ホーンの音がさまざまなのはどうしてか?
2023.09.26 あの多田哲哉のクルマQ&A日本のクルマのホーンはブザーのような音ですが、私がかつて乗っていた「プジョー306」のホーンは優しい楽器のような音色でした。メーカーによってホーンの音質が違うのはなぜでしょうか?
ホーンには、自動車の前方数mのところで音量が一定の範囲内におさまらなければならないといった法規制があります。音色の好みもあるでしょうが、そうした規制の違いが、各国のプロダクトの音の違いに出ていると思います。
日本車のホーンの音がブザーのような(あまり魅力的でない)音であるという点については、いくつか理由が挙げられます。
まず、前述のとおりホーンは法的な条件にミートするように装備するのが最重要。ホーンメーカーは標準品のラインナップを安価にそろえていて、メーカーはおのずとそれを車格に合わせて選択して使うことになるわけです。
もちろん、ダブルホーンにすれば音はよくなりますが、コストは倍増しますし重量もかさみます。そもそもホーンは、道路交通法的な見地から言えば「不必要に鳴らしてはいけない」というアイテムですから、音質・音量を上げることで商品価値をアピールするのが難しいのです。現実に、メーカー側にも「われわれが深入りしてはいけない領域ではないか」「あくまで法的に合致したものを標準装備として、あとはユーザー側にお任せしよう」というムードがあります。
さらには、物理的な要因です。ホーンは車体の一番先っぽ、つまり慣性モーメントの点で影響の大きい位置に付いています。スポーツカーともなれば「1gでも軽くしたい」と苦慮している部分に、使用頻度の低い部品を装着することには、あまり積極的になれない……。音質のためとはいえ、鼻先のホーンを大きくかさばるものにはしたくないというのが、つくり手の本音。このあたりが、凝ったホーンが使われていない理由になるかと思います。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。