計(?)の単位が、水素消費を重量で表す「kgH2/100km」になっている程度だ。
キモとなるFCセル単体はトヨタが供給するいっぽうで、そのセルを組み合わせたスタックと、最高出力170PSのFCシステムはBMWがつくる。その他の駆動系コンポーネンツもすべてBMWによるもので、駆動モーターは「iX」のそれと共通のものを使っているとか。
FCは空気(=酸素)を吸い込んで水素と化学反応させて電気を起こす発電機だ。つまり、BEVではないが電気自動車=EVではある。
ただ、ピュアFCEVだと急加速などで発電が追いつかない現象が出てしまうため、トヨタの「ミライ」の駆動システムは一定容量のバッテリーからも電力を給する(と同時に減速時は回生もする)ハイブリッド構成となっている。それはiX5も同様。このクルマに搭載されるリチウムイオン電池のスペックは公表されていないが、FCとバッテリーを統合したトータルのシステム出力は401PSという。
iX5のパッケージレイアウトは同じくFR系プラットフォームを土台とするミライによく似る。本来はエンジンが入るフロントにFCシステム、センタートンネルと後席下に円筒形の高圧水素タンク、そして後軸にモーターを置く。床下に電池を敷き詰めるBEVとは異なり、キャビンのフロア高はベースのX5と選ぶところはない。荷室も一見するとX5と変わりないが、フロアがわずかに高くなっており、その下には駆動用モーターやインバーターがぎりぎりまで詰め込まれているようだ。
BMWらしいダッシュ力
6kgというiX5の水素最大搭載量はミライの5.6kgより少し多い。ただ、水素燃費率(欧州公表値のWLTPモード、以下同じ)はご想像のとおりiX5のほうが少し劣り、ミライの0.79~0.89kg/100kmに対してiX5は1.19kg/100kmとなっている。よって、iX5の航続可能距離はミライの650kmより少し短い504kmだ。
試乗車の車検証重量は2470kg。これは同じX5の直6ディーゼル車、あるいはWTLCモードの一充電走行距離が455kmのSUV型BEV「iX xDrive40」より50~60kg重い。
さすがBEVに手慣れたBMWだけに、同じ電気駆動のパワートレインのしつけに文句はない。アクセルを素早く踏み込んだときなどは、少しばかりのショックを許容しつつ強力な加速を披露するあたりは、いかにもBMWらしい。
0-100km/h加速は6秒以下だそうで、加速力はミライの9.0秒を明確に上回る。“ゼロヒャク5秒台後半”は、最新のターボエンジンを積んだCセグメントホットハッチレベルといっていい。実際の体感でも、iX5はBEVらしい俊足である。
空気を急速に吸い込む必要があるFCEVは吸気ノイズの処理も課題になりがちなものの、iX5は印象的なほどに静かで、通常のBEVより騒がしい感はまるでない。この辺はすでに入念な開発が施されているのか、あるいはベースとなったX5の素性がいいからか……。
内外装がX5としてはかなりベーシックな仕立てなのに対して、フットワーク部分だけはエアサスに可変ダンパー、そして22インチの「ピレリPゼロ」タイヤ……と凝った内容なのは、モーター駆動ならではの大トルクへの対応だろうか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実験車両らしい部分も少々
すでにお気づきのように、このiX5は現行X5系では唯一の2WD=後輪駆動車である。横滑り防止装置を「トラクションモード」にして振り回すと、即座にテールを張り出す攻撃的な姿勢になるのは、マニア的にはちょっと興味深い(笑)。
いっぽうで、たやすくオーバーステアに転じる操縦性や、上下動がおさまらない乗り心地については、「とりあえずやってみた」的な未完成感が否めないのも正直なところだ。重心位置や重量配分が、エンジン前提の元設計値とはかなりちがっているせいと思われる。
同じ電気自動車でも大容量バッテリーのおかげで否が応でも低重心になるBEVとは異なり、床下タンクに気体しか入らないFCEVは重心的にはどうしても不利。一般販売されない実験車両なので細かい乗り味は気にしていないのだろうが、BMW名義でFCEVを商品化するなら、このあたりの解決は不可避だ。
今回のiX5は似たような航続距離をもつiXよりは重いが、同じiXでもバッテリー容量を約35%増やして航続距離を650kmとした「xDrive50」になると、一気に150kgも重くなるのがBEVの宿命だ。対して水素タンクを大型化したところで、構造的に大きな重量増がないのがFCEVの利点といえる。
今回の試乗では実際の航続可能距離は400km弱といったところだったが、ものの数分で水素をフル再充填できるのでBEVのような充電ストレスがほぼない。最終的に“水の電気分解(水電解)”で水素が生産される(そしてFCで電気を取り出して水に戻す)ようになれば、クルマのように自由な乗り物での電気貯蔵・運搬法としては充電式バッテリーよりは水素の使い勝手がいい。それがFCEV最大のメリットだ。逆にいえば、水電解で水素が生産・供給できなければ、カーボンニュートラル社会で水素を使う意味はない。
ただ、現状の国内の水素ステーションはたまにしか来ないお客相手のゆったりした運用なので、トータルでは10分以上かかり(笑)、ただでさえ営業時間が短いうえに、休業日もやけに多いのが現実だ。実際、今回もやっとたどり着いたステーションがまさかの臨時休業で、ちょっと困った。まあ、こうした現状を打破するにはFCEVが普及する以外にない。水素供給の課題さえクリアできれば、FCEVはいかにも決定版っぽいのだが……。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW iX5ハイドロジェン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×2010×1770mm
ホイールベース:2975mm
車重:2470kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:401PS(295kW)
最大トルク:--N・m(--kgf・m)
タイヤ:(前)275/35R22 104Y/(後)315/30R22 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:119km/kg(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2679km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:315.4km
使用燃料:6.3kg(圧縮水素)
参考燃費:50.0km/kg(満タン法)/58.8km/kg(車載燃費計計測値)
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。




















































