ヒョンデは売れているのか? 日本に再上陸した2年目の通信簿
2023.09.20 デイリーコラムグローバルで3位の販売台数
日本自動車輸入組合(JAIA)の統計によると、2023年8月期におけるヒョンデの車両販売台数は20台。2023年1月から8月までの累計販売台数は224台となっている。同時期・同程度の販売台数といえば、BMWアルピナの198台やアストンマーティンの293台、ランボルギーニの339台などが挙げられる。
車両本体価格が軽く2000万円を超えるスーパーカーブランドやカーマニアが憧れるプレミアムブランドの販売台数に近いこの結果だけを考えれば、「鳴り物入りで日本に再上陸した割にはそんなに売れていない」と思われるだろう。しかし、ラインナップが電気自動車(EV)と燃料電池車(FCEV)だけであり、ディーラー網のないオンラインを中心としたワンプライス販売を行っていることを思い出すと、まずまずの結果と評価できるかもしれない。
もっとも「クルマを通販で買うとかあり得ない」というベテラン勢の感想は至極当たり前。そこからも一般的な既存の自動車購入経験者だけではなく、初めてクルマを買う人やクルマを生活用品のひとつととらえる層、あるいはカーシェアリングサービス(ヒョンデは日本市場での正式再販売開始以前にカーシェアリングサービスに車両を提供)でクルマの利便性に気づいた人などがターゲットであると想像できる。
同時にヒョンデは、2022年に394万台を売り上げたグローバルでの勢いをそのままに、日本でもすぐに結果を出そう……とはしていないことも伝わってくる。かつてのような派手な宣伝を打たず、大きな新車導入イベントも行っていない。淡々とビジネスを行っている印象だ。
2022年のグループ別の世界販売台数ではトヨタの1048万台、フォルクスワーゲンの826万台に次いでキアを傘下に持つヒョンデは684万台と、ルノー・日産・三菱の615万台を抜いて3位に躍り出た。ヒョンデ単体での2023年における日本を含むグローバル販売目標は432万台と、こちらはなかなかチャレンジングな数字を掲げている。
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地に足のついた事業スキーム
日本での販売目標などは公表されていない。しかし、年間数百台の販売でシェア1%程度という実績では満足していないだろうことは明白だ。
現在、ヒョンデの販売車両には、「ヘルスケア」と「スタイルケア」の2つからなる新車サービス「ヒョンデ アシュアランスプログラム」が付帯。新車登録から最初の3年間については、点検はもちろん車検とバッテリークーラントの交換、さらに外観のダメージケアまでが無償でサポートされる。スタイルケアは、車両が破損してしまった際に対象部品(バンパー、ドアミラー、フロントガラス、タイヤ最大2本)が無償(1年ごとにいずれかを1件、年間最大10万円分まで)で修理される。
2023年中には新型電動SUV「コナ エレクトリック」と、電動4ドアクーペ「アイオニック6」の2モデルが導入される見込みだ。アイオニック6は、2022年に販売が開始された「アイオニック5」譲りのプラットフォームにクーペフォルムのボディーを組み合わせた個性的なスタイルが特徴で、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーとワールドEV、ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーの3冠に輝いている。
ただ、関係者によれば、その特徴あるスタイリングが日本で認められるかどうかの最終判断を慎重に行っているとのことで、導入スケジュールや導入そのものに変更が生じる可能性も否定できない。
2022年4月に新車整備センターを愛知・豊橋に新設し、同年7月に車両の購入相談やメンテナンスを行う直営拠点「ヒョンデカスタマーエクスペリエンスセンター横浜」をオープン。現在、都市型の展示スポット「ヒョンデシティストア」を名古屋と福岡に、オートバックスセブンとの協業による拠点を京都と東京に展開している。
他の輸入車ブランドのように、街で販売店を見かけることがないので表に出づらいが、日本でのビジネスは地味ながら着実に前進している。同時に販売戦略と拠点への投資からも、地に足のついた事業スキームであることがわかる。前回のように、そう簡単には撤退しないような印象を覚える。
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グローバルで評価されるクオリティー
クルマ以上に家電のグローバル化は進んでいる。まだまだ中高年には日本ブランドしか使いたくないという人が多いかもしれない。けれども若年層では、それがどこの国のブランドかを気にする傾向が少しずつ薄れてきているという。これは今や生活インフラといってもいいスマホや、ひとりに1台といわれて久しい薄型テレビでも顕著な傾向である。その薄型テレビを例に出せば、2022年はTVSレグザ(旧東芝、現在は中国の電機メーカーであるハイセンスの傘下)が日本でのシェアトップとなり、2位がシャープ(現在は台湾の鴻海精密工業の傘下)、3位がソニーだった。
クルマにも同じようなことが起こり始めているとみる向きもある。スマホネイティブで物心ついたころからK-POPや韓流ドラマ・映画、韓国コスメに親しんでいる若い世代では、韓国や中国に対するアレルギー反応が薄いとされる。小学生のころからTikTokに動画をアップして楽しんでいる筆者のめいっ子は今年運転免許を取得できる年齢になったが、クルマを運転しようと思ったその時点でエンジン車もEVもFCEVも選べ、高い予算をつぎ込まずともカーシェアで手軽にクルマを利用できる環境に漏れなく置かれている。
カーマニアであれば愛車のメンテナンスも楽しみのひとつになるが、安心・安全に使えてメーカーが完璧にサポートしてくれるのであればそんな楽なことはないと、前述のめいっ子あたりは言いそうである。
エンタメ、デジタルデバイスときて、日本のクルマ市場でも中韓パワーが台頭しないとは言い切れない。好き嫌いは別として、アイオニック5やアイオニック6に触れると、グローバルで評価されるクオリティーを確かに感じる。
中高年が自分では選ぶことはないと思っていても、ひょっとしたら余計な先入観を持たないデジタルネイティブ世代に中韓ブランドはさほど抵抗なく受け入れられるのではないか。昭和のカーマニアの数はこれからそう簡単に増えはしないが、平成や令和生まれのカーユーザーは、今後確実に増えていくのである。
(文=櫻井健一/写真=ヒョンデモビリティジャパン、webCG/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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